【特集4月号】後輩たちへ
二十代の頃、「日経WOMAN」(日経BP社)という雑誌を愛読していた。
大学生の頃だったか就職したばかりの頃だったか記憶は定かではないのだが、とにかくその雑誌を購読していた頃に、雑誌内で「妹たちへ」という特集が組まれていた。
人生の大先輩である四、五十代の女性著名人による、見開き二ページにわたるリレーエッセイだった。
そのなかでも特に印象に強いのが、作家である村山由佳先生の回だ。三回に渡って書かれた内容はとても壮絶で、だから村山先生は「ダブルファンタジー」のような作品を書かれたのだと思ったりした。
そこには、恋愛体質で男に依存してきた先生の苦しみや将来や仕事への不安が描かれており、女性ならではの生きづらさを連ねたうえで「お金の不安は取り除きなさい」という内容だったと記憶している(とても曖昧な部分もあります、申し訳ございません)
「妹たちへ」と村山由佳先生は言う。「仕事をしなさい、自立できるようになりなさい」
自分が何者であるかも曖昧だった若かりし頃の私は、そのメッセージによって背筋が伸びた。
早く大人になって働きたかった。
よく「学生時代に戻りたい」という言葉を聞くが、私はそうは思わない。勉強が苦手だったし、クラスメイトと適切な距離で関係を築く事が下手で、会話に混ざる事も容易ではなかった。
両親との関係は悪くはなかったが、両親の保護下でいる事に耐えられなかった。庇護されているという立場はひどく不自由で、だからこそ自分の力で生活できるようになったときにはようやく息を深く吸えるようになった気がした。
幼い頃、私は思った。
贅沢をしなくていい。屋根のある部屋で過ごせて、それなりに美味しい物を食べて、好きな時に好きな本を読める生活が幸せだ。
仕事は私に自由をくれた。
恋愛体質でもなければ結婚もできず、人と暮らすことすらままならない私にとって必要なのは、老後まで生き抜くための健康と経済力だ。
贅沢をしなくていい。お金持ちにならなくていい。
フリーランスや起業という言葉に憧れることも多々あるけれど、凡人の私には毎月決まったお給料をいただける会社員が合っている。
幸運なことに、私は好きだと思える仕事に出会えた。
さまざまな人達とお話している時間が楽しい。
社会人になって、ようやく私は自分の存在意義を見つけた気がした。誰かの役に立てた日は、幸せな気持ちで眠りに就ける。
仕事は、私に生活する意味を与えてくれた。
もし私が「妹たちへ」改め「後輩たちへ」とメッセージを送るのであれば、「自分に合った仕事を選びなさい」と伝えたい。
この場合の「仕事」とはお給料をもらうものに限らない。家仕事や子育て、介護、闘病だって自分をいたわる大切な仕事だ。
大人になれば、日々の大半が仕事で埋まる。
人生で自分を満たすものは何か、幸せとは何か。それらの欠片はきっと日常に転がっているだろう。
そしてそれらを探す旅の途中で、辛かったり苦しかったりした時には休んだっていい。人の幸せな形は、人の数だけあるのだ。
私自身、経験が浅く、生意気な事を申し上げている事は承知の上で、後輩たちへ。
どうか幸せになるための道を探して下さい。
その道標はきっと、自分自身でしか出せない人生の答えなのです。