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日本の本の市場の大きさを改めて認識してみる

 以前書いた気がしていたが、さらっと見直したところ書いていなかったので、改めて日本の出版市場の大きさを俯瞰してみようと思う。

 ベースとなる数字はこちら

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/downloadfiles/report/shoten-chousa.pdf

 経産省さんが「書店活性化プロジェクト」をやっていて、その議論の前提となる各国比較を公開してくれている。
 ただ、市場規模の推移に着目をしていて、国別に比較できる情報にはなっていないので、それをベースとして各所から情報を集めてとりあえず比較してみた。(テキストで書いたら読みにくかったので、表を埋め込んでしまう。)
 

各国出版市場規模比較

 それぞれの国でコミックが入っていたり、何かが抜けていたりといったようなことはあるかもしれない。
 本当におおざっくりと通貨単位を合わせて規模比較をしたのが上記なのでそのつもりで見てほしい。
 市場規模は年間の規模なので、日本では1人当たり、1年間で0.85ドルを何らかの出版物の購入に充てているという形になる。

 ちなみに、上記市場規模については、一番上に書いている経産省さんの調査書のほか、あちこちの記事なども合わせて補完している。例えばドイツの規模は経産省の調査書を見る限り、単位が千ユーロなので2021年は9,630千ユーロ=963万ユーロになるが、そんな小さいわきゃないよなと調べたところ、下記記事に、96億ユーロというような記載があり、単位が千ユーロというのが間違いで百万ユーロなんだなと確認する。というような感じだ。

 フランスの規模はこちら

中国の規模はこちら

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2023/72218cac73449251/publication.pdf

インドの規模はこちら


日本は小さくなったとはいえ、それでも売れている方なのか?

 日本はコミック・雑誌を除くと、1人当たり0.34ドルの市場で、アメリカ0.89、ドイツ1.18に比べるとかなり小さい。が、中国の0.11ドル、インドの0.08ドル、韓国の0.02ドルに比べるとはるかに大きいのがわかる。
 コミックを加えると、0.85ドルとなり、アメリカやフランスに近い数字になる。意外なのは韓国で、韓国は非常に小さい。もしかしたらWebtoonとかが入っていなかったりするのかもしれない…。
 日本の出版市場は97年ごろまでこの倍近くあったし、ドル円レートも120円前後だったと思うので、日本の市場はかなり大きかったと言える。正確に比較するには、購買力平価とか、ビックマック算をするべきなのかもだけど……。
 現在、日本の書籍の内、とりわけコミックを除く文章系の市場はかなり落ちてきているが、従来の大きさこそむしろ特筆して大きかったのが、世界的な平準に近づいていると言えるのかもしれない。

 アメリカもアメコミがあったり、フランスもバンドデシネがあったりする中のドイツの数字なので、そのあたりを考えるとドイツの市場が相当大きいように見える。
 ドイツ語圏という語圏で見るとオーストリアとか、オランダの一部を含めてけっこう広いはずなのでそのあたりの語圏人口は多いのかもしれない。

ドイツでは一体何が売れているのか?

 では、ドイツでは一体どんな本が売れているのか? という疑問がムクムクわいてきたので2023年のベストセラーを調べてみた。こういうのを簡単に調べられるようになったのはとてもありがたく…Google翻訳様いつもありがとう。

1,Asterix 40: Die Weiße Iris
勇敢なガリア人を描いた人気コミックシリーズの第 40 巻
→コミック

2,Sebastian Fitzek: Die Einladung
雪に覆われたアルプスの人里離れた山間のホテルでの同窓会への招待状を描いた悪夢のようなサイコスリラー
→小説(サイコスリラー)

3,Stefanie Stahl: Das Kind in dir muss Heimat finden
(ほぼ)すべての問題を解決する鍵:新たに得た信頼を通じて幸せな関係を築くために、経験した侮辱の影響を克服するためのアドバイス。
→実用書というかセラピストの本

