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大気汚染,遺伝的易罹患性,統合失調症リスク:大規模前方視的研究
Air pollutants, genetic susceptibility and the risk of schizophrenia: large prospective study.
Liu R, Li D, Ma Y, et al.
Br J Psychiatry. 2024 Oct;225(4):427-435. doi: 10.1192/bjp.2024.118.
〈背景〉近年,大気汚染がメンタルヘルスに及ぼす影響についての研究が増えている。大気汚染はサイトカインを通じて統合失調症リスクを上昇させることが示唆されている。しかし,大気汚染と統合失調症の関連については,疫学研究が非常に少なく,よくわかっていない。
また,遺伝的因子と環境の相互作用が統合失調症の病因において重要であることが示唆されているので,大気汚染への曝露と統合失調症の遺伝的リスクの相互作用が統合失調症の発症に関与しているのではないかと考えられる。しかし,遺伝的易罹患性がどの程度大気汚染物質と統合失調症の関連に影響しているかを検討した研究は現在のところ見当たらない。
〈目的〉本研究では英国バイオバンクのデータを用いて,大気汚染への長期曝露と成人における統合失調症の発症との関連を調べ,さらに遺伝的易罹患性がこの関連にどのように影響しているかを評価することを目的とした。英国バイオバンクとは,2006~2010年に英国全域の22施設で募集した37~73歳の約50万人における生物学的データと医学的データを収集したものである。
〈方法〉試験期間中におけるPM₂.₅,PM₁₀,二酸化窒素(NO₂),窒素酸化物(NOx)濃度の年間の平均値はUK AIR(英国の環境・食糧・農村地域省により運営)から得た(uk-air.defra.gov.uk)。
統合失調症のポリジェニックリスクスコア(PRS)は,英国バイオバンクのPRS Releaseの確立されたPRSセットから得た。低・中・高の3群に分類した。
統合失調症の初発については,既往歴,死亡登録データ,入院データ,プライマリーケアの記録から決定した。統合失調症の発症,死亡,2020年12月12日のいずれかが発生するまで,全参加者を追跡した。
1年間の大気汚染への曝露データを含めたCox比例ハザードモデルを用いて,それぞれの大気汚染物質と統合失調症発症リスクとの関連を検討した。多変数調整モデルにおいて,各患者における大気汚染物質の年間の平均値を3群に分類した。最小の群を参照群として,ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。
〈結果〉主解析には485,288名を組み入れた。基準時点における参加者の平均年齢は56.55歳で,54.3%を女性が占めていた。追跡期間の中央値は11.9年で,この期間中に417件の統合失調症イベントが記録された。試験期間中の大気汚染物質の平均値(標準偏差)は,PM₂.₅が10.20(2.16) μg/m³,PM10が15.10(2.97) μg/m³,NO₂が18.70(6.80) μg/m³,Noxが28.20(12.60) μg/m³であった。
多変数調整モデルでは,大気汚染への長期曝露と統合失調症リスクとの間に関連が認められ,汚染が最小の群と比較して,汚染が最大の群の調整HR(95%CI)は,PM₂.₅で1.98(1.80~2.19),PM₁₀で2.30(2.08~2.55),NO2で2.30(2.05~2.58),NOXで2.35(2.09~2.64)であった(すべてp<0.001)。
いずれの遺伝的リスク群においても,4種類の大気汚染物質と統合失調症リスクとの間に有意な相関が認められた。統合失調症リスクに対して,遺伝的リスクとNO₂およびNOx曝露との間に有意な相互作用(ともにp<0.001)が認められたが,PM₂.₅およびPM₁₀との間には認められなかった。
〈結論〉本研究は大気汚染への長期曝露と成人での統合失調症リスクとの関連を包括的に要約した初の大規模集団研究であり,PM₁₀,PM₂.₅,NOx,NO₂への曝露が統合失調症リスクの上昇と関連していることがわかった。また,NO₂およびNOxと遺伝的易罹患性との間には相互作用が観察された。