肩不安定症の肩甲上腕関節コントロールについて!
1.英文紹介
2.目的
外傷性の肩関節前方不安定症(以下ASI)の肩関節の筋活動パターンの時間的および大きさの特徴を定量化し、コントロール群と比較して運動戦略の違いを明らかにすることを目的とした。
3.対象と方法
被験者は、6ヵ月以上前に外傷性ASIを経験した術前患者19名(平均27.9±7.7歳、男16名、女3名)を対象とした。
→Stanmore分類に基づき全患者がtype1(補足:外傷性でしばしばBankart病変あり、異常な筋活動なし)の損傷であることを確認した。
→すべての患者は、最初の外傷後、少なくとも3回の再脱臼・亜脱臼を経験していた。
コントロール群は、肩関節疾患、神経筋機能障害のない年齢が一致した25人の若い男性(平均23.0±2.9歳)であった。
✓ASI患者の評価
→Beighton Hypermobility Score(Laxityの検査で両側3関節とも0点)に基づく弛緩性は認められなかった。ゴニオメーターで回旋可動域を測定、徒手筋力検査で腱板と三角筋の筋力測定、、アプリヘンションテスト、Neerテスト、Sulcusテスト、speedテスト、Empty Canテストを行った。Western Ontario Shoulder Instability questionnaire (WOSI)に記入した。
✓筋電図(EMG)の配置と検出
→三角筋後部、僧帽筋上部、上腕二頭筋は表面筋電図で導出し、針筋電図で棘下筋、棘上筋、上腕三頭筋を導出した。
→正規化は、先行研究によって推奨されている肩関節のポジショニングで各筋について10秒間の最大随意等尺性収縮(100%MVC)が記録された。各筋は、%MVC値で正規化した。
ASI群とコントロール群ともに肘掛けや背もたれのない椅子に座り、足底を地面についた状態で測定した。測定する上肢は、横に置かれたスイッチパッドの上に置いた。指示に従い通常速度で上肢を挙上し、外転150°の高さに置かれた2つ目のスイッチパッドを押した。屈曲も同様に2つのスイッチを叩くために同じ動作を行った。スイッチの信号により動作開始と終了が識別され、これにより、試行と被験者間の時間の正規化が可能となった。運動時間を正規化したのちにsetting phase→mid range→end phaseと3つに分類した。
筋活動の開始を識別するために、筋活動の信号が平均ベースラインより2標準偏差高く、25ms持続したところを開始と設定した。また、筋がピーク振幅に達した時間を特定した。
4.結果
✓筋活動開始の時間
上記図は、筋活動開始の時間的特徴は、ASI群とコントロール群の間で外転運動の大円筋を除いて、すべて有意差を認めた(p<0.01)。ASI群は、棘上筋と棘下筋を早期に活動し、また、同側僧帽筋上部の筋活動を抑制した。もう一つの顕著な特徴は、ASI群では、屈曲運動において、反対僧帽筋上部の筋活動開始が早かった。(上記図参照)
✓筋活動開始時間と筋活動ピーク
屈曲および外転運動において、コントロール群とASI群では、棘上筋を除くすべての筋のピーク時間も統計的に有意差を認めた。屈曲運動における挙上時の棘上筋の活動時間は、群間で同様であった(p=0.056)。ASI患者では、屈曲および外転運動の中間域(mid range)で7筋すべての筋活動のピークが見られたが、コントロール群では肩関節の挙上範囲全体(setting phase→mid range→end phase)にピークが広がった(上記図参照)。
ASI群における棘下筋の筋活動ピークは、屈曲および外転運動においてコントロール群と比較して6倍高かった(p<0.001)。また、屈曲運動において、反対僧帽筋上部(p<0.001)と上腕二頭筋の筋活動ピークは、有意位に高値を示した(p<0.001)、ASI群において、屈曲および外転運動で棘上筋は、コントロール群と比較して有意に低値を示した(p<0.001)(上記図参照)。
5.興味深い点
ASI患者は、棘上筋が最初に活動し、コントロール群と比較して運動開始の22%も早く活性化していた。棘上筋は、Starter mescleとも言われていおり(骨運動が始まる少し前から働き肩甲上腕関節を安定化させる機能)、ASI群においてはより早い段階で可動性よりも安定性を優先する運動制御戦略を選択しているのかもしれないと思われた。さらに、ASI群の7つの筋すべてが、主に挙上中間域で筋活動がピークに達することが認められた。この作用は、上肢挙上の中間域付近で肩甲上腕関節の安定性を確立することを重要視していることを反映していると思われる。一方、コントロール群で7つの筋活動のピークが範囲全体に広がっている。これは、上肢挙上中にそれぞれの角度でそれぞれの各筋で肩甲上腕関節を安定性を得るために選択的に最適化する能力を反映しているものと思われる。
いずれにしても、肩関節において、一方向(ここでは前方)の不安定性を有しても肩甲上腕関節は、筋機能を高めて適応(Adaptation)する能力を有しているものと思われる。今回であれば、筋活動開始時間や筋活動ピークなどを変化させて適応するものである。他の不安定肩の筋電図研究においても同じような報告が成されている。これらの知見を生かして明日からの臨床に臨んでいきたいと思った。