里菜お姉さまと苦しくエロい気持ち
高校生の頃、175Rやロードオブメジャーなど、いわゆる青春パンクバンドが大人気でした。
しかしながら自分は、クラスの陽キャたちがそれらのバンドに夢中になっているのを尻目に、昔のヴィジュアル系バンドの曲を聴き、古本屋をいくつも回ってゲットした、1992年に刊行されたYOSHIKIさんのインタビュー本『ART OF LIFE』を熟読するなどしていました。
そんな紅に染まったエンドレスレインな高校生活だったのですが、この時期、そういったヴィジュアル系バンドとはまるで逆の方向性の、とある女性歌手にもハマっていました。
愛内里菜さんです。
2000年の春にデビューし、同年の暮れにアニメ『名探偵コナン』の主題歌『恋はスリル、ショック、サスペンス』でブレイク。
パワフルな歌唱とは打って変わって、アニメ声でコテコテな関西弁を話すそのキャラクターも世の中に強く印象を残し、2010年にいったん引退されるまでに32枚のシングルと8枚のアルバムをリリースされました。
自分が追いかけていたのは2005年くらいまでで、後半の曲はたまにレンタルする程度だったのであまり知らないのですが、前半のアルバム3作、特にファーストアルバム『Be Happy』は隠れドハマリしていました。
歌詞カードに載っているタートルネックの服を着て微笑む愛内さんがめちゃくちゃ可愛くて、薄紫とピンクの中間みたいな色で構成されたジャケット全体がオシャレ。
さて、CDを再生して聴いてみると、声がめちゃくちゃ高い。女性ボーカルの中でも相当にキーが高いと思う。自分は一度もカラオケで愛内さんの曲を歌ったことがありません。歌える気がしないからです。
かといって、低い声も実はカッコよかったりする。デビュー曲『Close To Your Heart』の冒頭、「はぁぁ~、は〜〜、あ〜〜ああぁ」というアイドルっぽい声から「ランランラララン、ランランルルルン」と怪しい声に一転し、シリアスモードの歌詞に突入する感じがたまらない。というようなことを文章で書いても、原曲を知らないと何いってんだか全く伝わらないでしょうが……。
そしてなんといっても歌詞が良い。ラストの『be happy.』では、「人は関わり合って生きてるからね だれかが幸せになれば だれかに不幸が訪れる ぼくらは不幸のかげがあるからこそ 幸せを幸せと感じられる We'll be happy」と、この世の理について書かれている。
みんな幸せな世界など存在しないし、いま幸せでもそれがずっと続くとは限らないけど、だからこそ幸せを願おう。
この部分は最初の『be happy?』の歌詞の「僕らはかばいあうようにみえて 誰もが誰かの先を急ごうとするんだ 人はひとりきりじゃ生きられないと言いながらも 二人で分かち合うことさえ十分にできはしないのに Why do we want to be happy?」の解答になっているのですが、当時まだ20歳そこそこの、ちょっと前まで大阪のギャルだった人が、こんな悟りきった内容のことを歌っているの、今でも凄いと思う。
自分は世の中に対して、俺がモテないのはどう考えてもお前らが悪い、リア充爆発しろとしか思っていなかったので、もし当時かけがえのないパートナーができたとしても、彼女ができて超うれしいという感想しか抱かなかっただろうし、この幸せは誰かの不幸があって成り立っているのだなどとは考えもしなかったでしょう。
自分より5年先に成人なさっている里菜お姉さまは、こんな素晴らしい考えを貫いて生きているのかと、細く美しい指を交差させたお見麗しきジャケット写真を見て溜め息をつくばかりでした。
そんな里菜お姉さまのありがたい教えを乞うべく、彼女の新曲やアルバムが出るたびにTSUTAYAへと自転車を走らせ、1泊2日レンタルで借りて、家に帰ってカセットやMDにダビングして、その日のうちに返却するということを、その後の3年くらいずっと続けましたが、4作目のアルバム『PLAYGIRL』でそれが途切れてしまいました。
この『PLAYGIRL』というタイトルは「GIRLの最上級」という意味で付けられたそうですが、ジャケット写真はアメリカの成人向け雑誌『PLAYBOY』を想起させるようなものとなっていて、胸をはだけた艶っぽい里菜お姉さまの御姿が写っているという刺激的なもの、つまり簡単にいえばめっちゃエロかった。
ならば健全なる男子であるぷらーなは大興奮だったのではないかというと、これが実はそうではありませんでした。
別におっぱいが見えたからって嬉しかねーよとイキっているわけではなく、おっぱいが見えたのはむしろ嬉しいが(あと歌詞カード内の写真のヘソ出しも……)、そんなはしたないことをする里菜お姉さまを見たくなかったという感情が同時に渦巻いてしまったのです。
と、ここで、当時の里菜お姉さまのファンから、ちょっと待て、という声が聞こえてきました。脳内で。
ええ、存じておりますよ。実はその前の2ndアルバム『POWER OF WORDS』の時点で、里菜お姉さまはセミヌード姿を披露されていますよね。でも、そっちはエロではないのです。セミヌードだけどおっぱいは隠されているし。そもそもこのジャケット自体が某大物歌姫のアルバムのパロ……おっとこれ以上はいけねえ。
『POWER OF WORDS』の頃はまだ高校生だったのであんまり気に留めていなかったというのもあるのですが、『PLAYGIRL』が出た頃にはもうそろそろ10代も終わりかけだったので、なんかそういう知識も備わってしまっていて……ね?
次のアルバム『DELIGHT』ではエロくない元の路線に戻り、後期の里菜お姉さまは髪をショートカットにして落ち着いたルックスになっていったのですが、かつてほどはハマれず、いちばん聴いたのは『Be Happy』です。
やはりこの時期は清楚で良い。
セカンドシングル『It's crazy for you』はいかにも2000年っぽいダンスビートでハネる。「All night long with you あなたの中 埋もれて 揺り動かしてイクの!」……あれ?いま改めて歌詞を見ると、だいぶエロいなこれ……。
ああ、10代の頃の里菜お姉さまへの甘酸っぱい想いを語るはずが、苦しくエロい気持ちを語るテキストになってしまっている。どうしてこうなった。
里菜お姉さま……、愛内さんは、現在は歌手活動を再開されており、過去の曲に関しても、歌ってみた動画が公式ユーチューブにたくさん上げられています。今もなお、お美しく、高音ボイスを保っていらっしゃいます。
愛内さんはもうGIRLではなく、自分もBOYではなくなっているので、たとえ歌詞がエロかろうと落ち着いて聴ける。あ、いや、今でも14歳なんですけどね。