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理由

定期的にこの話をしておかないと
ご存知でない方が増えていくので。

僕は基本的にコーヒーを好き好んで飲みません。
コーヒーを口にするのは、お店でのクオリティチェック程度。
なので、おすすめのコーヒー屋さんなどを聞かれても
分かりません。

それを言うと
「え、じゃあなんでこのお店をやろうと思ったんですか?」
という質問が漏れなく付いてきます。

ぼちぼち長くなりますが、興味があれば読んでください。

僕は大学卒業後、今とは全く別の仕事をしていました。
が、1年も経たないうちに辞めてしまいまして。
そこで、学生時代にお世話になっていた方の元に転がり込み、カフェをやることに。
なので、そもそもコーヒーが好きでこの業界に入ったわけではないんですね。

当時は珈琲の『カ』の字も知らなかったのですが、
提供する以上、ちゃんとしたものを出したいなあと思い、
コーヒーが好きではないけれど、勉強を始めました。
その頃は『コーヒーの事』しか考えていませんでした。

数年後、とあるイタリアンレストランが
『バール』を始めるということで『バリスタ』の求人が出ていて、
自身のステップアップの為にもそちらに応募しました。

結果としては、そちらでは働くことはありませんでした。

オーナーシェフの方と色々とお話をさせていただく中で
「君は今『コーヒーの事』は詳しいかも知れないけれど、
『イタリアの事』は知らないよね?」
と言われたわけです。

それが僕の人生を大きく変えました。
すんごく単純な事なんだけど
『あーーー、エスプレッソってイタリア生まれの物なのに、
僕はイタリアの事は知らないなあ』と。

それから1年も経たないうちにIIAC(国際カフェテイスティング協会)
の研修も込みで、イタリアへ。

以前にもどこかで綴ったことがありますが、
ミラノで初めて入った人生初のバールで感じたのは
朝の喧騒の心地よさ。
その時に『朝から開ける』ことは決めました。

そして、ある程度『コーヒーの事』は知っていたつもりだったし、
『イタリアの事』を知りに来たので
カップクオリティ(エスプレッソやカプチーノが美味しいとか)
とかそんなのはどうでもよくって、
地元の人たちがバールというものをどんな風に扱っているのか
ということを中心に観察していました。

その観察を続けていると、個人的な解釈ですが
『ただコーヒーやお酒を飲みに来ている』わけではなく(もちろん飲むんだけど)、
『バールに来ること』が大事なんだと気づきました。

おそらく『バール』が無くなったら
イタリア人は死にます。
大袈裟に聞こえるかもしれませんが、
それくらい生活の中で必要とされている場所なんです。

『バールに行くこと』で生活の中の些細な豊かさを獲得し、
日々通い続け、その豊かさを保ち続けているんだなあと。

だから、僕はコーヒー屋をやりたくて始めたわけでも、
バーをやりたくて始めたわけでもなく、
『バール』をやりたくて、この店を始めたんです。

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