にっき 2568.4.1~∞.∞.∞
2568年4月1日 風曜日
あれから500年以上も経ったのか、と、PCに保存してある古いインターネットの過去ログを眺めながら、感慨に耽っている。かつて、「note」や、「twitter」や、「instagram」などと呼ばれるSNSがあり、私もよく投稿していたのだ。当時は週7日で、風曜日はなかったのか。風曜日は、2390年に制定された曜日だ。当時の総理大臣であった高見沢俊彦さんの提案である。
500年が経った今では、それらのうち、どれもが存在していない。2222年に政府が発表した「にゃんこ類憐れみの令」により、インターネット上に猫の画像をアップすることは猫の肖像権侵害に当たるとされ、スラングでよく用いられた「猫テロ」という単語も道徳上よろしくないという理由で禁止された。その余波は、随筆・小説・漫画・映画・音楽などの各カルチャーにまで及び、猫を安易に用いた創作作品の製作は法律で禁じられ、かの古代の名著である夏目漱石『吾輩は猫である』は、「猫に名前がまだ無いとは何事か。猫に対する冒涜であり人間の傲慢である」との理由で発禁となった。
なんともクソつまらぬ世の中である。個人的に文章を書くことは許されているのが唯一の救いか。個人でならまだ、今のところ何を書いてもOKである。うんこちんちん。あと、医学の目覚ましい発達により、人類はみんな不老不死となった。ある意味では夢のようだが、ある意味では地獄のようだ。
2963年1月5日 冥王曜日
「風曜日」は特例であって、曜日は古来から惑星の名称にちなんで付けられていたのだが、2910年に都内在住のJ.Nさん(57歳・主婦)からの「天王星と冥王星と海王星が組み込まれていない。これは差別」というクレームにより、3星を加えた「週11曜日制」が設けられた。週なん曜日制になろうが、日本の企業は依然として週休1~2日が主流である。いくら不老不死だからといってこれは辛い。
不老不死だからといって、疲れないというわけではないのだ。うう。これではまるで生き地獄ではないか。こんな世の中に誰がした。
∞年 3.1415926535897932384日 木曜日
もう、今年が何年だったかわからなくなってしまった。いつだったか、「もう年号を数えるのが面倒くさいので、ずっと『∞』で良いのでは?」という政府の意向により、何年が経過しても「∞(いんふぃに)」という呼び方、書き方をすることとなった。しかし、そうして簡略化してしまうと、人が数字のかぞえかたを忘れてしまうのではないか、子どもたちの算数教育に影響を与えるのではないか、という危惧から、月日は円周率で数えることとなった。
∞年 3.1415926535897932384626433832795028841971693993日 海王曜日
ううむ。やはり、円周率での月日には慣れない。おかげで勉強にはなるが、書類の月日欄を書くのが実に面倒で面倒で面倒で面倒くさい。どうしても枠外にはみ出てしまう。
もうそろそろ、日本、いや地球から出ようと思う。すでにロケットは購入している。文明の発達とともに、ロケットは身近なものとなった。価格も手頃になり、今や下位モデルなら2000円程度で購入できるし、ロケット保険も格安で入れるプランがある。どこへ行こうか。ナメック星なんか良いかもしれない。ナメック星には神様がいて、かつて大魔王を生まれ変わらせていい奴にしたという伝説もある。自然も多く、のどかな星らしい。ただ、住居の形がナメクジっぽいのだけが少し嫌だ。
∞年 ∞月 ∞日 ∞曜日
もう何年が経ったのだろうか。年齢は1500までは数えた。古代の映画『無限の住人』に、「不死身って死ぬほどめんどくせぇ」という台詞があるが、まさにそれを痛感する。キム・タクという俳優が演じていただろうか。さすがに15世紀も昔のこととなると記憶が薄れてくる。15世紀前は良かった。規制過剰の波はすでに来ていたが、現在ほどではない。現在のようにタケコプターやスモールライトが日常に身近にあるわけではないが、それでも人は幸福だった。あの頃に戻りたい。
来年こそは、コツコツ貯めたお金でタイムマシンを買おう。
サウナはたのしい。