失踪したことがある⑨

猛暑である。35度の日差しがギラギラする中、地元夏祭りのために景品買い出しに行ってきた。

この世知辛いご時世に町内外の皆様から集めた大切なお金を個人のセンスで使わせて頂く、それが買い出し係だ。いつの間にか景品買い出し係になって早十年くらい経つ。祭りの景品を買うコツは「自分でお金を出してまで買うのはもったいないけど、タダでもらえると嬉しい物」を選ぶことだ。

当初は単独で出かけていたが、独りで総額十万円オーバーの細々した品物を選びながら買い物するのはしんどい。数年前から後輩のKが助手で付いて来てくれる様になってからずいぶん助かっている。ありがとう。

景品買い出しは普段自分が買えないものをどんどんカートに詰めて、レジで札束を出して買い物が出来るのでちょっと気持ちがいい。あと何年この役が出来るかは分からないが、楽しみにしてくれる子どもたちがいる限りは続けていきたい。己の物欲が人の喜びになるのを見るのは楽しいものである。

肝心の夏祭りは、今のところ気まぐれな台風のせいで開催が危ぶまれている。僕が某青年部の支部長になってから祭りごとの度に雨にたたられている気がする。雨男なのかもしれない。中止になったら景品はどうしよう…。心配しても仕方がないので、当日の晴天を願う。

>>>>>

若手さんが部屋から出ていってしばらくして、引き継ぎのお巡りさんが取調室にやってきた。またもや若く、眼鏡をかけていた。心の中で眼鏡さんと呼ぼう。

「狭いところで気詰まりでしょう。タバコを吸われるなら外に出てみませんか?」眼鏡さんはやってくるなりそう言った。どうやら先ほどまでの若手さんとの引き継ぎで僕は要注意リストからは外れたらしい。世間話した甲斐があった。

眼鏡さんが付き添ってではあるが、外に出て一服してみると開放感でタバコが旨かった。ちょっと偉いさんの様な人が様子を見にきて、しばらく立ち話をした。T市の話を聞かせてもらって、僕が好きな相撲の話をした。T市には名門相撲部がある高校があって、皆さん相撲には少し詳しいらしい。

一服が終わって再び署内に戻ったが、先ほどまでの狭い取調室から、少し広い事務室のような部屋に連れていかれた。失踪者の危険人物リストから外れた瞬間であったようだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?