【1日1事例】健康格差の要因としての環境正義 #健康格差 #環境正義 #社会調査

参考文献:健康格差の要因としての環境正義
筆者:安本 晋也, 中谷 友樹
発行日:2020年
掲載元:2020年度日本地理学会春季学術大会
検索方法:インターネット
キーワード:環境正義, 健康格差, 騒音, 日照, 社会調査

【抄録】
1.研究の背景
近年、健康格差の問題が注目を集めるようになり、貧困層がその他の社会階層と比べて健康状態が劣っている傾向があることが指摘されている。健康格差の発生要因は多様であり、貧困層は「喫煙など健康に影響する行動」「医療施設の利用率」「幼児期の生活史」等において不利な立場にあることが、健康格差の原因として指摘されてきた。
・一方でO'Neill et al. (2003)は、「環境の質の配分」が健康格差を生む要因の一つとなると主張し、そのプロセスとして次の二つを挙げた。
・第一に、人々が享受する近隣環境の質(清浄な大気や静かな住環境など)が富裕な地域に多く配分され、貧しい地域では剥奪されることで、健康格差が生まれる可能性がある。
・第二に、貧困層はその他の社会階層と比べ、質の低い近隣環境に対し脆弱であるため、環境の質の剥奪に対し、貧困層の健康水準はより強く影響を受け、健康格差が拡大する危険性がある。
・しかし日本において環境の不正義が、健康格差にどのような影響を与えるかを計量的に分析した研究例は数少ない。本研究ではこの点を踏まえ、大阪府を対象に次の分析を行った。
・第一に、大阪府において居住地域の社会経済的な水準に基づく健康格差が発生してるかを調査した。
・次に、環境の質の指標として各家屋が受ける夜間の騒音と日照のデータを取得し、その配分の公平性について分析した。
・最後に、それら環境の質の配分がどのような健康影響を居住者にもたらすのかを、健康格差の視点から分析した。
2. 分析手法
・居住者の近隣環境の質の指標と健康指標のデータは、いずれも郵送質問紙調査を行って取得した。
・対象となった世帯に、住宅における夜間の騒音と日照の享受の度合いをたずね、さらに健康指標として主観的健康観と幸福感についてたずねた。
・本調査は2010年、層化無作為抽出法に基づいて180箇所の町丁目に居住する世帯を対象に行った(世帯数=2,527、回答率=約40%)。
・また、各町丁目の貧困度の指標として、失業率や高齢単独世帯割合などの貧困と関連がある国勢調査指標の重み付け合成値で定義される地理的剥奪指標を利用した。次に大阪府内のDID地区に属する町丁目を地理的剥奪指標に応じて4分位に分類し、各4分位において環境の質に応じて健康水準がどう異なって分布しているかを分析した。
3. 結果と考察
・分析の結果として、大阪府には主観的健康観と幸福感における健康格差がみられた。また、富裕な地域ほど騒音の少ない環境に住むという環境の不正義はみられたが、日照の不公平な配分はみられなかった。
・夜間の静かな環境と日照は、居住者の健康に正の影響を与えることもわかったが、その影響の大きさは地域の貧困度による違いはなかった。すなわち、静かな住環境と日照の剥奪に対し、貧困層は富裕層と比べて必ずしも脆弱ではないという結果になった。
・筆者らの過去研究では、貧困層は富裕層と比べ公園緑地への近接性の剥奪に対し脆弱であるという結果が出ており、それとは一致しない。これは公園と異なり、静かな環境や日照には代替財が少ないからと考えられる。


参考URL:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2020s/0/2020s_310/_pdf/-char/ja


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