回復期リハビリ病棟-実績指数の管理-
2019年4月に書いたアクセス数1位の記事です。
現在の制度では実績指数などの基準は違いますが、管理方法としては今でも十分応用できます。今後アップデートした記事を書きたいと思っています。
平成30年診療報酬改定で大きなインパクトがあったのが、回復期リハビリテーション病棟のアウトカム評価がより厳しくなったことだと思います。
私が勤めている病院でも「回復期リハビリテーション病棟入院料1を算定する」という経営陣の決定があったので、リハビリ科としては様々なことに取り組む必要がありました。
もっとも重要なのは 実績指数を「37」をクリアする ことで、これを維持するには細かい管理が必要となってきます。
平成最後の診療報酬改定から1年が経ちました。今回は「実績指数」にスポットを当てて、その管理方法やアイデアをご紹介しながら 回復期リハビリ病棟の管理 について考えてみたいと思います。
回復期リハビリテーション入院料と実績指数
まず回復期リハビリテーション入院料の算定要件を簡単に確認しておきます。
図より「入院料1~6」が設定されており、もっとも報酬が高い「入院料1」を算定するには、施設基準として以下のものがあります。
医療専門職の配置人数
栄養評価(新規)
365日リハビリの提供など
加えて、以下の回復期リハ病棟の機能評価が算定要件にあります。
重症患者の受け入れ
重症患者の回復率
在宅復帰率
実績指数
ここで「実績指数」という指標が出てきます。
これは「回復期病棟入院中にいかに効率よくADLを向上できたか」をみる指標になります。
計算式の部分に注目すると、実績指数とは「退院時のFIM運動項目の利得」を「退院までの回復期在籍日数/疾患別の回復期算定上限日数」で除したものになります。
例えば「運動器リハビリテーション対象患者が、回復期リハ病棟で45日間のリハビリを行い退院した。FIM運動項目の得点が入棟時の40点から60点に向上した」
この場合
「退院時のFIM運動項目の利得」=60-40=20
「退院までの回復期在籍日数/疾患別の回復期算定上限日数」=45÷90=0.5
したがって実績指数は 20÷0.5=40 達成!! となります。
このように「いかに短期間でFIM運動項目の得点を上げるか」がポイントになります。
そして「入院料1」を算定するには3か月間の実績指数平均が「37」をクリアしている必要があります。
この「37」という数字は結構シビアでして、上記のケースで「退院日が5日延びた」としたら実績指数は達成できなくなります。
20÷(50÷90)= 36.3636… 達成ならず><
このように微妙な調整が入るので、管理の仕方にも工夫が必要になってきます。
管理① 疾患特性を考える
実績指数を高く維持する方法として、大きくADL向上が見込める患者の回復期病棟への入棟を早めることが挙げられます。
回復期への入棟が早ければ急性期の患者に近い状態になるので、その分だけ入棟時のFIM得点は下がります。そこからFIM得点を爆上げできる患者であれば、実績指数が3桁をいくことも珍しくありません。
それを実現しやすい疾患として、病棟管理をしている方であれば既にあるあるになっていますが、「脊柱圧迫骨折」が挙げられます。
圧迫骨折の発症時は痛みで動きが取れないため、FIM得点もかなり低くなります。しかし痛みが治まってくれば、大体1カ月後には最低でも歩行器や杖でトイレが自立している方が多いかと思います。
短期間でFIM利得を大きく稼げるケースの代表例です。
他には少しハードルが上がりますが、下肢骨折の手術後などで「免荷状態であるケース」も対象になります。免荷期間であれば、やはりFIM得点は低く抑えられます。その後大きくADL向上が見込めるかどうかは、受傷前の活動性や現段階での身体機能・認知面の評価をきちんとすれば判断できます。
また逆にADL向上が難しい、もしくは時間がかかってしまいやすいのは「廃用症候群」になります。もちろんケースによりますし、整形や脳血管の患者でもそういう方もいます。ただ、廃用症候群の方々はベースとなる身体機能が低く、大きな回復が見込めないことが多いようです。こういったケースは、この後述べる「除外対象」とする対応をとります。