4,James Clear: Die 1%-Methode
習慣形成の第一人者による、生物学、心理学、神経科学に基づいた科学に基づいたアドバイス。
→実用書

5,Prinz Harry: Reserve
完全に率直かつ正直に本人によって語られたハリー王子の物語
→ノンフィクション

6,Lucinda Riley und Harry Whittaker: Atlas - Die Geschichte von Pa Salt
世界的に人気のある「セブン・シスターズ」シリーズの最高の完結編
→小説(ミステリー)

7,Dr. med. Sheila de Liz: Woman on Fire - Alles über die fabelhaften Wechseljahre
経験豊富な婦人科医による、有益で勇気づけられる、楽しい更年期障害ガイド。
→実用書

8,Johanna E. Kappel: Positive Psychologie - Grübeln stoppen, Gelassenheit lernen und Positiv Denken
絶え間ない心配や疑いに終止符を打ち、ポジティブな思考、落ち着き、より強い自尊心に関するエクササイズを通じて、人生を再び幸せにするためのベストセラーガイド。
→実用書

9,Sebastian Fitzek: Elternabend
自動車泥棒と気候活動家が警察から逃走中、保護者会の最中に乱入し、順番を守るために自発的に数人の親の役を演じなければならないという、失敗を描いた賢明なコメディー。
→小説(コメディ)

10,Rita Falk: Steckerlfischfiasko
村の象徴的な警察官フランツ・エーバーホーファーが登場する奇妙な地方犯罪スリラー。
→小説(スリラー)

 以上が1~10位だ。思ったよりなんか精神的な悩みにお答えする実用書が多い。そして、小説はミステリーとスリラー。
 思ったより悩みが深いところが見えてしまったが、内容が完全に大人寄りで、大人が本を読んでいる雰囲気が見える。

 ちなみに、日本の2023年ベストセラーは以下(日販より)

1、変な家2
2、大ピンチずかん2
3、大ピンチずかん
4、変な家
5、成瀬は天下を取りに行く
6、WORLD SEIKYO VOL.4
7、変な絵
8、頭のいい人が話す前に考えていること
9、パンどろぼうとほっかほっカー
10、TOEIC L&R TEST 出る単特急 金のフレーズ

 ということで、大ピンチずかんとか、パンどろぼうとか、児童書がいくつも入っているところに、大人が本をあんまり読んでない雰囲気がうかがえる……。さらに「変な家」シリーズは映画とマンガが人気の火付け役になったものだし、「成瀬~」は本屋大賞受賞作で、そういった外部要因で見ている感じの浮動票が入ってランキングを形成しているような雰囲気。

 こうやって見ると、ドイツは実用書市場が大きいのかもしれず、小説市場の広さは出版市場だけを見てもわからないのかもしれない。
 ただ、ドイツでスリラーが売れていたり、日本でも「変な家」が売れていたりと、「怖いもの」がなんとなく共通して売れ筋なのかもしれない。

特別に大きく売れている小説の話と人口のパワー

 日本で「三体」がシリーズ100万部を突破したことは記憶に新しい、三体は「X」まで含めると6冊あるので、1冊あたり平均は16万部ちょい。普通最初の巻が一番売れるので、1巻目が30万部とか40万部といった感じだろうか?
 本屋大賞の「成瀬~」は受賞を受けて25万部増刷して41万5000部だったようなので、店頭の消化具合はわからないが、やっぱり30万部~40万部といった感じなんだろうと思う。

 SFと青春小説では層も全然違うが、現在、小説を日本で最大限売った時の目安はそのあたりなのかもしれない。

 「三体」は20か国以上に翻訳され、すべて累計すると3000万部以上だそうだ。だが、記事によると中国国内が2100万部だそうなので、大部分が中国国内で売れていることになる。

 人口が非常に多いこともあって、浮動層は非常に大きく、中国国内のコンテンツ戦略の押し出しもあってだと思うが、非常に大きな数字だ。
 人口が多い国は爆発的な結果を出す可能性がある。中国は政策的に日本のコンテンツ、特に出版物は規制が強くて入りにくいが、インドなどをターゲットにもっと売り込みをするべきなのかもしれないと改めて思わされた。


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