彼女の誓い
全国から参拝に訪れる内宮さんは、正確には神宮といい全国にある神社の頂点に位置する。鬱蒼とした木々に覆われた神路山にあり、山間を縫うように清く澄んだ五十鈴川が流れている。約二千年前から変わることなく続く神事、この地域だけが時間が止まっているような静寂の杜のなかに天照大御神が鎮座されている。 日本における最上級の神で太陽神でもあり皇祖神とされる。
周りから声が…スリー・ツー・ワンわぁーお正月だ。おめでとう、明けましておめでとうなどと新年の参拝のために並んでいる人達から声があがる。
神宮の参道でタイムズスクエアのカウントダウンよろしく騒ぐのはどうかと思うが、列に並んでいた人々が動き出し玉砂利を踏む音だけになった。皆それぞれの気持ちを胸に冷たい空気に逆らい石段を上がって行く。
「久しぶりだなぁ、内宮さんの年越し参りに来たの」 「私初めて。これだけ人が出てても空気は乱れず神秘的ね。今年はどうしても来たかったの。ところで旬くんは何をお願いするの」 「お願いはしないよ。神様にお願いはしないものなんだよ」 「願い事もないのにわざわざ付き合ってくれたの」 「いやいや年越しには、はるかと一緒にいたいから。神様にはね、感謝や誓いを述べるんだ。『神に誓って』ってよく言うだろ。今年は何々に挑戦しますみたいなことかな」 「そうなんだ。お願いすることばかり考えてた」 「はるからしいな、お願いしてみたら。もしかすると気まぐれで叶えてくれるかも」 「誓いねぇ、何か難しいね」 「僕の誓いは…ウム本当難しいね。それじゃぁ、『今年ははるかのボディーガードになります』にするか」 「頼もしい!私も決めた。『今年はどんな役でも嫌がらず頑張ってやります』こんな感じでいいのかな」 「そうそう、そんな感じ、いいんじゃないかな。はるか、久しぶりに来たんだから御垣内参拝しない 」 「それなに?知らないことばかり」 「 ふつうは御正殿が直接見えないようにかけてある『みとばり』という白い布の前でお参りするんだけど、より神様の近くでお参りできるんだ。やってみる?」 「やってみるやってみる。取り敢えず旬くんと同じようにすればいいのね」
「次が番だから近くまで行こうか」 「うん、旬くん私神様に誓う言葉決めた。『旬くんと絶対に離れません。アロンアルファのように』どう」 「それは良いね。じゃあ僕もアロンアルファで。神域で冗談を話す若者をどうかお許しください」 「神様、冗談じゃないですよ。私は今までもこれからも本気です。見守って下さい」