ヒトを3つの神経システムで説明する
ヒトは毎日、朝起きて食事をとり、学校や仕事に行き、余暇を楽しみ、疲れたら眠ります。時には怒ったり、泣いたりすることもあります。また排泄行動も忘れてはいけません。
そういった、人間ならではの行動はどういった脳のシステムが関わっているのでしょう。
今回は脳血管リハを学び始めた方々に向け、小難しい内容をざっくり3つに分けて脳内の神経システムを説明していきます。
①生きていく上で必要なシステム(基底核ー脳幹系)
高草木 薫 「大脳基底核による運動の制御」より 一部改変
まず人間らしい行動をするためには「生存すること」が大前提になります。
それには、呼吸・嚥下・咀嚼・排泄などに加え、歩行や姿勢の制御が必要となります。(姿勢反射や筋緊張のコントロール)
これら生存に必要な機能は「生得的な運動パターン」と呼ばれ、「基底核ー脳幹」で制御されてるシステムになります。(基底核ー脳幹系と呼ばれる)
脳幹は呼吸や体温調節の中枢があり、生命維持の要となっているのは学生時代に学んだことがあるかと思います。
理学療法士として脳卒中の患者さんへの歩行アプローチを行う場合、この「生得的なパターン」でコントロールされている自動的な歩行や姿勢の制御の知識が必須となります。
②情動行動のシステム
2つ目は、人間の本能的な感情から行動に移す場合の脳のシステムです。
例えば、人間は危険が差し迫った時は、必ず回避行動をとります。そういった、とっさに出る行動がこのシステムになります。
このシステムは辺縁系や視床下部から情報が脳幹に送られて、行動が発現されます。
情動行動の特徴は、これを誘発する刺激が何であっても「定型的な運動パターン(歩行動作や筋緊張亢進)」が起こる事です。
驚いて回避・防御したり、逃げ出す、というような危険から身を守る時は、大体同じような動きになりますよね。
このシステムもある意味生きていくには必要なシステムであるとも言えますね。
③随意的な運動や行動(大脳皮質ー基底核ループ)
3つめは言葉通り、ヒトが手を伸ばして物つかんだり、行きたいと思う方向に歩き出すというような随意的な運動をするシステムです。
これには大脳皮質で生成される認知情報や記憶や意志が必要になってきます。そのため大脳皮質ー基底核ループには、大まかに運動ループと認知ループがあり、随意運動における運動と認知面をコントロールしています。
理学療法士の視点として重要な事
ヒトの行動を極々簡単に3つの神経システムで説明してきましたが、なぜ理学療法士としてこの事を知る必要があるのでしょう?
それは、ヒトの行動が「随意的に行われる場合」と「自動的に(オートに)行われる場合」があり、それぞれの役割を担っている脳内システムが存在している事がとても重要だからです。
脳卒中患者のリハビリをする時に、皆さんはまず何を考えるでしょうか?
まず「障害された部位がどこなのか」を確認すると思います。
その場所が、
「生得的に備わっている自動的な運動システム」
「随意的な運動システム」
「情動行動に関わるシステム」
のどこにあたるのかによって、アプローチ方法が大きく変わってきます。
歩行アプローチで例を挙げますと、脳卒中患者の歩行障害は、脳幹よりも中枢の大脳半球から基底核周辺の病変で引き起こされることが多いです。つまり脳幹以下のシステムは残存している事が多いのです。
そのような場合、「しっかりと足を挙げて、ゆっくり歩きましょう」というような随意的な歩行システムに働きかけるような指導方法では、患者さんの歩行は一向によくなりません。
そうではなくこの場合、自動的な歩行システムに働きかけるアプローチを行うことがセオリーです。
障害された脳内システムの残存機能を有効に使い、そこから脳の可塑性を引き出していくことがとても重要なのです。
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