vol.6 欲望は満たされた――準需要飽和は人々の幸福感まで奪い去る
皆さんこんにちは!今日も、お越しいただきありがとうございます。
前回は、供給側―企業の視点から、日本経済市場が「準完全競争」の状態である、ということをお話ししてきました。今回は、需要側―消費者の視点からお話ししていきたいと思います!
物への欲望が満たされた今
たゆまぬ企業努力によって「準完全競争」が達成されたことで、今や、私たちは質の高い財やサービスを安く手に入れることができるようになりました。かつてあったモノへの欲望は、満たされたのです。
完全に需要が飽和することはないために、これを「準」需要飽和状態と呼んでいます。
ここで、需要飽和とは、その名の通り需要が溢れ、欲しい物がない状態を表しています。ここで注意してほしいことは、欲しい物が無い=「モノへの欲望が失われた」のでは無く、「モノへの欲望が満たされた」という点です。
なぜ「準」需要飽和としているかというと、生活必需品に対する需要は既に満たされた一方で、ぜいたく品に対する需要は多くが満たされている、といった状況だからです。
「新しい洋服が欲しい!」「美味しいものが食べたい!!」
こういった欲求や需要は、限りなく永遠です。
ここではそれが問題なのではなくて、私たちが既に質の高い財・サービスを手の届く価格で享受できていて、もはや過去のような超過需要が存在しないということが問題なのです。
Q . 技術は人々を幸せにするか
日々技術開発が行われ、新製品が発表される。実は、日常から質の高い財・サービスが安価に手に入る日本では、それらから得られる満足感はそれほど高くありません。
こちらのランキングをご覧ください👇
これは、『世界価値観調査(World Values Survey)』のデータを基にした、「科学技術の進歩は人類の利益になるか」という問いに対する回答のランキングです(高橋、2003、pp.182-183の抜粋・加工、『関経連レポート』より引用)。
皆さんは、このランキングを見て驚きを感じましたか?それとも、うんうん、自分もそう思う!と納得しましたか?
ランキング上位の国々は、多くの若者が科学技術の開発に興味を持ち、その技術進歩が実際に高い売上の伸びや利益に繋がっているために、“YES”の割合が非常に高い結果になっています。
一方日本はというと、64ヶ国中最下位。
①すでに科学技術が進歩して高止まりの状況にあること、②その進歩が実際に自分たちの生活に影響を及ぼしているという実感が薄いことから、結果として“YES”の割合が20%強という結果になっています。
利益が上がること≠幸福?
これまでは、利益があがること≒幸福という相関関係があったからこそ、「利益をあげよう!」という動機が働いていました。
頑張って働いて、会社の利益を上げて、自分にも還元されて、幸福を感じられていたのです。
しかし、「主観的幸福感」の逓減により、利益が上がること≠幸福になってしまい、「利益を上げよう!」という動機が生まれるメカニズムが壊れてしまいました。
主観的幸福感:肯定的なものから否定的なものまで、人々が自分の生活について行うあらゆるの評価と、人々が自身の経験に対して示す感情的反応を含む良好な精神状態。(参考:「OECD 主観的幸福を測る」)
こちらの図表を見てください👇
黒い棒線は単位当たりの純利益(P)、茶色い棒線はPを獲得するのに必要な売上高、薄緑の棒線はPを獲得するのに必要な犠牲(環境・社会コスト含む)、赤色の曲線はPに対する主観的幸福の増幅量を表しています。
この図表から言えることは、2つあります。1つ目は、今や経済と技術が成熟したから、P(純利益)を獲得するために必要な犠牲(環境や人々の精神的犠牲)が、以前より増えた、ということ。
2つ目は、以前は冷蔵庫やテレビを言うことで生活がガラッと楽になったけれど、今はテレビが4Kから8Kになったところでそこまで変わらない。基本的な需要が簡単に満たされるようになったからこそ、主観的幸福度はそこまで上がらない、ということ。
この2つを併せると、今は売上も利益も上がらないが、技術が発達したことで簡単に基本的需要は満たされる社会。そのために、犠牲だけは多く、得られる幸福は少ない現状がある、ということがわかります。
もはや上がらない利益を上げるために、頑張るつもりにもならない。なのに、従業員は上司に言われて、営業をして、つらい。そのような社会になってしまったことは大きな問題です。
もはや利益≒幸福ではない中働くのが辛いし、自分たちの給料の犠牲の上に、株主への富が成り立っている。こうした問題をはらんでいる“準需要飽和”は現代日本の大きな特徴であり、退行が進んで取り返しのつかないことになる前に、新しい制度にシフトしていかなければなりません。
次回は👇
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