遺灰に込める囁き
彼女の手を握ったら熱かった。手の熱い人は心が冷たいなどという迷信もどこかで聞いたが、そうではない。手が熱いということは、死んでいないということだ。屍体からかけ離れた存在であるということだ。だから恋をしたのだろう。
この子は、私が死ぬ時に哀しむだろうか。自信がないわけではないが、結局他者の考えは理解し切れないから断言も出来ない。しかし、それは大きな問題ではない。問題は、彼女は、私の死に対して「哀しみ」以外の感情を抱くかどうか、だ。
その感情はたとえば劣情。たとえば慈愛。たとえば嘲笑。どれでも良い。「哀しみ」以外がそこにある、という事実だけが必要だった。
死んでいない彼女に望む、「私の死を味わって欲しい」という欲求。記憶に残り、過去を殺して未来を蝕む、最期まで隠す私の感情が刹那を生きる。明日には忘れる強烈な願いが、理性を這い、笑顔を作った。