どんな時にも虹がある ケイシー・マスグレイヴス『ゴールデン・アワー』CDレビュー (約800字)
『ゴールデン・アワー』はアメリカのカントリー・シンガー、ケイシー・マスグレイヴスが2018年に発表したアルバムです。彼女はこのアルバムでグラミー賞の最優秀アルバム賞を受賞。日本盤の出なかったファーストアルバムの頃から、彼女の音楽が大好きだったので、この受賞は嬉しかったです。
ケイシー・マスグレイヴスは声が良いです。優しく澄んだ奇麗な声で、聞いていると心の中に溜まったよどんだものが洗い流されます。天使のようなという大げさな形容を使っても、不自然ではありません。音楽はアコースティックギターの響きを生かしたものが多くて、自然でリラックスした感じがあります。
ただ歌詞は現代社会の歪みを洞察したものが多く、時々辛らつになることがあります。このアルバムに入っているHigh Horseの歌詞はまさにそんな感じで、自分のことをかっこいいと思っている男性をやんわりとからかいながら、男性上位社会の批判になっています。
このアルバムはカントリーが基調になっているのですが、さりげなくオルタナティブロックの要素が取り入れられたモダンなもので、聞いていると懐かしさを感じると同時に新しい斬新なものを聞いた心地にもなります。懐かしくて同時に新しいところもあり、ちょっと切なくてでも前向きになれるところもあるといった最良のポップミュージックです。
私がこのアルバムで一番好きな曲は最後の「レインボー」です。穏やかで胸が締め付けられるような美しいメロディーを持った曲で、初めて聞いたときは恥ずかしながら泣きました。
毎日の生活は苦しくて大変だけれど、実は頭上に虹がかかっているよ、と聞き手を励ます歌詞も素晴らしいです。
YouTubeのこの曲の動画のコメントに、「レインボー」を聞いて自殺を思いとどまったと書いている人が何人かいました。それぐらい素晴らしい曲です。よろしかったら、この曲だけでも聞いてみてください。