ディベロッパー表紙

ディベロッパー5

リレー小説企画『ディベロッパー 復讐者』の第5弾書きましたー。(*´∀`*)

ディベロッパー4 ふぃろさん
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お誘いですよ。
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目次
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「ぐぅ…あぁぁあぁ…うぅぅううう……」

 隠れ家で低く唸り続ける俺の声が怖かったのか、いつもは我が物顔でアジトを占拠している猫のタキは、俺と入れ替わるようにガレージからいなくなってしまった。
 あるいは、彼女とのデートなのかもしれないが。

 謎の鉄仮面に斬られ内蔵にまで達していた横っ腹の傷が、赤黒い泡のようにブクブクと沸騰し、細胞が再生しているのが感覚として分かる。
 俺が読んだ再生能力を持ったコミックヒーローは、もっと早くすんなり傷口が再生していたような気がするが、どうやら俺の方は細胞が再生し傷口が塞がるまでの間、まるで焼きごてを押し当てられているような強烈な痛みに襲われるらしい。昨日から、あまりの痛さに気を失っては痛みで目が覚めるを繰り返している。

 これは、復讐の為とはいえ人の命を奪う代償なのか、それとも自分のミスで愛する妻子を死なせた報いなのか。

 くそったれのモテ男、エリックにデートの極意をレクチャーされた俺だったが、結論から言えばその日のデートは散々だった。

 リンダの叔父さん所有の七一年型 プリマス・クーダを走らせ、俺たちが向かったのはサンフランシスコ市内にある日本人街『リトルトーキョー』だった。
 サンフランシスコの市内にありながら、オリエンタルな雰囲気あふれる小さな異国として、観光客にも人気のスポットだ。

 しかし、観光スポットなんてところは、地元の人間はあまり足を運ばないもので、特に日本といえば、トヨタ・ニッサン・ホンダ・マツダ・ソニーくらいしか思い浮かばない俺がこの地に足を踏み入れたのは、生まれて初めてのことだった。

 一方のリンダにとっては、日本贔屓の叔父さんに連れられて何度も足を運んでいる馴染みの場所であり、自然、彼女が俺を案内する形になってしまう。
 彼女に引っ張られるように、見たこともない文字の看板や土産物屋。初めて食べる日本食、5段重ねのハンバーガーのようなシンボルタワーを回りながらも、俺の頭の中は彼女への告白の言葉でいっぱいで、彼女の言葉にも空返事を返す始末だった。

「ジェームズ!」
「え、なに?」
「私とのデートはそんなに退屈!?」
 気づけば、俺の前で眉を吊り上げ仁王立ちのリンダ。

「え、いや、とても楽しいよ」
「うそ! 全然上の空じゃない! 私の話なんか耳から耳へすり抜けちゃってるみたい」
「え、いや、それは……」
 君への告白のことで頭がいっぱいだったから……。

 そう、彼女に伝えようとしたとき、俺の目に飛び込んできたのはすぐ隣の日本食レストランから飛び出してくる拳銃やマシンガンを持った男たちの姿だった。
 全員見たこともない不気味な仮面を被り、俺たちとは反対方向に走っていく彼らだったが、最後尾の男がオーバースローで店に何かを投げ入れる。
 チラリと見えたそれは、映画でよく見る手榴弾によく似ていた。

「ちょっと、ジェーム……」
「リンダ!!」
 彼女の言葉を遮って慌てて手を握って引き寄せると、俺は自分が盾になるように反転し彼女を抱きしめた。
 直後、轟音と爆風に吹き飛ばされる俺たち。
 爆風の衝撃に意識が薄れる中、俺はリンダを守りたい一心で彼女をキツく抱きしめた。

 俺が目覚めると、そこは市内にある総合病院の病室で、最初に目に飛び込んできたのは真っ白な壁と天井をバックに、涙と鼻水で化粧が崩れた、グシャグシャ髪の天使だった。

 意識を覆う霧が次第に晴れ、天使の正体がリンダだと気づいたとき、俺は自分が生きていた事を悟った。
 そして、彼女にどうしても伝えたかった言葉を言ったのだ。

「結婚しよう」

 目を覚ますと、そこは真っ暗なガレージだった。
 ふと気づけば脇腹の痛みは消えている。
 そっと触ってみると、傷口は何事もなかったように綺麗に元通りになっていた。どうやら俺が気絶している間に傷の修復が完了したらしい。

「目が覚めたかジェームズ」
 不意に聞こえた声に驚き、俺は飛び起きて懐の銃を構えた。
「まてジェームズ、撃つな!オレだよ! トーマスだ!」
 モジャモジャ頭の小太りな男は、慌てて両手を上げる。

