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臨床家向け 仙腸関節性腰痛 

この記事は治療に役立つものを中心とした、
概論となっています。
治療技術に関しては、「椎間関節性腰痛」と
重複することが多いため、そちらをご覧下さい。

仙腸関節性腰痛に対し、
重要視しているのは以下の4点です。

  • 後仙腸靱帯・骨間仙腸靱帯

  • 多裂筋

  • 腰椎椎間関節

  • 隣接関節の可動域(脊椎・股関節)



解剖学と論文から説明します。


治療に役立つ話

1)解剖学

Kiapour A:Biomechanics of the sacroiliac joint:anatomy,function,biomechanics,sexual dimorphism,and causes of pain.International Journal of Spine Surgery 14:S3-13,2020

仙腸関節を取り巻く、複数の靱帯があります。

仙腸関節は仙骨と腸骨で構成される滑膜関節
前方の関節腔領域に加え、広大な後方靱帯領域
(骨間仙腸靱帯と短後仙腸靱帯)を有する

黒澤大輔. 仙腸関節障害:概要.
青木保親、杉浦史郎(編).
フルカラーでやさしくわかる! 腰痛の理学療法.
医師と理学療法のタッグで腰痛患者を治す! 
日本医事新報社.  2022. 195-204

関節腔と連続しているのは、
前仙腸靱帯
後仙腸靱帯
骨間仙腸靱帯です。

1番右の画像から、特に後仙腸靱帯の付着幅が大きいことが分かります。
それには、何か理由があるはずです。

おさらいになりますが、、

「靱帯」は関節運動の方向を制限したり、
過度の関節運動を防止する

野村嶬(編). 標準理学療法学・作業療法学
専門基礎分野 解剖学. 2014. 医学書院

ある一定の許容範囲を超えると、
その運動に対し制動にかかる役割があります。

臨床では、短縮(撓む)より、
過度に伸長されることが問題になります。

また、以下のような報告もあります。

成猫の仙腸関節における
神経終末の侵害受容器は、
主に後方の靱帯領域に存在。関節腔には少ない。

Sakamoto N, et al:An electrophysiologic study of mechanoreceptors in the sacroiliac joint and adjacent tissues. Spine (Phila Pa 1976). 2001;26(20):E468-71.

疼痛部位を1本の指で指し示す(one finger test)にてPSIS周囲の疼痛を伴う患者85人に後方靱帯ブロックを実施。効果がなかった場合、関節腔内にブロック(局所麻酔薬の注射)➡72人(85%)に効果を認め、
うち 58人(81%)は後方靱帯ブロックが有効

Murakami E, et al:Treatment strategy for sacroiliac joint-related pain at the posterior superior iliac spine. Clin Neurol Neurosurg. 2018;165:43-6.

後部靱帯の付着割合・侵害受容器の存在・
関節周囲ブロックの結果から、

後方の靱帯が治療対象になり易いと言えます。

2)疼痛自覚部位

下記の図は、
仙腸関節性疼痛100例の自覚疼痛域です。

村上栄一,菅野晴夫,奥野洋史ほか.
仙腸関節性殿部痛の診断と治療.
MB Orthop. 2005;18:77-83

仙腸関節列隙の外側縁が83例
次いで、大腿部外側>鼠径部>下肢痛となり、

下肢痛は疼痛部位が連続せず、分節的です。

この図だけ参照すると、仙腸関節に問題があると
「殿部と下腿に症状が出てもおかしくない」
ということになります。

しかし、殿部/下腿の痛みを拾っている
神経はそれぞれ違うはず
です。

そこで、
関節の神経支配についての報告をご覧下さい。

3)神経支配

池田龍二. 仙腸関節の神経支配について. 
ー肉眼的組織学的研究ー.
日医大誌 58:587-593,1991. 一部引用改変


仙腸関節の神経支配は1つの関節といえど、
多重神経支配であることが報告されています。

仙腸関節を直接動かす筋は存在しませんから、

複数の神経支配であることは関節保護に役立つ
と言えます。

関節を取り巻く周囲靱帯が
多く存在していることも納得です。

しかし、その一方で過負荷な状態に陥ると、
様々な影響
が出てもおかしくないということになります。

次は、
靱帯由来の疼痛を有する患者の評価について

4)後部靱帯由来の仙腸関節痛の特徴

Kurosawa et al. A Diagnostic Scoring System for Sacroiliac Joint Pain Originating from the Posterior Ligament. Pain Medicine 2017; 18:
228–238. doi: 10.1093/pm/pnw117

殿部痛や下肢痛の原因として、
椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症が有名です。

仙腸関節性腰痛の患者さんも
下肢痛を含む可能性があるため、
どのような特徴を有するのか報告したものです。

Kurosawa et al. A Diagnostic Scoring System for Sacroiliac Joint Pain Originating from the Posterior Ligament. Pain Medicine 2017; 18: 228–238. doi: 10.1093/pm/pnw117 . 一部引用改変

多重ロジスティック回帰分析を用いた解析にて、
下記項目が仙腸関節スコアに採用されました。

3点 One- finger test
  (疼痛部位を指1本で指す)
2点 鼠径部
1点 椅子座位時の疼痛増悪
1点 仙腸関節shearテスト
1点 PSISの圧痛
1点 仙結節靱帯の圧痛

SIJ shear test:腹臥位での関節圧迫

カットオフ値:4点 
感度 90.3% 特異度 86.4%
非常に感度が高いです。

また、ヘルニアと狭窄症の座位時における
疼痛頻度・領域についての報告もあります。

川上 純, 黒澤 大輔, 村上 栄一.
 仙腸関節障害と腰椎疾患の座位時疼痛領域の比較.
整形外科. 2014;64:513-517より一部引用改変


問診を注意深く行うことは、
病態予測に必須です。

椅子座位時の疼痛は、
「坐骨結節を介した仙腸関節への剪断ストレス」になります。

また、確定診断はDrが後方靱帯ブロックを行い、
疼痛が10→3以下へ改善されたものとしています。

当たり前ですが、
理学療法士に確定診断はできません。

尊敬する小野先生が講習会で仰ってました。
「こういう所見が揃ったから〇〇が問題だ!と
決めつけちゃダメですよ」

あくまでも「〇〇が問題かな」という
余白を残しておくことが大事です。

他の腰部機能障害との合併も十分有り得ます。
椎間関節は特に関りが強いです。

前提として、関連痛などの話もあるように
「病態に関する知識」も必要です。
文献を読んで積み重ねをするしかないですね。

次は、仙腸関節痛発生の機序・慢性化する
メカニズムについてです。

5)仙腸関節痛の慢性化メカニズム


黒澤大輔,村上栄一.
仙腸関節痛の発生・慢性化のメカニズム.
J . Spine Res. 12:808-813,2021 一部引用改変

外傷や1次性の関節炎を除き、
仙腸関節の不適合のよる機能障害
問題になるようです。

治療の方向性がみえてきました。

しかし、どの症例でも治せるか
といったら別問題です。

PTでは対応できない「炎症」
というキーワードがあります。

どういう特徴があるのかみていきましょう。



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