短編小説 大きな公園へ

「欲張っちゃった」
芽衣子はため息をつくとベビーカーを押す手を止めた。片手にはスーパーの袋、ベビーカーを押す手にはさらにトイレットペーパーを抱えていた。
今日は天気がよかったのでいつもの公園ではなく歩いて30分弱の大きな運動場にやって来た。マンネリ化した毎日でこうした気分転換はとても芽衣子の心を癒してくれた。拓斗もはしゃいで大きな敷地を走り回り、疲れたのか家に着く前にお昼寝を始めた。
そこで欲がでた。運動場の前には行き慣れないスーパーがあったのである。本音を言えばもっと買いたかったほどスーパーでの買い物は楽しかった。見慣れない調味料、特売のお肉、幼児用のジュースは何種類もあり眠った拓斗を起こして一緒に選びたいくらいだった。  

帰りの事を忘れた。芽衣子はもう一度ため息をつくとベビーカーを再び押し始めた。
お昼を食べさせる前に拓斗を眠らせてしまったな、と思う。おやつを食べさせるのをとりやめなくては、夕飯を食べてくれない。夕飯は家族が揃う少ない場なのでどうしても食べさせたかった。
残った家事を思い出す。洗濯物を取り込んで、風呂場を洗って、さっき買った特売の肉をから揚げにする。
眠っているので拓斗は重い。ベビーカーをのぞき込むとやはり可愛いと思う。特に眠っている子供は天使のようだとも。
拓斗を産んでからうまく戻らない体重を減らすチャンスだと思うことにする。ウォーキングダイエットである。芽衣子は気合いをいれてベビーカーを押してゆく。
「はぁ、しんどい」
拓斗を追いかけて走り回った後なので気合いとは裏腹に進む速度はゆっくりである。トイレットペーパーを持ち直す。手に食い込むので持ちにくい。
悠斗が居ればな、と仕事に勤しむ夫の事を思う。拓斗と二人きりになると時々悠斗のことを思う。赤ちゃんの頃は頻繁に悠斗の事を思った。今は芽衣子も強くなってきたのか思い出すのは献立を考える時くらいのものである。  

こんな風に育てていくのかなと思う。いや、こんな風に育ててもらっていくのかなと思う。あと少しで我が家に到着できると思った頃、拓斗が小さな声をあげる。起きてしまったと思った。拓斗は寝起きにぐずるのだ。
一度荷物を地面に置いて拓斗を抱き上げる。ベビーカーの中に入れ違いに荷物を乗せる。
「拓斗、今日楽しかったね」
芽衣子はベビーカーを押しながら拓斗に笑いかける。拓斗は機嫌が悪く芽衣子に顔を擦りつけてくる。
汗の匂いと同時に不思議な甘い匂いがする。芽衣子はその匂いを嗅ぎながらベビーカーを少しづつ押して家路を急ぐ。

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