 トーマス・ブランコ。『生前』からの俺の友人で、メカオタク仲間で、このガレージの所有者だ。
「あぁ、トーマスか。驚かせるな」
 拳銃を握った手を下ろすと、トーマスはホッとしたように「コッチのセリフだ」とボヤきながら、ボロボロのソファーに腰掛けた。

「メールは送ってくれたか」
「ああ、送信元がバレないよう、プロクシも通しておいた。多分タイからメールが届いてることになってるハズさ」
 トーマスがいつものように陽気に言う。
 バケモノとして蘇った俺には、頼る場所も相手もなく、気が付けば学生のころ仲間のたまり場として使っていたこの廃ガレージにやってきた。
 市内から少し離れたこの場所なら、誰にも気づかれることはないだろうと踏んでの事だったが、運悪く居合わせたトーマスと鉢合わせしてしまったのだ。

「ジェームズ…か?」
 慌てて立ち去ろうとする俺を、トーマスが呼び止める。
 変わり果てた醜い風貌を隠すため、包帯でグルグル巻きにした俺の顔が何故わかったのかと後日尋ねると、トーマスは「顔じゃなくて動きで気づいた」のだと言った。
 どうやら俺には、自分でも気づかない癖があったらしい。
 トーマスがこの場所にいたのは、実は偶然ではなかった事も後に分かった。
 『俺』の葬式から数日後、差出人不明のダンボールと封筒が届いたのだという。封筒にはダンボールを廃ガレージに運んでほしいと『俺』名義のサイン入りのメッセージが書かれていて、最初はイタズラかと思ったが、もしかしたら生前の俺が、死ぬ前に配達を頼んだのかもと、一応ダンボールを持って数年ぶりにこの廃ガレージにやってきたのだと、トーマスは言った。

 俺がこれからやることを思えば、親友を巻き込んではマズイ。
 人の命をなんとも思わない連中相手に復讐を遂げようというのだから、俺と関わっていることが知れればトーマスの命が危険にさらされる事は重々承知していた。
 だが、それでも俺を、「復讐者ディベロッパー」ではなく「ジェームズ・バーキン」と呼んでくれる相手が欲しかったのだ。
 そうでなくては、俺は本当に狂ってしまう。

 信じてもらえないだろうが……と前置きをしてから、俺はトーマスに全てを打ち明けた上で協力を頼み、トーマスは二つ返事で引き受けてくれた。

「なに、ヤバくなったらお前を売ってトンズラするさ」
 トーマスはそう言って学生の時と同じ人懐っこい笑顔で言った。
 コイツに売られるなら、それはそれでいい。

 『D&Tシステム』の裏口にある地下駐車場に停めた、黒塗りのリムジンから降り立ったのは、サンフランシスコ全土を牛耳るギャング『カルデローニ・ファミリー』首領 ドン・カルデローニその人だった。
 周りをファミリーの人間に囲まれてエレベーターで最上階まで上がると、そこには『D&Tシステム』CEO、ダン・マッケンジーが待っていた。

「久しぶりだな、ダン」
「ああ、こうして顔を合わせるのは、本当に久しぶりだ 兄さん」

 そう言いながら2人はハグをすると、イタリア式のランチとワインの置かれたテーブルに座った。
「ナポリ出身のシェフに用意させたんだ。気に入ってもらえるといいが」
 ダンはそう言って、自らワインの蓋を切るとカルデローニのグラスに注いだ。

「ほう、バルバレスコの72年か」
 カルデローニはグラスを回し香りを楽しんでから口に含む。
「うん、美味いな」
「口に合って良かったよ」

 ダン・マッケンジーはブルーノ・カルデローニとは異母兄弟だ。姓が違うのはダンの母親がギャングだった父親、カルデローニの姓を名乗らせることに反対し、自分の姓を名乗らせたからだ。

 ダンが生まれた頃にはカルデローニは成人していたし、だから、二人に確執はない。カルデローニは16歳で父親の所属していたファミリーに入るとメキメキ頭角を現し、やがてファミリーを乗っ取ってカルデローニファミリーと名を変え、一代でサンフランシスコ全土を手中に収めた傑物だ。

 そうして磐石な組織を作りあげたカルデローニは、親子ほども年の離れた弟に目をかけ、ダンが起業してからは、影から会社を支えてきた。
 ダンの方も、カルデローニファミリー系列の会社『ブルーノホールディングス』を通じて入ってきた資金を投資などで順調に増やし、非営利団『PFW』への寄付という形でファミリーに戻すという仕組みを作り、ファミリーに貢献してきた。

