淵がある
私の前に、丸い深い淵がある。
能の構えが きちんととれた時に、丸い深い淵は現れる。
丸い深い淵があると
腕と腕の間の空間を、サラサラと砂や水が落ちていくみたいな感触がする。
なにかが常に落ち続けている。
きっと この淵が常にあるのが 能の身体なんだろう。
なんかさ、自分の身体を見せているんじゃなくて
この淵に映るなにかを見せているんじゃないだろうか?
そんな気がしてくる。
よくわかんないけど、淵が現れたからさ
(ちょっと 能がわかってきたのかも?)
なんて調子に乗りかけたんだけどさ
面をつけさせていただいたら、
淵が現れる身体までたどり着けなかったよ。
なんだろう?
多分、もっと身体を集約できないと、面に負ける。
もっと強い摺足ができないと、面は保てない。
人形って、うなずきの糸が切れたら死ぬんですよ。
うなずきの糸が生命線なの。
能の面にも、うなずきの糸がついている。
多分、身体全体を うなずきの糸にして面を保持している。
私の身体は、まだ うなずきの糸になれていない。
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