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はじめて夜中にゲームした日々
自分が小学生の頃は、初代プレイステーションの全盛期でした。
中には深夜までプレイして寝不足になる子供もいて、定期的に学校で配られるプリントのアンケートには「1日なん時間ゲームをするか」という項目があったりして、問題視されていました。
教室内では「昨日12時半までゲームしてたよ」「俺は1時過ぎまで」なんて声が聞こえました。
我が家は別にゲーム自体を禁止されてはいなかったし、実際に、『星のカービィスーパーデラックス』に同梱されていた4000円割引クーポンで買った格安のスーパーファミコンは家にありました。
ただ、居間にしかテレビがなく、すでに平成に入って10年くらい経っていたにもかかわらず、「ゲームは1日1時間」という昭和時代の名人の教えが忠実に守られていたため、長時間のプレイや深夜のプレイ(今はこのワードからふしだらなことしか連想できない嫌な大人になってしまった)はできなかったのです。
それだけに、子供の夜更かしを心配するPTAをよそに、夜中にゲームをやる、というのに一種の憧れを抱いていました。
しかしそれは叶うことなく、なぜかソ◯ーが嫌いだった親がプレステを買ってくれることもなく、何百回もカービィに瓦割りをさせたり、ポケモンの裏技を発動させまくって画面をバグまみれにしたり、金色のビーダマン目当てに限定版ボンバーマンを買ったりしているうちに、矢のごとし高速で時が流れ、気づけば自分は大学生になり、手元にはバイト代の10万円があったのでした。
それまで手にしたことのなかった大金を財布に詰め込み、いざジョーシンへ。棚いちめんに広がるパソコンたちを眺めながら……、その中でもいちばん安い、今は亡きSOTEC製のパソコンをゲットしました。
貧乏性が災いしてつい安かろう悪かろうな代物に手を出してしまったんですよね……。このパソコンは3年も経たないうちに2回の故障。1回めはメーカーサポートを受けられたけど、それ以降は有料と言われて買い換えることに。
電子機器とスマホケースとイヤホンと靴は、少し無理をしてでもお高めのものを買ったほうが良い。いずれも安物を買ってすぐにダメにしてしまった。
とはいえ初めてのマイオンリーパソコン。DAIGOさん口調で言えばMOPC。ソリティアに膨大な時間を費やしたり、無意味に大量のショートカットを作成したり、mixi廃人になったりして、楽しく愉快に過ごしていました。
ある時に、外付けのハードディスクを買おうと、京都の寺町通りの電器店に立ち寄り、ついでだからと近隣を散策しました。
この寺町通り周辺は観光地としても有名ですが、実はちょっとしたオタク街でもあって、自作パソコン用グッズを売っている店やホビーショップが建ち並んでいます。一瞬で閉店してしまいましたが、メイド喫茶もありました。
その一角に、現在は駿河屋になっているビルがあるのですが、そこはかつては、エーツーという名前のオタクショップでした。
2017年に駿河屋に切り替わって以降は入っていないので、今どんな感じの店内なのかはわかりませんが、エーツー時代はフロアの何階だったかがアダルトゲームのコーナーだったと記憶しています(曖昧)。新品も取り扱っていたかもしれませんが、確か中古ソフトがほとんどだったはず。
アダルトゲームは、基本的にパソコン向けのソフトです。つまり、MOPCを持っている自分にもプレイできるのです。
しかもMOPCは自部屋にあるので、親に監視されることもない。夜中にゲームをするという幼少の砌のささやかな夢も叶う。
大学生になって、酒も鳥貴族2時間コースもカラオケオールも覚えた自分ですが、まだエロゲは経験していない、大人の階段を昇りきれていない、ということに、はたと私は気づいたのでした。ちなみにAVを初めて借りたのもこの時期ですが、話が逸れるのでそれについてはまた今度。
「『fate』は文学」「『ToHeart2』をやったことのない男は人生の10割を損している』」「『君が望む永遠』はいいぞ」などと、オタクの友達からちょくちょくエロゲ情報を教えてもらってはいたのですが、なんとなく「人生初のエロゲは自分の意思で選びたい」という謎のプライドが芽生え、肌色が多めのパッケージをひとつひとつ手に取りながら、獲物を探すハイエナの気持ちになって考えました。
そこで最終的に決まった1本。
それは『SNOW』という作品でした。細かいことは忘れてしまったのですが、たぶん絵が綺麗だからとかそういう単純な理由と、ちょっとだけケータイで検索してみたら、わりとメジャーっぽかったからです。
どうせメジャーなのを選ぶなら、素直に友達の意見を聞いとけよ、と今なら思うのですが、当時は中二病がまだ色濃く残っていたのです。あ、でも未だに『FGO』がどんな内容なのかよくわかっていないのでまだ続いているのかもしれない。ぼく永遠の14歳。10年以上前にエロゲを買っていても14歳。
『SNOW』は名作でした。ストーリーもエロシーンも素晴らしく、まさにハイエナのごとく骨までしゃぶり尽くし、電気の消えた暗い部屋で夜な夜な涙と涎を垂れ流す、そんな日々が続きました。
もうゲームは1日1時間という親との約束を守らなくても良いので、朝でも昼でも夜でも無制限にできるはずなのですが、夜中しかやらない、という規則を勝手に自分で作りました。
翌日は1限から授業があるから夜の11時から1時までとか、翌日は土曜だしバイトもないから朝までやるぜと決意したのに速攻で寝落ち、なんてことを繰り返していたのでかなり時間がかかり、クリアできた頃には数ヶ月が過ぎていました。確か夏だったと思います。
そこに待っていたのは、よくわからない解放感と、もう『SNOW』の世界を知ってしまった、エロゲの何もかもが新鮮だったあの日には戻れないのだ、という、絶望にも似た感情でした。
窓を開けると、『SNOW』の銀世界とはまるで正反対の、暑い陽射しが照りつける夏の景色がありました。こんな天気が良い日は外に出よう。京都の寺町通り……いや、向かい側の新京極通りに行こう。
新京極通りは修学旅行の王道スポットですが、オタクショップの最大手であるアニメイトがあり、京都のオタク大学生はだいたいこの辺りをうろついています。
そして、現在は移転していますが、当時はアニメイトの奥にメロンブックスというチェーン店がありました。アニメイトが基本的に中高生のオタク向けなのに対して、メロンブックスは18歳未満は見ちゃいけない類の同人誌が中心です。
ふらふらとメロンブックスに入り、もう見慣れてしまった肌色が多めの2次元の美少女を眺めながら、何冊かお買い上げしたのでした。そして、ついでだからとエーツーにも立ち寄り、次なるエロゲを手にしたかどうかは……覚えていません。
これを書くにあたって『SNOW』をググってみたら、スマホ版もあるとのこと。名作ではあるけど、今プレイしても、あの頃の感覚にはならないだろうな。
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