短編小説 彼は今日、留守にします。

彼に同窓会のお知らせがくる時期がやってきた。ひとりぼっちが好きな私と違って彼には友達が多かった。LINEで幹事から連絡があってからの彼はとても優しい。
けれどその日帰って来ても明け方なのだと思うと、私の心は憂鬱だった。ひとり好きなのに、寂しがり屋。矛盾した性格を持て余していた。  

当日オシャレをした彼は行ってきます、と玄関先で私に軽くキスをした。思わず行かないで、と縋ってしまいそうになったがこんな甘いキス久しぶりで余韻に浸っていたかった。私はてのひらをグーパーして彼を見送る。
YouTubeを見ながらご飯はピザを頼んだ。Lでは大きいかなと思ったが、彼が帰った時お腹が空いていればピザを喜ぶと思った。
メイク動画もダイエット動画も気になるものは見つくしてしまった。彼は今頃盛り上がっているんだろうなとぼんやり思う。私は寝た。ダブルベッドに一人で。  

翌日起きたのは10時頃だった。彼が帰った痕跡は無く私は拍子抜けした。残ったピザを一枚温めて食べた。ぼそぼそで美味しくはなかった。
スマホを見る。彼からの連絡はない。
「どれだけ盛り上がってるのよ」
声に出して呟いても彼はいない。私は本屋にでも出かけようと着替え、メイクをする気力も湧かず結局家から出られなかった。  

彼が帰ったのは夕方だった。やけによそよそしい態度が気になったが、昨日とったピザを勧めた。彼はガツガツと音がするくらいピザを急いで頬張った。私はその様が微笑ましくて軽く笑った。
彼は恥ずかしそうに髪の毛をかきあげる。首筋に虫刺されのあとを見つけた。  

元カノも友達に含むんだと思うとおかしくておかしくて、私は彼の首筋を指さして笑った。
彼は口元をティッシュで拭き、そんなに笑うことないだろと言った。こんなに滑稽な出来事にはそうそう遭遇できるものではない。私は彼に前から抱きつくように座ると首筋に唇を寄せた。そしてキスマークを舐め、甘噛みし、歯型がつくように噛んだ。  

彼は痛って、と言いながら私を突き飛ばした。痛いのは私の心の方である。痛みに耐えながら目を閉じていると、彼は壊れた玩具みたいに大声で怒鳴り出した。訝しむ私を見下ろす彼はまだ私が気づいていないと信じている。
お芝居にのるかそるか、それは彼の弁明次第である。
「一人にして、悪かったよ」
彼は時々私の心をぎゅっと掴むようなことを言う。私はピザのゴミを片付ける。彼はこれから、私に優しくするだろう。その優しさに溺れていいのはきっと、私一人だけなのだ。

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