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居間国男はプライスレス

カードショップから総額2660万円相当のポケモンカードが窃盗されたという事件で、そういった悪事を働く闇バイトが存在するということが明るみに出ました。

転売ヤーという単語が広まったのはここ10年くらいのことですが、まだメルカリもヤフオクもなかった自分が小学高学年の頃、まさか大人がふつうにポケモンを集めているなんて考えられなかった時代にも、高額でレアカードを買い取る謎のお兄さんがいるみたいな噂は知っていました。

とはいえ、ならば当時の自分はポケモンカードに夢中になっていたのかというと、意外なことにそうでもなかったりします。

ポケモンそのものにはドハマリしており、連続再生時間8時間のゲームボーイの電池がほとんど毎日なくなっていたので、毎日8時間以上は確実にプレイしていたし、『ポケモンいえるかな?』の歌詞はもちろんポリゴンあたりまでは暗記していたし、アニメも途中までは視ていました。

そのポリゴンが出てきた回、いわゆるポケモンショックが起きた日は、たまたま塾のテストがあって視られなかったので、大変なことが起きていると知ったのはだいぶ後で、家に来たおばあちゃんがいきなりポケモンの話をした時です。

おばあちゃんは漫画やアニメなどためにならんという昔かたぎの考え方の人で、晩年までウルトラマンと仮面ライダーの区別がついていなかったくらいなので、まさかポケモンの話が出てくるとは思わなかったのでびっくりしましたね。

そんなわけで家族ぐるみでポケモンブームの波に乗せられていた我が家で、まだ幼稚園児だった弟もたくさんのポケモンのフィギュアが集まったセットを買ってもらって狂喜乱舞、自分もプラコロというポケモンの形をしたサイコロを集めるなどしていたのですが、そのカードゲームたるポケモンカードには、ほとんど縁がありませんでした。

そもそもの発端は、オトンがそういったものに否定的だったからです。息子よりもよっぽど『ドラゴンボール』に夢中になっていたにもかかわらず、同アニメのキャラクターが刻印されたトレーディングカードのカードダスに対しては難色を示しており、ある時に何気なく「カードダスやっていい?」と訊いたところ、「あんなものに小遣いを使うな!」と激高されたことがあります。

うちは家が狭くて車も古く、遠方の旅行をすることや贅沢な食事が出ることもあまりありませんでしたが、どういうわけかおもちゃだけは無限に買ってくれて、ゲーム機を買うのにも最初はいい顔をしなかったものの、時間を決めてやるのならいいということで許してもらえました。

なので、当然のごとくカードゲームも許されるものだと思っていたら、まさかの全否定で来られたので、稚心にびっくりして、そういうものに小遣いを使うべきではないという固定観念ができてしまったのですね。

ただ、毎月のように購読していたコロコロコミックには、たまに付録としてポケモンカードが封入されていることがあったので、その数枚だけはいちおう所持していました。

中でも、『ポケモンいえるかな?』を歌っていたイマクニ?さんのカードは5枚も持っていました。

イマクニ?さんの正体は、当時から現在までポケモンカードのイラストを描いているグラフィックデザイナーの今国智章さんで、実はお偉い方なのですが、当時はそんなことは露知らず、コロコロコミック誌上では「ふしぎないきもの」という説明しかなかったので、黒い全身タイツを着て踊っている変な人、という認識。

で、なぜそのイマクニ?さんのカードばかりを持っていたのかというと、近所の子供たちが、みんなこぞってこれをくれたのです。

なぜかというととても単純な話で、はっきりいって実戦で全く使えないからです。

「自分のポケモンをこんらんにする」という、誰も得しない、何がしたいのかさっぱりわからん機能しかなく、イマクニ?さんが両手を前に出して催眠術みたいなポーズを取っているのもまるで意味不明。

つまりは、周りの連中に要らないカードを押し付けられただけだったのですが、ポケモンカードのルールがそもそもわかっていなかった自分は、イマクニ?カードをたくさん持っていることを誇りに思っていました。

その頃の自分は先述の『ポケモンいえるかな?』にハマっていたほか、ノートに「居間国男」なる人物が主人公のクソマンガを描いていて、いつも全身タイツを着ているとか、相手を混乱させるのが得意とか、完全にイマクニ?氏をパロったキャラクターを作り出しており、もはやイマクニ?氏のファンだったからです。

かつて『ポケモンいえるかな?』の歌詞を一生懸命おぼえた小学生男子は何百万人もいたでしょうが、イマクニ?氏の本名や年齢や身長や趣味などのプロフィールを勝手に妄想していた奴はたぶん自分だけだと思う。

なので、イマクニ?氏のカードを持っているということは、推しのアイドルの生写真を持っていることと同義であり、実際に財布の中に大事に仕舞っていました。

現在のこのカードは、メル○リで投げ売りみたいな値段を付けられていっぱい放流されていますが、自分の脳内の引き出しには、どうな高額なカードよりも価値のある状態で眠っています。

それは、どんな転売ヤーにも盗めません。いつの間にか飽きて打ち切りになった居間国男のクソマンガとともに。

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ぷらーな
サウナはたのしい。