短編小説 プレゼントフォーユー
裕子は悩んでいた。プレゼントを送りたいが何を贈ったらいいのかわからないのである。プレゼントは交換する事になっている。しかし、彼には欲しいものが沢山あるのである。
裕子は悩んでいた。自分に欲しいものが無いことを。コスメなら少し欲しい。本でもいい。コートでも。ただ、こだわりの部分というか、細かい好みが彼に伝わるとは思えなかった。
「一緒に買いに行くのはだめ?」
彼に聞いたことがある。それでは贈った感が無いし、サプライズが楽しいのだ、と彼は言った。それからはプレゼントについて悩む日々である。
正直に言うと、サプライズは嬉しくないのである。自分の目で見て、ピンときたもの以外を所有するのは嫌だ。しかしそれを正直に言えば、彼は悲しむだろう。お金をポンと渡して「好きな物買ってきなよ」と言うかもしれない。不機嫌な顔をしながら。それを想像すると、プレゼント交換が忌まわしく思えてくる。
裕子はプレゼントを選ぶのが苦手である。相手の事を考えれば考えるほど、何を買ったら良いのか分からなくなる。だから、何を欲しがっているのか大体つかめたらフィーリングでパッと買う。後で使ってもらえるかなどは考えない。買えなくなるからである。
裕子へのプレゼントもそうであって欲しかった。包みを開ける瞬間の緊張、分けて食べられるものだった時の安堵。大袈裟に喜ぶのは難しいことだ。
彼には何でも話したいなんて思ってはいない。ただ、私がサプライズを嫌がっているという事だけは伝わって欲しかった。プレゼントならしたいのだ。彼に私からの贈り物。素敵な事じゃないか。
まず裕子は彼への贈り物を考えることにした。財布、ゲーム、靴、キャンプグッズ。彼ははたして何を一番買わなそうなのか考える。考えてもわからないので、店に行ってみる。無難なのはゲームである。ソフトは彼がチョイスすればいいからである。しかし、はたして喜んでもらえるかはわからない。裕子は少し悩んで、男性用の基礎化粧品を買った。ニキビを気にする彼が頭に浮かんだのだった。
彼に会うのは日曜日である。ひと仕事終えた気になって裕子はコーヒーショップに入った。甘いものでも食べたかった。
ドーナツを齧り、コーヒーに口をつけるとハッとした。彼は私のプレゼントに悩むのではないかと。何でも嬉しいから悩まないで、直感で、パッと決めて欲しい!そんなふうに思って、裕子は思わず微笑んだ。
早く彼に会いたかった。