落語の話

五代目 柳家 小さんと「時そば」の噺

ぷらすです、こんばんは。

落語の中には、食べ物を食べたり、お酒を呑んだりする演目が以外に多いです。お寿司、おにぎり、まんじゅう、お酒、お酒のつまみ、鍋物、そば、うどん等など。
もちろん、舞台の上で実際に食べたり呑んだりというわけにはいかないので、噺家さんは食べる真似、呑む真似をします。

そんな、食べ物関係の落語の名人といえば、なんと言っても五代目 柳家 小さん師匠が有名なんじゃないかと思います。
永谷園のあさげ、ひるげ、ゆうげのCMで「美味いねえ、これでインスタントかい?」って言ってたあの人です。

で、小さん師匠の食べ物ネタといえば、なんと言っても「時そば」じゃないかと思うんです。
有名な噺なので、知っている人も多いかと思いますが、どんな噺かざっくり説明すると、

ある冬の暁九つ時(午前0時頃)、屋台の二八そば屋に饒舌な客が来ます。
その客は、今日は寒いからと「しっぽくそば」(椎茸やちくわの入ったかけそば)を頼むと、世間話から入り、看板に割り箸、更にそばを食べながら器、汁、麺の細さ、具のちくわまで、とにかく何でもかんでも褒めまくる。

そうして客はそばを食べ終わり、勘定を払います。ちなみに、そばの値段は二×八で十六文と決まってます。(だから二八そばというらしいです)
「今日は細かいのしかない。間違うといけないから、ちゃんと数えておくれ」と店主の掌に、一(ひい)二(ふう)三(みい)四(よお)……と一文づつ置いていく。そして、八(やぁ)まで数えたところで、「今何時(なんどき)だい?」と店主に聞き、店主が「へい、九つです」と答えると、「十(とう)十一……」と数え、上手く一文ごまかします。

その客が帰ったあと、傍にいた冴えない男が、客が上手いこと釣り銭をごまかした事に気づき、自分も真似しようとしますが、その日は細かいお金がないので、次の日出直すことに。

翌日、小銭を持った男は、道すがら見つけた屋台のそば屋で、昨日の客の真似をしますが、そのそば屋は昨日のそば屋とは何もかも真逆で、全然上手くいかない上にそばも不味い。
それでも何とか勘定まで漕ぎ着けて、「一、二、三……」と数え始め、八まで数えたところで「いま何時(なんどき)でぇ?」と聞くと、そば屋は「へい、四つです」
男は気づかず、「五、六……」と数えて結局不味いそばを食べさせられた上に勘定も余計に取られるというオチ。

これは、「暁九つ(午前0時)」の前が「夜4つ(午後10時頃)」で、男が昨日より二時間も早い事に気づかずに真似してしまったので損をする噺なわけです。(当時の時法では、二時間で「一つ」と数えていた)


で、この噺の中で釣り銭をごまかした客が、美味そうにそばを啜るシーンがあるんですが、こういう時、噺家さんは、扇子を割り箸に見立てて、口でそばを啜る音を出して食べる真似します。

小さん師匠は、このそばを食べる真似が絶品で、ふうふうと息を吹きかけ箸(扇子)で持ち上げたそばを冷ますと、一気にズルズルズル…と、まるで本当に食べているように演じるのです。
あまりに美味しそうに食べる真似をするので、客席から拍手が起こるほどで、小さん師匠の「時そば」のあとは、寄席近くのそば屋に向かう客が大勢いたんだとか。

更に、小さん師匠が凄いのは、持ちネタの中に「うどん屋」というネタがあって、こっちでは最後の方で客が鍋焼きうどんを食べるシーンがあるんですが、「時そば」と続けて聞いてみると、啜る音が麺の細いそばと太いうどんでは音が違うんです。
しかも両方すごくリアルな音で、下手に夜中の空腹時に聞いたりしたら、食べたくて我慢できなくなるくらい。まさに名人芸ってやつですね。

こうういう食べ物絡みのネタで、笑いながら当時の食文化を知ったり、食べ物の描写や食べる様子を観ながら味の想像をするのも、古典落語の楽しみのひとつと言えるんじゃないかと思います。





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