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「ごめんね」より「ありがとう」を

「生きていてごめんなさい」
「存在しているのが申し訳ない」
という気持ちが、私は学生時代からずっとあった。

社会人になってからもその思いは変わらなかった。
ささいなことで、自分が相手に多大な迷惑をかけたように感じる。
自分はもとから何の役にも立たないゴミクズだから、期待される役割をなんとかこなすことで、価値ある人間に擬態しようと思った。

気がついたら、
「申し訳ありません」
「すみません」と、
何かにつけて息をするように謝っていた。

そんなある日、取引先のある女性と知り合った。
かなり上の役職の人で、私の母親よりも年上。

数ヶ月仕事上のやり取りをしてから、
その人が何か微妙な顔をしていることに気づいた。
『何かやらかしてしまった?』と、一気に不安になった。

でも、その人から言われたのは全く想像していない言葉だった。
「あなたはそんなにいちいち謝らなくていいのよ」と、一言だけだった。

その瞬間ぐっと胸が苦しくなって、泣きそうになって、自分でもどんな気持ちなのか分からなくなった。

しばらくたって1人になって考えてみたら、
私はあのとき、嬉しかったんだと思った。
社会人になってから、自分が、会社でも家庭でも「期待される役割をこなすだけの駒」で、「どのくらい上手くやれるかで価値が決まる」と感じていた。
だから、「この人は私を1人の人間として見てくれている」という感覚になって、凄く嬉しかった。

それからは、「ごめんなさい」より「ありがとう」を言えるように、できるだけ気を付けている。