失踪したことがある⑦
双極性障害。いわゆる躁鬱病だ。僕の病名である。元TOKIOの山口メンバーも同じ病名らしい。大型連休にはしゃぎ過ぎ、連休明けに各団体の会議続きやらなんやらですっかり電池を使い切り、しばらく鬱が続いていた。
肉体的にもツケが回ってひどい痛風が出て、最近は療養していたせいで仕事も溜まってきた。今週辺りからまた頑張ろうとしている。
鬱状態の時は頭いっぱいにサビが湧いたような感じで何をするにも鈍くなる。呼吸が出来ない水中でずっともがいている様だ。
昨日から今度は躁状態だ。何でも出来そうな気がして焦燥感に駆られる。ここで無理をして鬱状態の時に絶望する。その繰り返しが続いているが、薬の力で何とかまだ生きてる。
今日は朝から測量へ行った。いい陽気だった。大きなシマヘビがニョロニョロしていて、夏が近いことを教えてくれていた。
汗をかいたせいか、夕方に無性にアイスが食べたくなって息子用に買ったチョコレートアイスを一本食べた。…旨すぎる!あまりの旨さにもう一本。最初の一本ほどの感動はない。何事もほどほどなのが一番美味しい思いが出来るのか。
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狭い狭い取調室だった。僕は巨漢なので余計そう感じた。ただでさえ狭い室内に他にお巡りさんが二人いた。ベテランと若手のコンビだ。どうやら僕のようなケースの取り調べは若手の育成の場にもなっているらしい。
「まずは住所と氏名と生年月日を教えてくれますか?」
ベテランさんが問う。素人モノのAVの冒頭インタビューの様だ。素直に答える。僕の答えに若手の方が手に持つ書類に記入していく。なるほど、そういう役割分担だ。
「ところで首にアザがありますね?何をしました?」
ベテランさんが唐突に問う。思わず顔を上げて目を合わす。すごい眼力だ。嘘がつけない。
「首吊りしようとしました。」
ベテランさんと若手さんが目を合わす。ベテランさんが無言で頷く。若手さんがまた記入する。なるほど、ベテランさんの洞察力が必要なんだな。納得した。
次々に質問される。失踪した理由、当日の朝からの行動、移動手段。30分程で一通りの質問が終わった。ベテランさんがこう言い残して部屋を出て行った。
「自殺しようとしたことはご家族さんに伝えないといけませんね。」
マジか…。うなだれる僕は若手さんと取調室で二人きりになった。