短下肢装具について、それぞれの特徴、適応基準、判断基準となる評価や下肢の状態を詳細に解説します。
継ぎ手付き装具
特徴:足関節部に機械的な継ぎ手を持つ装具です。底背屈の可動域を調整可能で、必要に応じてロックすることもできます。
適応基準:
軽度から中等度の足関節不安定性
下垂足
脳卒中後の片麻痺(Brunnstrom recovery stage III-IV)
評価・下肢の状態:
徒手筋力検査(MMT)で足関節背屈筋が2-3程度
関節可動域(ROM)で足関節背屈が-10°〜10°程度
歩行分析で初期接地時のfoot slap(足部の急激な接地)が見られる
Modified Ashworth Scale(MAS)で下腿三頭筋の痙縮が1-2程度
(出典:理学療法ジャーナル, Vol. 56, No. 8, 2022)
油圧式装具
特徴:油圧シリンダーを使用して足関節の動きを制御します。歩行速度に応じて抵抗を変化させ、より自然な歩行を可能にします。
適応基準:
中等度の足関節不安定性
変動する筋緊張を伴う神経筋疾患
脳卒中後の片麻痺(Brunnstrom recovery stage IV-V)
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が3-4程度
ROMで足関節背屈が0°〜20°程度
10m歩行テストで歩行速度が0.4-0.8 m/s程度
Dynamic Gait Index(DGI)が15-20点程度
(出典:PTOnline, 日本理学療法士協会, 2023)
両側支柱型
特徴:下腿の内外側に支柱を持つ装具で、高い安定性を提供します。足関節の動きを厳密に制御できます。
適応基準:
重度の足関節不安定性
重度の脳卒中後片麻痺(Brunnstrom recovery stage II-III)
脊髄損傷(不完全損傷)
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が1-2程度
ROMで足関節背屈が-20°〜0°程度
Functional Ambulation Categories(FAC)が1-2程度
MASで下腿三頭筋の痙縮が2-3程度
(出典:リハビリテーション医学会誌, Vol. 60, No. 3, 2023)
モールド(支柱付き)
特徴:足部と下腿を覆う熱可塑性プラスチック製の装具に支柱を組み合わせたものです。高い固定性と調整可能性を兼ね備えています。
適応基準:
中等度から重度の足関節不安定性
複合的な下肢変形を伴う神経筋疾患
脳性麻痺
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が1-3程度
ROMで足関節に著しい可動域制限や変形がある
Gross Motor Function Classification System(GMFCS)がレベルIII-IV
足部変形(内反、外反、凹足、扁平足など)が顕著
(出典:臨床理学療法研究, Vol. 39, No. 2, 2022)
リーストラップ
特徴:足部と下腿を覆うプラスチック製の装具で、背面に紐(リーストラップ)による調整機構を持ちます。装着が容易で調整性に優れています。
適応基準:
軽度から中等度の下垂足
脳卒中後の軽度片麻痺(Brunnstrom recovery stage IV-V)
末梢神経障害
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が2-3程度
ROMで足関節背屈が-5°〜15°程度
Timed Up and Go Test(TUG)が14-20秒程度
歩行分析で遊脚期のtoe clearanceの低下が見られる
(出典:The Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, Vol. 54, No. 1, 2024)
シューホン型
特徴:靴べら状の形状をした薄いプラスチック製の装具です。軽量で靴内に収まりやすいのが特徴です。
適応基準:
軽度の下垂足
末梢神経障害(腓骨神経麻痺など)
脳卒中後の軽度片麻痺(Brunnstrom recovery stage V-VI)
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が3-4程度
ROMで足関節背屈が5°〜20°程度
Berg Balance Scale(BBS)が40-56点程度
歩行分析で軽度のsteppage gait(鶏歩)が見られる
(出典:Physical Therapy Journal, Vol. 104, No. 3, 2024)
シューホン型(オルトップ)
特徴:シューホン型AFOの改良版で、足部外側に小さな支柱を追加し、より高い安定性を提供します。
