短編小説 たのしい食卓

男が三人の兄弟だが、洋子はこんな生活が嫌ではなかった。むしろ誇らしく思っていた。一番上は責任感があり、仕事で留守がちな正樹にかわってよく下の子の面倒を見てくれる。真ん中は要領がよく甘え上手、一番下はマイペース。同じように育てても性格はかわってくるということを洋子は子育てをしてみて初めて知った。  

食事の時間は戦場と言っても過言ではなく、洋子は座ることも出来ない。キッチンカウンターの上に生姜焼きの大皿を置く。子供たちはいつの間に食卓についていて、生姜焼きの大皿をテーブルの上へ乗せる。
「お母さん、早く、ごはん」
「待ってね、手が離せないの」
ポテトサラダを混ぜながら答えると、席を立って兄弟順番に炊飯ジャーの前に並ぶ。一升炊きの炊飯器である。各々山のようにご飯をよそるとまた席について生姜焼きでご飯をかき込む。ポテトサラダが出来あがり、それをテーブルにのせれば手が三本伸びてくる。
「お汁も飲んでね」
洋子は味噌汁をキッチンカウンターの上へ置いた。上の兄がおかわりついでに三人に味噌汁を配る。
肉は一種類では足りない。洋子は唐揚げを揚げ始める。パチパチという音がかわるのを待っていると真ん中が炊飯ジャーの前におかわりにやって来てそれに気付く。
「今日は唐揚げだよ!」
嬉しそうに食卓へ声を投げるとおかわりをよそってまた、食べ始める。  

「ただいま」
正樹が帰ってきた。お帰りの声もそこそこに二回目の唐揚げを洋子は揚げる。
「今日は生姜焼きと唐揚げ」
一番下が嬉しそうに正樹に告げる。正樹は三人をぼんやり眺めている。
「はい、唐揚げできたよ」
「やった」
上の兄がキッチンカウンターへやってきて、唐揚げの大皿を受け取る。わっ、と手が伸びる。
ようやく一息ついた洋子は正樹に聞いた。
「お風呂が先?ご飯が先?」
「うん」
正樹は食卓を見ていた。もりもりと食べる三人である。食卓はどんどん空になっていく。
「俺の分、あるの?」
洋子は三人に声をかけた。
「お父さんとお母さんの分も残してね」
ふふ、と洋子は笑う。こんな風に平らげて貰って喜ばない親がいるであろうか。時々はお茶漬けの夕飯になってしまう事もあって、洋子はその度作る量を増やしてきた。
正樹は真顔で呟いた。
「こいつらこうやって俺らの人生、食い尽くしていくんじゃないか?」
洋子が見ている事に気付いた正樹はそのままの顔でバスルームへと消えていった。
食卓では生姜焼きが、ポテトサラダが、唐揚げが消えてゆく。

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