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マスカレイドを貴女と(8/9):ラッテちゃんの素顔

初のスタジオ練習は順調だった。コージュンと僕は『マスカレイド』を何度となく演奏しているし、ラッテちゃんのコピーも完璧だった。次回からは練習曲を追加しよう。

ラッテちゃんは今日もメイド服のコスプレで決めている。ベースの持ち位置が今どき珍しいくらい低く、ガーターベルトから目を逸らす必要はない。のだが、やはり気になってしまう悲しい男の子の性。

今の僕はライヒなので心を無にして乗り切ったが、コージュンは1箇所だけ簡単なところを間違えたので、色情に惑わされたのだろう。

FINよりはまだまともに機能しているように思うが、大丈夫なのだろうか、このバンド。バンド名も決めないといけないし、ラッテちゃんの音楽嗜好もまだよくわかっていない。


スタジオから戻った後、フラジャイルに集合することにした。新バンドに関して、話し合わないといけないことがたくさんある。そして、前回みたいに店内で音を出させてもらえるかもしれない。


コージュンは僕と一緒に、まっすぐにフラジャイルへと向かった。ラッテちゃんは、いったん家に帰ってから少し遅れて来る、とのことだった。

「ラッテちゃん、ベース上手いし可愛いけど、謎だよな……。本名も明かさないし、なんとなくタメ口で喋ってるけど歳もわかんないし」

コージュンが、なんともなしに言った。確かに僕も気にはなっていたが、あのメイドコスプレと、ラッテちゃんと呼びなさいという自己紹介が強烈すぎて、本名やら年齢やらを気に留めていなかった。

それに、秘密はライヒである僕にだってあるのだから、コージュンはともかく僕がラッテちゃんの裏側を知ろうとするのは、なんとなく不公平な気がする。

しかし数分後に、その不公平が現実になる。


フラジャイルに現れた女性は、明らかにラッテちゃんではない人だった。メイド服でもなければガーターベルトも付けていない。その代わりに着ているのは、セーラー服と紺色の長いスカート。

「こんにちは、いや、はじめまして、なのでしょうか……?……霧島です」

「霧島です……?」

今はライヒなのに、動揺して、つい鸚鵡返しをしてしまった。

スーパーに勤めているあの霧島さんに、確かに少し似ているようにも思える。眼鏡を外したらこんな感じの素顔なのだろうか。ただ、霧島さんよりも明らかに幼い。セーラー服は中学校の制服だろう。ただ、声は……。

「私は、中学3年生です。将来の夢はメイドさんです。ベースはお年玉を貯めて買いました」

「……うん?」

「ベースをずっとひとりで練習していました。どうしたらバンドが作れるのかわからなくて、Twitterで検索したら、コージュンさんを見つけました」

「うん。いや、じゃあ霧島さんは……」

「私が、ラッテちゃんの正体です」

確かに、独特のキーの高い声は、まさしくラッテちゃんと同じものだ。


「憧れなんです、メイドさんというか、フリルのいっぱい付いた可愛らしいお洋服が。もともとライヒさんのファンで、マテリアルにもよく行っていたんですけど、中学生なんてほとんどいなくて。ある時、私より小さい子が会場にいるのを見つけて、仲良くなったんです。ユキちゃん、っていう子と」

「ユキ……?」

僕が思い浮かべたのは、もちろん、……。実はライブハウスに行ったことがあったのか。ラッテちゃん、いや、中学3年生の霧島さんは、こう続けた。

「ライヒさん……。あなた、ユキちゃんのお兄さんですよね?」

「……………」


しばらく、無言の時間が流れた。

ライヒがヨーセーであることを僕自身が認めるわけにはいかないが、かといって否定できる材料もない。

逆にいえば……。

無言に耐えかねるように、霧島さんが頭を下げて口を開いた。



「ごめんなさい!本当は黙っていたいと思ったんですけど、ユキちゃんが、謝りたい、って、泣いてたから!」

「えーと……」コージュンが、状況を組み立て直した。

「つまり、ラッテちゃんは中学生の霧島さんがメイドコスをした時の姿で、ラッテちゃんはヨーセーの妹のユキちゃんと知り合いで、ラッテちゃんはライヒがヨーセーなのを知ってる、と」

「そうです」

霧島さんは「エクセレント!」とは言わない。いやそんなことはどうでもいい。僕がヨーセーであることに今ここで同意すべきなのか。事実ではあるけれども、ライヒは……。


「あの、今から、マテリアルに一緒に行ってもらっていいですか?ユキちゃんと待ち合わせてるんです。きっとユキちゃんが、ぜんぶ話してくれますから」

コージュンが無言で頷いた。僕は何もできず、ただ2人の後に付くばかりだった。ヨーセーは怯えていた。僕にとってライヒは手放せない存在になったから。でも……。

霧島さんの妹?のイメージです。

次回で終わりなのですが、本当に終われんの、これ?(オイコラ作者)

『CHOCOLATE≠CIGARETTE』は後半が長すぎたので、こっちはサラッと終わらせたいと思ったのですが(あとまあ……さんざん言われていることだけどnoteで連載を読んでもらうのはなかなか難しいし)。

『マスカレイド』がどんな曲なのかについてはあえて書きません。ご自由にご想像ください。コテコテなV系チューンかもしれないし、ゴシックメタルかもしれないし、バラードかもしれないし、まさかの昭和歌謡テイストということもあり得ます。

リューグナーエンゲルの音楽性もご自由に。「リューグナーエンゲル(Lügner Engel)」はドイツ語で「うそつき天使」という意味です。ライヒたちの新バンドもたぶん、嘘とか虚飾みたいな単語が混ざるんじゃないですかね。知らんけど(作者が知らんので誰もわからない)。

FINは作中ですぐに分解する予定だったので、即終了ということでFIN。タツジさんがナイン・インチ・ネイルズのファンとかいう設定は後から考えたらいらんかったのですが、最初はラッテちゃんがマリリン・マンソンの熱狂的なファンという裏設定の伏線になるつもりでした(が、自分の知識のなさのために断念)。

ナイン・インチ・ネイルズの『FRAGILE』は自分が初めて買った洋楽のアルバムなのですが、2枚組で全23曲、通算100分超え。半分くらいはインスト。

しかもトレント・レズナー氏(このバンドは実質的にこの人のソロ)が本気で死にたいと思って引きこもり、親友のマリリン・マンソン氏と絶交した大変な時期の作品なので……まあ、めっちゃくちゃ暗い。はっきり言って最初は、なんでこんなもん買ったんだ?と思いましたが、せっかく買ったので……と聴いているうちになんだか好きになってきました。

その何年後かに『WITH TEETH』というアルバム(同じ人のバンドと思えんくらい明るい)が流行って、クラスのイキった人たちが、さも自分が見つけたみたいに騒いでいたのを遠巻きに、僕は寝ているフリをしました。それでは聴いてください。『We're In This Together』。これでもまだこのアルバムの中ではキャッチーなほうです。

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ぷらーな
サウナはたのしい。