最悪な飲み会
最悪と思える飲み会を経験したことがある。その飲み会の話をする前に日本の通過儀礼の話をする必要がある。2023年フリーターとして過ごしながらなんとなく受けていた新卒採用の試験。ある企業でグループ面接まで進んだ。その企業は番組制作会社で面接のために飛び切りの番組企画を軽く用意してこいといった連絡が事前にあった。持前の放送作家センスで適当にあしらえて本番に向かった。
当日、控室で先に入っていた大人しそうな男(オトナシ君と呼ぶ)と軽く雑談をしかけ、盛り上がっていた。構図としては内気なオトナシ君が出来る男に紐解いていかれているくらい僕が主導権を握っていた。そこに突如現れるイキリ男。その控室の3人目として現れたのは履き違えたら死ぬまで自分をイケメンと思い込めるくらいの顔差値52くらいのネクタイもつけずに現れた男だった。彼は既に話していた僕らの会話を割って入り、関西人とカミングアウトした僕に向かって急に関西弁を喋り始めた。
僕:「え、関西出身なんですか?」
イキリ男:「いや、全然違うけど。俺、関西弁喋れるねん」
なっんじゃコイツ!!と叫びたいのをグッとこらえて、関西人も認めるくらい関西弁上手いですね、なんて面接モードでよいしょしてやった。にしても本家に対してよくその感じで来れるな。モノマネのご本人登場の逆をやってる自覚ないんか?その後、女性が1人入ってきて4人でしばらく談笑し、「ネクタイ付けてくるわ!」なんて言ってイキリ男はトイレに向かった。面接開始まではネクタイは付けない派なんです俺、みたいなムーブをかました面接慣れしてますアピールのイキリ男とそれ以外の3人で面接を迎えることとなった。
グループ面接は僕ら4人がコの字型に座り、話し合う様を横から8人ほどの面接官が見るというシステムだった。グループ面接が始まっても、イキリ男はイキリ続け、50点の笑いを面接官から取り、グループ面接で大事なポジションを全て自分が担っています顔を続け、ろくにアイデアも出してないのに上に立って仕切り続けた。根っからのせっかちの僕は低迷しているグループディスカッションに1つ意見を言った。
僕:「すみません、制限時間まであと10分なので、一旦企画を決め切った方が、、」
イキリ男:「いや、まだ時間あるので、あと5分だけ企画について話し合いませんか?焦るの分かるんですけどぉ(笑)」
なっっんじゃこいつ!!僕を窘めるように、会議を支配しているつもりだった。戦っても無駄なので、1つ身を引いて言いなりになることを選んだ。この瞬間、あ、落ちたなと感じた。その後もイキリ男は52の顔面も押し出し、面接自体は一応いい感じに終わった。ちなみに、その後時間はギリギリになったので僕の提言は未だに間違っていなかったと思っている。
面接終了した直後に、イキリ男が口火を切る。
イキリ男:「すみません、この企画を書き上げたホワイトボードなんですど、思い出に一緒に写真を撮ってもよろしいですか?(笑)」
何じゃコイツ。変な提案し出したぞ。面接で記念写真?はぁ?面接官も笑いながら、全然いいですよと言ってくれて。イキリ男を除いて、なんの仲間意識もない3人の引きつった笑顔とホワイトボードを写真に収めた。
面接官:「最後のグループディスカッションがこのグループで良かったよ」
面接官の賛辞の言葉を自分のものだけだと思っているイキリ男は嬉しそうだった。退室後、ありがとうございました。楽しかったですと何となく4人でお礼を言い合ってると。
イキリ男:「せっかくなのでこっから飲みとか、お茶とか行きます?」
もうええて、なんじゃこぃつ、、行くわけないやん、そんなn
オトナシ君:「腹減りましたね!行きますか!」
お前、そんなん言えるタイプなんかよ。
女:「せっかくなら行きましょうか?どうしましょ?」
23年も人間のフリしている僕もある程度はエキスパートだ。行きましょう!ギアチェンジして参加することにした。本音を言うと憂鬱がぶ飲み中です。面接会場がたまたま、僕のアルバイト先が近いこともあったので、この辺分かりますよ!と言うと
イキリ男:「あぁ、そう、、、あの、、俺のおすすめの中華行かない?」
オトナシ君:「行きましょう!」
謎に僕の意見はすぐ却下された。イキリ男の後を洗脳済みのオスとメスは何も考えずについていこうとしていた。帰りてぇの一心である。中華に着いてからはオトナシ君だけが酒を飲み、3人は飲まず、色々頼んでシェアする形で夕飯を共にする。ごはん中は常にイキリ男の「就活とは」みたいな謎の話。「俺、アナウンサー志望だったんだ。今地域FMでラジオパーソナリティしているんだ。」それをよいしょするオスとメス。ま、まぁいい。僕も来たものだからある程度は盛り上がりに付き合うよ。そんなことを思えたのも飲み会開始1時間まで。1時間ほど経ち、もうご飯も食べきった段階からはや40分くらい経とうとしている。にしても帰る気を一向に出さない一行。僕なりの攻撃を色々と出してみる。
「あ、もう面接開始から3時間経ったんですね。」
(誰か、帰ろうって言え!!)
「明日の予定何ですか?」
(激早予定あってくれ!!)
「結構混んできたなぁ」
(はい、「出ましょうか。」SAY!!!)
僕の攻撃は一切効かず、彼らは永遠におもんない話を続けてる。僕は意識的な変なとこをボーっと見つめて、ちょっと口を開けて見たり(オトナシ君が一瞬ビビっただけで終わった。)、急に意欲的にイキリ男の相槌を打って、急に素っ気なくしてみたり、(普通にやってる自分も怖かった。)「そうなんですねぇ~」と言葉では賛同しながら首は横に振ってみたり(これもオトナシ君が訝しく思うだけだった)、色んな策を行使してみたが、奴らは強すぎた。結局3時間ほど中華に居座っていた。
イキリ男:「LINE交換しましょ!あとで写真送りますね!」
メス:「こんなに楽しい面接初めてでした!」
オス:「僕もです!」
体の疲弊よりも精神的疲弊を抱えてその場を離れた。イキリ男に対する嫌悪はゆっくり自分に向いてくる。
あぁ、僕は変な生物だ。またやってしまった、、おそらく人間はあれが楽しいんだろ。手放しにイキリ男を褒めることが出来るんだろう。あぁ、「飲み会」は楽しいものなのではないか?まだもう少し人間のフリを練習する必要がある。強くそう思った1日だった
ちなみに、その面接は突破し、結局最終面接まで進んだ。最終面接にて社長から
「何か、君マネージャーっぽいね。」
と言われ、落とされた。
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