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アニメビジネスで収益を上げるということ

 アニメ産業は割と目立っている産業である。みんな割と見ているし、アニメが割合好きだったり、それなりに見るという人は20年前に比べると大きく増えただろう。
 そもそも深夜アニメのスキームが定着したのは1990年代後半以降。その頃10代後半だった人たちは、今は45~50歳程度でそれ以上の世代はあまりアニメを見てこなかった世代となる。それがそのまま年齢が持ち上がっていって、結果として幅広い年代で楽しまれるコンテンツになったというイメージだ。
 今回はそんなアニメのビジネス的側面から改めてアニメビジネスについて考えてみたいと思う。

基本的な統計データなど

 ビジネスを語る上で、市場の話は欠かせず、そうなると統計データが必要になってくる。アニメ市場については日本動画協会が毎年産業レポートを作っていてサマリーは誰でも見ることができる。
 ただ、このデータは外からアニメ産業全体を俯瞰してみるにはいいデータだと思うのだが、委員会組成して展開しているアニメビジネスをどうするべきかというのを論じるには微妙に使い勝手が悪い……。
 なので統計的裏付けのあまりない肌感覚ベースの話を交えて持論を展開していくことになる。まぁ、ネットに落ちている戯言の1つだと思ってみていただきたい。

収益モデルの変遷

 今回、テレビアニメを考える際に基本は深夜アニメのビジネスモデルをベースに話を展開をしていきたい。
 昭和の時代の夕方アニメのように、TV局が企画制作し、広告を収入源として番組として成立させるアニメは、現在ではかなりの少数派で、今のアニメビジネスの展望を語る上ではあまりそぐわないからだ。
 深夜アニメビジネスのもともとはOVAのビジネスと近縁で、1990年代後半から2000年代初頭の深夜アニメビジネスは、パッケージ販売収入がその9割以上を占めていた。あとはごくわずかな番販収入と、商品許諾収入がある程度。
 その後、パッケージがどんどん売れなくなっていって、かといってPPV(個別課金モデル)による配信はそれほど伸びず、収益的に厳しい時期があった。パチンコによる商品化収益が支えだった時期もわずかにあった。その頃、アニメは本当に労力の割には儲からないなーと思った覚えがある。それでもメディアミックスがされ続けていたのは、アニメ放映することによって、小説やマンガを大きく売り伸ばすことができたからだ。
 その後、SVOD(定額見放題モデル)が台頭してきて、プラットホーム間競争が非常に烈しくなり、その結果としてコンテンツ需要が高まりそれで収入が増えているのが現在の状況となっている。
 今では、もちろん作品によって割合はけっこうかわるが、総合すると海外販売が5割近くを占め、国内配信3割、他2割といった構成比率のイメージになっている。

制作費の変遷

 アニメ制作費はここ数年で一気に高騰している。物価上昇もあるので何ともだが、その昔1話あたり1500万/話程度だったものが、最近は最低でも2000万/話以上、クオリティの高いものは5000~6000万/話のような作品もあるような状況になっている。
 クオリティが高くても人気が出るとは限らないが、クオリティが低いと、たたかれ、こき下ろされ、ケチョンケチョンになるか、完全に無反応になる世の中なので、作品によっては高リスク高リターンを狙いに行く。
 1クールで10~12話。制作費のほかに宣伝費等もあるので最低1クール3億~3.5億はかかるビジネスになっている。
 よくアニメーターは薄給でブラック労働しているので、もっと還元するべきだという論も聞く。が、それは半分間違っていて半分あってる。確かに薄給で鬼のような作業量をこなさなければ生きていけないような人もいる。一方で1000万を軽く超える年収を稼ぐアニメーターもいる。マンガ家がそうであるように、小説家がそうであるように、ゲームクリエイターがそうであるように、結構個人差が大きい。
 前述の通り制作費は急激に上昇していて、スタジオに入るお金は確実に増えている、全体クオリティが上がっているので手間が増えている面もあるだろうが、誰でもできる、それこそAIでも可能な作業の単価はどんどん下がり、その人でなければできないような作業の単価は上がっている。
 スタジオだって儲かっているところはきちんと大きく利益を上げているが、儲けたお金を社員やアニメーターにあまり還元してない会社だっていっぱいある。ufotableの近藤社長による脱税事件はまだ記憶に新しいだろう。億単位の金を脱税できるということは、つまり利益はその3倍程度はあるということで、利益というのはつまり社員の給与等を払った後の残りであるから、給与を上げる余地はそれなりにあるはずだ。

閑話休題:アニメスタジオの困窮?

 一方でアニメスタジオの困窮の話は昔から結構出ている。例えば先日以下のようなレポートが出ていた。

 制作費がインフレしている事実とこの記事には隔たりがあり、そもそもこの日本総研のレポートもどれだけきちんと最近の状況調べてるの? という感じがする。イメージで書いてやしないだろうか? それとも私の見えている範囲が狭いだけなのかもしれないが…。

 現在、KADOKAWAやアニプレックスなどがどんどんアニメ制作スタジオを買収している。2024年5月にはサイエンスSARUを東宝が、6月にはStudio 3HZをアニプレックス系列のA1ピクチャーズが、7月には動画工房をKADOKAWAが買収したと、ニュースが立て続けに出ていた。その背景には制作ラインをきちんと確保したいという各アニメ制作会社の思惑がある。そうでもしなければ制作ラインが確保できないような奪い合いになっており、つまり、売り手側であるスタジオは、それなりな実力があれば十分に収益が確保できる市場環境にあるはずだ。
 もちろん実力のないスタジオなどは選択肢として選ばれず困窮するということはあるかもしれない。が、それはクリエイティブ系ではどんな産業でもある話である。

