「明日、世界が終わる前に」

どうやら、11月27日の午前0時で、この世界は滅びてしまうらしい。

今は11月26日の朝方。平和だ。なんの変哲もない。いつものように、雀の囀りと、新聞配達のバイクの音。

近頃、寒さは更に増してきた。もうそろそろ、コートを用意しないといけないな……、って、いやいや、どうせ明日なんて来ないんだ。そんなものを用意して何になる。などと考えながらも、無意識のうちにスーツに着替えている自分に気づく。

いやいやいや、どうせ今日の仕事をどれだけ頑張っても、給料が振り込まれる前に世界は終わるのだ。給料が貰えないのに、それにどうせ明日になれば世界が終わるのにいちいち会社に行くなんて莫迦げている。

仮病を使って………いやいや、いちいち連絡などしなくて良い。ばっくれてしまえば良いんだ。それで解雇されても、どうせ世界が終わるんだから。

さて、こうなれば、もう、思い切り遊ぼう。何をしよう。

オンラインゲーム?いや、せっかくの世界滅亡前なのだ。どうせなら現実のなかで遊びたい。

カラオケ?ボーリング?お酒を呑み歩く?いや、せっかくなのだから、そんなありふれた遊びではつまらない。

友達を呼ぶ?

…………………世界が終わるのなら、もう誰とも、もう二度と会えないはずだ。

LINEなどという便利なものも、今日限りでサービス終了だ。どうせなら、連絡先は知っているけれど、ほとんど接したことのない相手と通話してみよう。

「ツー、ツー、ツー、ツー……」

通じない。まだ寝ているのか、話し中なのか、バッテリー切れなのかはわからない。しかし、思えば、世界の終わりは誰の元にも平等に訪れているのだから、ほとんど接したことのない彼を今日という日にいきなり私の遊び相手に選ぶのは、なんだか申し訳ない。

いっそのこと、世界が終わるまで、ずっと独りでいよう。どうせ友達もたいして多くないし、今日いきなり恋人ができるとも思えない。私は無造作に、スマートフォンをベッドの上に投げ捨てた。

そうだ。

私のなかにひとつ、真っ黒な発想が浮かんだ。

どうせ世界が終わるなら、犯罪行為だってしてしまおうじゃないか。


しかし、何をする?万引き?強盗?振り込め詐欺?……………お金に関連するものばかりなのは、きっと私が身も心も貧しいからだろう。

いやしかし、それらの犯罪が成功し、巨額を手に入れて、欲しいものを買い漁っても、どうせ世界は終わるのだ。

今は午前8時ごろ。すでに世界最後の日は、8時間も過ぎている。残り16時間で世界が終わる。

そう考えると、私はとても恐ろしくなった。残りたった16時間で、私が今までの人生のなかでやり残していることをすべて、いや半分ですら、補填することは不可能だろうと感じたからだ。

もう今更、何をしても無意味に思えてきた。でも、だからといって、死のうとは思わない。どうせ世界が勝手に終わらせてくれる。

何の理由もなく、私はスーツのままベッドに潜り込んだ。枕元には、さっき無造作に投げ捨てたスマートフォンがあった。

何の理由もなく、私はスマートフォンの画面を見た。トップ画面には、様々なアプリのアイコンが並んでいる。電話、メール、LINE、Twitter、FaceTime、……………こんな小さな機器が、今まで世界を見せてくれていた。その世界も、もうすぐ終わる。

note…………そうか。そんな世界もあった。もう少しで終わるけれど。ぼんやりと眺めた。

世界が終わるというのに、皆のんきに、イラストや漫画や曲やラジオや小説や日記やエッセイや詩や写真やら、を、投稿している。心なしか、いつもよりも投稿の数が遥かに多い。誰もが、世界が終わる前に、せめてもの自分の生きた証を、作品として遺そうとしているようだ。

とても虚しくて、とてもいじらしくて、どこかとても人間らしい気がした。手に持っているのは機器なのに。目にしているものはデジタル画面なのに。

ただひたすらに、このnoteという世界を旅し続けた。フォローしている人のページのコメント欄から違う人のページへ、そのページから更にまた違う人のページへ………なん時間も、なん時間も、なん時間も続けた。何も食べなくても平気だ。どうせ私が餓える前に、世界が勝手に終わらせてくれる。

なん時間経ったろう……そう我に返って、ふと時計表示を見た。

23:58

世界が終わるまで、あと2分しか残されていない。驚愕した。どうしてそんなにも長時間スマートフォンのバッテリーが保たれていたのだろうなどと考える余裕もなく、私は焦燥感にかられた。朝の無気力が嘘であったかのように、身体は火照っていた。

-最期に、最期に何か………遺ることはなくても、伝えないといけない……-

あと2分しかない。今から文字を打ち込んでテキストを完成させることはおそらく不可能だ。ならば………私は急いで、スマートフォンの写真フォルダの中から過去の自分の作品を探した。

そして23時59分59秒に、私はイメージをひとつアップした。


きっとこのイメージは、誰にも見られることはないだろう。スキもコメントもつく前に、消えてしまうだろう。

でも、世界が終わる前に、世界が動いていることの喜びを味わえた。

…………でも、次にまた似たような世界がつくられたのなら、世界が終わるまでに、綺麗な嫁と高級スポーツカーがほしい。

次の世界で、また会いましょう。


なぜかスマートフォンのバッテリーは、世界が終わった後も切れることはなく、ずっと同じ画面のままフリーズしていた。

#掌編 #コラボ #小説

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