管理② 除外対象者の厳選
実績指数の算出は回復期病棟の全患者が対象ではなく、まとめて除外にできる条件がいくつかあります。
除外できる患者数は、当月の回復期入院患者の1/3(10名入棟したら3名)までで、以下のいずれかに該当する患者は除外対象となります。
①FIM運動項目が76点以上または20点以下
②FIM認知項目が24点以下
③年齢が80歳以上
④高次脳機能障害の患者が過去6カ月の退棟患者の40%を超える場合は、高次脳機能障害の患者を全て除外できる
⑤在棟中にFIM運動項目の得点が1週間で10点以上低下した場合、低下の直前に退棟したものと見なすことができる
※この他に「在棟中に回復期リハビリテーション病棟入院料を一度も算定しなかった患者」「在棟中に死亡した患者」は自動的に除外されます。
このように人数制限はありますが、FIM運動項目の利得が多く見込めない患者を対象として除外することができます。したがって管理者としては、当月の回復期入棟した患者の 除外選定 が必須となります。月によっては除外対象となりやすいケースが多数入棟してくる事もあります。
その時は、回復経過を注意深く観察しながら、リハビリ担当者に退院時のADLを最低限どこまで引き上げることが出来るか(実績指数を含めて)を早期に報告してもらいます。
具体的には簡易的に実績指数を計算できる式をExcelに作り、いつでも算出できるようにしておきます。こうしておくことで、スタッフは実績指数を計算する機会が増えます。本来は管理者が把握・コントロールするものですが、スタッフにもFIM利得と在棟日数の関係を身近なものとして捉えてもらう事で管理のしやすさがかなり違ってきます。
加えて、実績指数という数字だけだと目標がわかりにくいので、「2カ月以内にADLが見守りと軽介助が混在しているような状態(大体FIM運動項目55~65点)にできるか」などと聞くことで担当者に大まかなADLのイメージと目標を示す事もできます。
こうした情報を基に除外対象者を月末に選定していきます。しかしこれだけではなく、実績指数の算出対象者の管理も重要となってきます。
管理③ リハビリ計画の管理
言うまでもなく、回復期入棟から退院までのリハビリ計画はとても重要です。そのため当院では、以下のようなリハビリ計画表というものを担当者に作成してもらっています。
これは入院期間60日バージョンですが、リハビリ計画に合わせて30日~150日まで用意してあります。これを入棟から2週から1カ月ぐらいの間に作成してもらいます。
入棟時からの回復経過を見て、その後の見込みを判断しながら、バックグラウンドの状況や介護力の把握、家屋調査や介護保険サービスなどの調整の進め方をアドバイスすることができます。
述べてきた除外対象者の判断とリハビリ計画の管理をしておけば、それほど大きく実績指数の見込みから外れることはありません。しかし前提として病棟との協力体制は欠かせないので、多職種連携は重要なポイントになるのは間違いありません。
まとめ
今後、回復期リハビリテーション病棟への風当たりはますます強くなることが予想されます。
しっかりとした病棟機能としてのアウトカムを示すことができなければ、それは自然淘汰の道へと続きます。医療費削減という厳しい環境下では生き残れないのです。
回復期リハビリ病棟の至上命題である「在宅復帰」と「ADL向上」を達成するためには、ただリハビリの知識・技術が高いだけでは到底無理です。
そこには、患者・家族や病棟でのマネジメント能力がとても大切になってきます。
「平成」も終わり、間もなく「令和」という新たな時代に入ります。
「令月」という言葉がありますが、「何かを始めるには良い月」という意味があるそうです。
結果が出せる強いリハビリ病棟をつくるために、病棟管理を見直す良いタイミングなのではないでしょうか。
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