【春弦サビ小説】あかうまさん『能登復興プロジェクト』へのリスペクト小説
先月の【春とギター】音楽パートでは、音楽や歌詞を堪能させていただきました。自分の中の流行に振り回される私は、今は現在小説モードに入っているようです。一昨日スイッチが入り、『短編小説集』と『note創作大賞:提出長編』の準備を進めています。
note創作大賞は14万文字までOKとのことだったので、4年前に人生で初めて書いた13万文字のSF恋愛小説を、修正して出したいなあと思っています。ちなみにこれも自分のオリジナル曲から生まれた物語ですね。長丁場になりそうですが、何とか形にしたいと意欲をあげています!
また、『短編小説集』は今年2月に初kindle出版したものですが、なんだか読み直したら全然納得ができなかったので、今は一度取り下げをし、修正している最中です。
この短編集は1~2年前につくった5編をまとめたものです。近日中に再度出版したいと思っています。
さて、前置きが長くなりましたが、私も【春弦サビ小説】に参加いたします。
先ほど話しました短編集の中に、石川県能登の珠洲市にある伝説、『恋路物語』を題材に作ったものがあります。
今回の【春とギター】で、あかうまさんが『能登の復興プロジェクト』で楽曲制作をされていたので、能登の観光復興に関連付けられればいいなと思いました。
実際の短編は11000文字。その中の冒頭1000文字を切り抜いてこちらに貼らせていただきます。
『恋の路』(石川県 珠洲市 恋路海岸の伝承)/ 夏野計画(PJ)
楽器の音のしない軽音サークルの練習部屋は、主(あるじ)のいないうち捨てられた城に似ている。
かつての繁栄。舞踏会の喧騒。熱い恋の物語。
埃っぽい部屋を侵食するように、せわしない蝉の声がガラス窓を通り抜け、八月の強烈な太陽が私をじりじりと焼いている。
ガラス窓を背にする私の目の前には健次(けんじ)が立っている。健次がその場所をどいてくれれば、日の当たらないところに移動できるのに。
暑さでぼんやりとした頭。その中にある見たこともない自分の大脳に、私の耳は騒ぎ立てる蝉の鳴き声をせっせと届けていた。
耳を両手でふさげばセミの鳴き声も健次の声も聞こえなくなるのだろうか。それとも結局、この目が健次の口の動きを追ってしまうのだろうか。
健次に一言、「どいて」と言って、何も聞かず何も見ず、椅子の上に置いたリュックを取って、今すぐ部屋を出ればいい。
私の理性はそう告げていた。でもどうせ私の身体はそのようには動かない。私の脳は今日も『思考』と『行動』を一致させてはくれないだろう。ここから今すぐ逃げたいと思いながら、まるで植物が身動きもせず光と水を吸収するように、ここにあるすべてを根こそぎ感じ取ろうとしてる。
「志乃(しの)ちゃんマジだって。俺、清史郎(きよしろう)とユウカちゃんがホテルに入って行くところを見たんだって」
ありえない。あの清史郎がそんなことをするはずがない。
でも次の瞬間、私の目は、「これ証拠、見てよ」と健次が差し出さすスマホの画面を見ていた。
健次の差し出した画面は、正午の太陽の光を反射して、うっすらと色を浮かびあげるだけだ。少し顔の角度を変え、目を細めると、そこには見慣れたマリンブルーのサマージャケットを羽織った清史郎の後姿があり、その隣にはすらりと背の高いショートカットの女性が写っていた。女性がユウカちゃんかまではわからなかったけど、その二つの後姿は、ラブホテルに入っていく一組の男女のものだった。
「この間、志乃ちゃんが来なかったサークルの飲み会の時あったじゃん。その時の二人の行動が怪しかったから、志乃ちゃんのためにもと、二人を何となく見張ってたんだ。そしたら二人は隠れるように道玄坂のラブホ街の方に行っちゃってさ……どう思う?」
脳と心は同じ入れ物なのだろうか。それとも別物なのだろうか。渦巻くような黒い感情はあるのに、私はそれを言葉にできなかった。前頭葉は健次が質問をしていることだけは理解をしていた。何か言わなければ……でも何といえばいいんだろう? 今この瞬間、この汚く濁った気持ちを外に出すことができれば、何かが変わるんだろうか?
結局、私が何も言わず健次を避けるように前に進むと、健次はまるで英国紳士のように軽く両手をあげ、私の通り道を作った。私は健次の横を通り抜け、窓の光が届かない日陰の中に入った。そのまま部屋から出ていけばいいのに、私の足はそこにとどまった。窓から離れたはずなのに、外からの蝉の声が一層大きくなったような気がした。
蝉のへばりつくような愛の合唱を聞きながら、私は初めて清史郎の部屋に泊まった日のことを思い出していた。
それは今日みたい湿度の高く息苦しい、暑い暑い夏の日だった。
『恋の路』(石川県 珠洲市 恋路海岸の伝承)より1部抜粋
【春弦サビ小説】応募要項
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