本分
本分を全うせよ、というラテン語の諺がある。原語では「AGE QUOD AGIS」(アゲ・クオード・アギス)という。
物事には本分……即ち、本来的に持っている性質、為すべきこと、が内在する。人間を含む生物の本分は、種の存続だ。では、モノの本分は何だろう。
たとえば今いる部屋を見渡す。
ドアの本分は何か。開いて招くこと……つまり「受容」だろうか。むしろ、外敵から「守る」ことか、不要な分子を「拒む」ことか。
今座っている椅子の本分は何か。座ることで「休ませる」ことだろうか。その場に「留める」ことだろうか。或いは、「また進めるようにさせてあげる」なのかもしれない。
ゴミ箱の本分は「いらない物を捨てさせる」かもしれないし、「人間にとっての不要物に、居場所を与える」ことかもしれない。
表裏一体の性質が内在しているが、どれが本来の性質なのかは、創り出した人間にとっても曖昧模糊になっている。
曖昧でも良い。存在すること、全うすること。どちらも愛おしい。