 そしてもう1点、アニメスタジオが困窮しがちな理由がある。それは、方向性の違いによる分離独立が多いこと。だ。
 一般的には、力の小さい会社は大きな会社にM&Aされていき、その結果業界の淘汰が進んで交渉力のある大きな会社が残り、取引先との条件が改善されていくという過程を経て相場が安定することが多い。実際にアニメスタジオもある程度大きな会社はある。
 一方で、そこで働いているアニメーターが考え方の違いなどの理由で、数人で新しいスタジオを起こすというようなことは日常茶飯事にある。この辺りは出版業界や音楽業界なども同じようなケースは多いのだが、アニメーションは共同作業であるにも関わらず結構多い。そういって独立する会社は当たり前だが交渉力も資金力も乏しく、場合によっては計画性すらない場合もある。なんせ経営者じゃなくて、クリエーター気質の人が多い。そうやって小さい会社ばかりになって困窮するというのも、アニメ産業が困窮しているイメージに拍車をかけているように思う。

 さらにもう1点、原作を作る能力が弱いこともアニメスタジオの力関係に関係しているように思う。自分たちのオリジナル作品で売れれば、それで利益を稼げるし、そうでなくとも企画と実力で逆に有利な条件で制作幹事会社や配信会社などと交渉が可能になる。
 例えばフロムソフトウェアというゲームスタジオがある。彼らは現状、日本は自社パブリッシュだが、海外でのパブリッシュは他社と組んで行っている。そして開発費の多くはそのパートナーであるパブリッシャーが支払っているケースが多いだろう。エルデンリングも基本的にはバンダイナムコがメインパブリッシャーだったし、SEKIROはアクティビジョンがメインパブリッシャーだった。だが、彼らが困窮したという話はついぞ聞いたことはなく、むしろパブリッシャーを選べる立場にあるだろうことは想像に難くない。
 それは素晴らしいオリジナルを作る能力があり、プレゼン力があり、実績があるからだ。
 そのあたりを京都アニメーションは解決するために文庫レーベルと賞を作って原作を確保しようとしたわけで、戦略としてはとても正しいと思う。 

5億をどうやって稼ぐか

 さて、話を戻そう。アニメをビジネスとして考えて利益を上げようとすると、3.5億をペイして利益を上げる金額、つまり5億くらいの金額をどうやって稼ぎだすかという話になる。先に述べた通り、今は海外が大きく、国内配信、商品化などで売上を作っている。
 海外については主に海外配信事業者に対する許諾になり、商品化はゲーム化などのウェイトが大きい。どちらも地域を限定しない許諾になるケースが多く、そのためこれ以上はなかなか広がらない。
 アニメの権利の中であまり活用されてないのは、海外の商品化、特にグッズの許諾で、そこで大きく売上を作れているケースはあまり見たことが無い。アジア圏ならまだしも、北米、欧州圏ではグッズを作っているのはあまり見たことが無い。
 アニメグッズはコンベンション等で売るのがせいぜいで、狭い日本とは違って世界は広く、物流のことを考えると足が出るといったところだろうか。気楽にそこらのショップに置くという真似はそうそうできそうもない。
 その証左としてアニメイトは北米のロサンゼルスに店舗があるが、他は基本的には台湾、韓国、中国、タイだ。
 たぶん、北米や欧州にはアニメ好きはもちろんいるが、どちらかと言えば少数派で、地理的に散らばっているのだろう。だからこそ、コンベンションなどで一同に集まってようやく商売になる。1980年代ぐらいの日本と同じような感じだろうか。
 ただ、製作委員会からすればアニメグッズというのは、手間の割にはそれほど大きな利益にならない。1商品で何千個も作るような商品はあまりないし、単価もそれほど高くない。生産した金額の●%とかって金額でロイヤリティが入ってくるだけで、監修や素材のやり取りの手間を考えると、本当に小さい儲けを積み重ねているイメージだ。唯一、フィギュアは単価が高く、そこそこの数がはけるので、ある程度の規模が稼げるイメージだ。

何で稼げるのか

 これからアニメ業界を目指す人は、売上をさらに伸ばすために何ができるかを真剣に考える必要がある。どこで何を売るのか、新しい市場か新しい商品を見つける必要がある。
 人口と可処分所得が大きくなったインドは市場としては魅力的で、昨年あたりからクランチロールが本気で攻略に乗り出している感はある。
 アニメビジネスを展開している側からすれば、本来であれば配信事業者が群雄割拠してくれた方が競争が発生して儲かるが、強い会社がただ会員を増やすだけでは、逆に買いたたかれることになるだろう。
 そして今、クランチロールの会員数は1300万人ほどだという。大した数だと思うが、全世界(中国除く)で、ALLアニメでかかってその数だ。ちなみにエルデンリングは2500万本以上を売っているらしいので、その半分に満たない。そしてヴァロラントのアクティブプレイヤーは2300万人だそうだ。有名なゲームではあるが、ゲームを普段やらない人は、おそらく名前もあまり知らない人感じのタイトルだろうと思が、そのプレイヤーの半分だ。
 つまり、アニメの規模感はまだまだ小さい。そしてファンは世界に散らばって存在している。その認識は持った上で、新しい売上を考えていく必要があると私は思っている。

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