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夏は三ツ矢サイダー

ひたすら同じ自販機の写真を撮り続ける、「私は毎日(のように)自動販売機の写真を撮っています。こめんなさい」というブログがあります。というか、ありました。

2005年から2017年までの13年間に亘って更新されていた長寿ブログでしたが、被写体の自販機が2017年の夏に撤去されてしまいました。作者さんはその後もインスタグラムで別の自販機の写真をアップし続けておられますが、その自販機のブログに関しては、被写体の撤去とともに更新が終了。

しかしながら、今でもアーカイブを閲覧することは可能で、2000年代の半ばから平成末期までの自販機の飲料の変遷を窺い知れるようになっています。

たとえば、ブログスタート時の2005年8月の写真を見ると、缶コーヒーが全体の3分の2以上を占めていることがわかります。

その下にペットボトルの飲料が並んでいるのですが、現在の主流である500mlサイズは、アクエリアスとお茶(画像では銘柄が特定できず)のみ。他はすべて小さいサイズ。あと、コカ・コーラが缶のものしかなく、この時期は缶コーラのほうが主流であったようだ。

そして、現在はどこのコンビニでも見かけるコカ・コーラ社の主力商品「い・ろ・は・す」がこの世に存在せず、綾鷹はまだ選ばれていないし、ペットボトルのやかんの麦茶も発明されていない。2005年はほぼ20年前であるという事実を痛感させられます。

健康ドリンク系がいっさいないのも興味深い。自販機のジュースなんてジャンキーのためのものという認識だったのではなかろうか。無糖とかカフェイン控えめとかの文句がついた商品もなさげ。

しかし、思えばもっと昔の自販機は、もっとジャンキーさが全面に出ていたような気がする。

2005年には影を潜めていたようですが、かつて自販機には、2リットルサイズのコカ・コーラやファンタがラインナップされているのが定番でした。

量が多いぶん値段も高く、そもそも持ち運びに向いていないので、子供の自分が買うことはありませんでしたが、あんな巨大なコカ・コーラやファンタが家にあったら、さぞかしパーティー気分なんでしょうなあ、と、あの頃の自分としては、見ているだけで胸が高まったものでした。

今もスーパーなどでは巨大コーラや巨大ファンタが売られていますが、今ではあまり長く見ていると、胸が焼けそうになります。巨大コーラや巨大ファンタでのパーティーは、若いうちにやっておいたほうがいい。

巨大ハイボールのパーティーも……、あ、それは今でもたまにやってるわ。というか、それをやるせいで巨大コーラや巨大ファンタが飲めなくなっとるんですな。

というのはともかくとして、まだ巨大ハイボールというかそもそもお酒が呑めなかった頃に、家にあると最もテンションが上がる飲料といえば、三ツ矢サイダーでした。

特に、夏の三ツ矢サイダーはなんかめっちゃアガる。三ツ矢サイダーって、その存在そのものが「夏」という感じがする。汗が滴りまくった顔で、あのシュワシュワした炭酸をゴクゴク飲む爽快感は、コーラやファンタとも、ポカリや桃の天然水とも違う。

コーラやファンタは味がディープすぎるし、ポカリは喉越しが優しすぎるし、桃の天然水はなんだかヒューヒューしてしまう。三ツ矢サイダーの程好い刺激がちょうどいい。

土曜日の昼は吉本新喜劇、という、現在も続く大阪シティの王道スタイルは、ミナミから遠い北のベッドタウンの当時の我が家でも根付いており、チャーリー浜さんや山田花子さんを視ながらテーブルを囲っていました。

そして、週末だけはなぜか、2リットルの巨大な三ツ矢サイダーを親がスーパーで買ってくるので、それを昼食のお供にするのが定番でした。

三ツ矢サイダーがたくさん入っている容器が机の上に置いてあるというだけでテンションがアゲアゲですが、これをコップに注ぐ時が実にヒートアップする。炭酸の泡が下から上へとフワフワと溢れ出すのが、父上が瓶からコップへと注ぐビールのそれに似ていて、なんだか大人っぽい気分になる。

そして、それを一気にゴクゴク飲み干す。缶ビールのCMに自分が出演しているような気分で。アサヒ!スーパードルァァァイ!ではなく、これは三ツ矢サイダーなのですが、メーカーは同じなので問題ない。

スーパードルァァァイ!のイッキはその10年後くらいにやりましたが、三ツ矢サイダーのイッキもなかなか酔えました。しかも三ツ矢サイダーのイッキは翌日になって胃が逆流したりしないので、今にして思えば健康にとても良いのかもしれない。

かの宮沢賢治先生も三ツ矢サイダーを愛飲されていたという話があります。

有名な詩『雨ニモマケズ』の作中には「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ」とあり、これだけを読むと質素でストイックな食生活をしていたように思えますが、別に食事制限を行っていたわけではなく、実際は蕎麦屋に足しげく通っていた時期もあり、そこで当時としては高級品の三ツ矢サイダーを注文するのが定番だったそう。

100年後の今では三ツ矢サイダーは自販機の飲料の中でもむしろ安価な部類。いくらでも飲める。さっそく自販機で1本だけ買って飲んでみようと、炎天下で意気揚々とイッキしたところ。

めちゃくちゃゲップが出ました。30代になったら三ツ矢サイダーのイッキでも胃が逆流するからやめたほうがいい。というか、三ツ矢サイダーって炭酸が抜けた後のほうが美味くね?(なおお題の趣旨……)

それはそれとして、ファンタやコーラは別にいいので、自販機にミネラルウォーターの2リットルボトルを置いてほしい。

サウナはたのしい。