「そういえば兄さん、今日はマルコは?」
「うむ、例のディベロッパーと名乗る男を追わせている。サンフランシスコも狭いようで広いからな。今のところ連絡はないが、近々カタがつくだろう。あいつは俺の部下の中でもとびきり優秀だ」
「そうか。それを聞いて安心したよ。警察や3流のタブロイド紙とは言え、マスコミも動き出しているから、兄さん達も動きが取りづらいんじゃないかと心配していたんだ」
「ふん、警察にも政治家にも『友人』は山ほどいる。それにナントカいうタブロイド紙の編集長はロシア系だというじゃないか。載せている記事は具にもつかん陰謀説ばかりだ。まともに信じる奴などいねぇさ」
「そうだね。兄さんが紹介してくれた『友人』達の協力で、会社の方も順調だ。これからも『ファミリー』の為に頑張っていくよ」
「ああ、期待してっ……!!!」

 言葉を継ごうとしたカルデローニだったが、その言葉を最後まで言うことは出来なかった。顎の下にたっぷりついたぜい肉に隠れた喉に、細く鋭いピアノ線がくい込んでいるからだ。
「グッ…アッ…」
 見開かれたカルデローニの眼球に、つい今まで人懐っこい笑顔を向けていた弟の冷たい微笑が映る。

「ただし、それは『カルデローニ』ファミリーじゃない。これからは私とマルコがファミリーを継いでいくよ」
 ダンの言葉にハッと視線を上に上げると、そこには包帯男の行方を追っているハズのマルコの姿があった。
 黒い革手袋をハメた両手に、自分の首を絞めるピアノ線が巻き付いているのを見て、カルデローニは全てを悟った。

 何とか逃れようと足掻けば足掻くほど喉に食い込んでいくピアノ線に遠くなる意識。一代でカリフォルニア全土を手中に収めた、カルデローニファミリーの首領が最後に聞いたのは、ドアの向こうで小さく鳴る無数の乾いた銃声だった。

「ブラーボー!!」
 散々もがき暴れた末に息の根が止まった、カルデローニの遺体を前に佇む2人の前に、極上のオペラでも観たように拍手をしながら現れたのは、オールバックの黒髪、時代錯誤な片眼鏡を掛けタキシード姿で口ひげを蓄えた50絡みの男、ドクター・プロトコルだった。
 その横には鉄仮面の大男『プロバイダー』が控えている。
 開け放たれたドアの向こうには、立ち込める硝煙の匂いと無数の遺体。

「なぁドクター……」
 憔悴しきった顔でマルコが口を開く。
「なぜ、俺にドンを殺らせた。そこの鉄仮面にさせれば良かったんじゃないのか?」
 マルコの言葉に、プロトコルは片眉を上げる。

「君がこの男に成り代わり『ファミリー』の長(おさ)になる男だからだ。
太古の昔より、代替わりは『父殺し』によって成し遂げられると決まっているのだ。それに、君はどのみちこの男を殺し、ファミリーを乗っ取るつもりだったのだろう?」
 プロトコルは楽しそうに目を細める。
「それはそうだが……」
 マルコが言葉に詰まると、それを引き取るようにプロトコルは言葉を続ける。

「無論、このプロバイダーなら、ドン・カルデローニを苦しませることなく一瞬であの世に送ることが出来たろう」
 と、そこで一旦言葉を切ったドクターは、並び立つダンとマルコの肩に手を置いて「だが」と顔を近づけた。
「この『父殺しの儀式』は君と、ダンによって成されなければならなかったのだ。君たちがこの傑物を超える第一歩として、その覚悟を示すことが大切なのだ」

 言っていることは滅茶苦茶で、なんの説明にもなっていない。
 だが、不思議と納得してしまう不思議な説得力が、この時代錯誤な男ドクター・プロトコルの言葉にはあった。

「君たちは見事『父殺し』の試練に打ち勝った。さぁ次は私の番だ。君たちを悩ませる憎きディベロッパーの首を、君たちに献上しよう」

 ドクター・プロトコルはそう言って、2人にニヤリと笑いかけた。

つづく

ディベロッパー4 ・目次

はーい、ここまでー。
後は、誰かよろしくおねがいしまーす!

あと、本編以外でも番外編、イラスト、音楽、動画などなど、全てのジャンルで遊んでいただけたら嬉しいですよー!(*´∀`*)ノ


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