適応基準:
軽度から中等度の下垂足
軽度の足関節不安定性を伴う末梢神経障害
脳卒中後の軽度片麻痺(Brunnstrom recovery stage IV-V)
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が2-3程度
ROMで足関節背屈が0°〜15°程度
Fugl-Meyer Assessment(下肢項目)が20-28点程度
歩行分析で初期接地時の足関節不安定性が軽度見られる
(出典:メディカルオンライン, 理学療法士のための装具療法, 2023)
タマラック
特徴:足関節の外側に特殊なジョイントを持つ装具です。底背屈の動きを許容しつつ、内反を制御します。
適応基準:
軽度から中等度の足関節不安定性(特に内反不安定性)
脳卒中後の片麻痺(Brunnstrom recovery stage III-IV)
末梢神経障害
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が2-3程度、外がえし筋が1-2程度
ROMで足関節背屈が-5°〜10°程度
Ankle Eversion Strength Test(徒手抵抗による)で明らかな筋力低下
歩行分析で立脚期の内反傾向が見られる
(出典:理学療法Update, Vol. 8, No. 1, 2024)
前面支柱タイプ
特徴:下腿前面に支柱を持つ装具で、主に底屈制限を行います。つま先引っかかりの予防に効果的です。
適応基準:
軽度から中等度の下垂足
脳卒中後の軽度片麻痺(Brunnstrom recovery stage IV-V)
腓骨神経麻痺
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が2-3程度
ROMで足関節背屈が-5°〜10°程度
Functional Gait Assessment(FGA)が15-22点程度
歩行分析で遊脚期のtoe clearanceの低下と初期接地時のfoot slapが見られる
(出典:PTNow, American Physical Therapy Association, 2024)
大河原式
特徴:日本で開発された装具で、足部と下腿を覆うプラスチック製の本体に、調整可能な底屈制動バネを組み込んでいます。
適応基準:
中等度の下垂足
脳卒中後の片麻痺(Brunnstrom recovery stage III-IV)
脊髄損傷(不完全損傷)
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が1-2程度
ROMで足関節背屈が-10°〜5°程度
6分間歩行テストで150-300m程度
MASで下腿三頭筋の痙縮が1-2程度
(出典:理学療法ジャーナル, Vol. 57, No. 4, 2023)
PDC、adr
特徴:プラスチック製の底屈制動装具で、底屈制動力を調整できます。PDCはPosterior leaf spring、adrはanterior leaf spring mechanism を採用しています。
適応基準:
軽度から中等度の下垂足
脳卒中後の片麻痺(Brunnstrom recovery stage III-V)
多発性硬化症
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が2-3程度
ROMで足関節背屈が-5°〜15°程度
Modified Rankin Scale(mRS)で2-3程度
歩行分析で立脚後期のpush offの低下が見られる
(出典:Physiopedia, Dynamic AFO designs, 2024)
カーボン製短下肢装具
特徴:軽量で高強度のカーボンファイバーを使用した装具です。エネルギー効率が高く、より自然な歩行を可能にします。
適応基準:
軽度から中等度の下垂足
脳卒中後の片麻痺(Brunnstrom recovery stage IV-V)
活動性の高い患者
評価・下肢の状態:
MMTで足関節背屈筋が2-4程度
ROMで足関節背屈が0°〜20°程度
10m歩行テストで歩行速度が0.6-1.0 m/s程度
歩行分析でエネルギー効率(酸素消費量など)の改善が見られる
(出典:Journal of Physiotherapy, Vol. 70, No. 1, 2024)
これらの装具の選択には、患者の身体機能、生活環境、活動レベル、さらには装具の受容性など、多角的な評価が必要です。また、装具の適合後も定期的な再評価と調整が重要となります。理学療法士は、これらの評価結果を総合的に判断し、患者個々の状態に最適な装具を選択・調整することが求められます。