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病み上がりの決断

1ヶ月前に購入した長野への新幹線チケット。今回は日帰りなので、最寄り駅の始発に乗っての出発だ。一番の目的は長野美術館の東山魁夷館。連作「白い馬の見える風景」を観ること。なかでも最大の作品「白馬の森」は私の人生で一番感動した絵だ。とはいえ印刷されたものしか見たことが無い。実物をこの目で見たいと思い調べたら、11月14日から展示されるということで、今回の日帰り旅を決めた。

それなのに、喉の違和感から始まり、39度の熱を出して10日間ほど仕事も休み寝込んでしまった。そして出発の前日にようやく日常生活に戻れたばかり。まだ本調子でないため予定をキャンセルするか、せめて時間を遅く出発して早めの帰宅にするかほんの少し悩んだ。そう、ほんの少し。でも、私の心は決まっていた。行く、何としても予定通り行ってあの絵を観る。

当日の朝、まだ暗い時間に支度を済ませ東京駅に向かった。早朝というより昨夜の名残を感じる夜という空気だった。新幹線乗り場に着くとまばらではあるけれど人が行き交い、“今日”なんだと実感した。

東京駅から見えた月


途中浅間山が見えるというので、座席は右側の窓側。ようやく明るくなってきた空の下、走り始めた新幹線。景色を楽しむつもりだったが、流石に眠い。大宮あたりからウトウトしては起きての繰り返し。ハッと気が付き車窓を見ると浅間山らしき山。一瞬確認して、またウトウト。タイミング良く長野駅手前で目を覚まし無事に降車した。

長野駅


長野美術館に到着。信州出身の作家の作品の展示を観て、いよいよ東山魁夷館へ。
連絡通路を渡り、はやる気持ちを抑え、深呼吸してから入った。

外から見た連絡通路


逃したくなかったⅣ期


一歩踏み入れた瞬間に「白馬の森」が目に入った、が、しかし、そこはぐっと堪えて順路に従い手前から鑑賞していった。
以前、山種美術館で観た作品もそうだったけれど、東山魁夷の作品を観ると、絵が動いて見えるのだ。風が吹いて見える、音がする、空気がピーンと張り詰めるのだ。そして、心が動くのを感じる。まさに、これが感動するってことなんだと思う。
そして、「白馬の森」の前にきた。
大丈夫だよ、安心していいよ、と言われた気がして、思わず涙が出てしまった。
この絵を目の前している今、こんなにも至福な時間は他にない。今、この瞬間を忘れたくない。そう思った。何度も、目を閉じ、開き、その瞬間を心に植え付けた。そして、またいつか会おうね、と約束した。
ひと通り見終わった後、もう一度「白馬の森」を味わい、部屋を出た。

その後はミュージアムショップへ直行。ポストカードを手に取り、図録も手に入れた。たくさんの宝物を抱え美術館をあとにした。

1人で赴き、1人で感じ、1人で温めたこの気持ち。
それをこれから先に出会う人、出来事にやわらかい光にして放ちたい。
作品の持つ力を私を通して、違う形になるけど、良い作用として放ちたい。

体調はイマイチだったけど、忘れない一日を過ごせた。

マハさんのおかげの旅がまた一つできました。

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