11. 物質使用症群または嗜癖行動症群(Disorders due to substance use or addictive behaviours)
この note では ICD-11 の精神科領域の解説を行っています。
本日は 物質使用症群または嗜癖行動症群(Disorders due to substance use or addictive behaviours)を扱います。
https://note.com/psycho_lec/n/ncc0e1cf5149e
11. 物質使用症群または嗜癖行動症群(Disorders due to substance use or addictive behaviours)
①この群には、主に精神作用物質の使用の結果や、ある繰り返しの、報酬を得られ強化されるような行動の結果としてみられるものがある。
補足:①この先何度も出てくるから、「rewarding and reinforcing」についてはっきりさせておく。rewarding は「価値のある」「やりがいのある」「有意義な」という意味もあるが、こういう表現を採用すると倫理的に good な印象がある。嗜癖行動症に含まれるギャンブル、ゲームは、本人とっては「やりがいのある」かも知れないが、社会通念上はどう見積もっても「so so 〜 bad」という所である。ここは敢えて、直訳の「報酬を得られるような」とした。reinforce も直訳の「強化」としているが、言うまでもなく行動科学でいう「報酬を得ることによる行動の反復、増加」の意味合いがある。
物質使用症群(Disorders due to substance use)
①物質使用症は、処方薬を含めた精神作用物質の単回の使用あるいは繰り返しの使用の結果として起こるものである。②14種類の群に分けられた物質に関連する障害がある。③典型的には、最初の物質使用は心地よく魅力的な効果があり、繰り返しの使用により患者にとっては価値のあるものとなり、強化されていく。④継続した使用により、これらの物質の多くは依存性をもたらす。⑤これらの物質は、精神及び身体の両面に数多くの有害な影響を及ぼす。⑥この群には、精神作用物質ではない有害物質の非医学的な使用による障害も含む。
補足:①「精神作用物質」は熟した言い回しだから、substances that have psychoactive properties を一々「精神的な作用を有する物質」などとする必要はあるまい。③「rewarding and reinforcing」については先ほどと同様である。後ろに with ~ を伴い、「〜によって」の意味合いになる。④ capacity まで訳さなくても伝わる。⑥ non-medical use は「非医学的使用」とした。
嗜癖行動症群(Disorders due to addictive behaviours)
嗜癖行動症群は、反復する報酬を得られるような行動の結果として出現する機能障害に関連した、はっきりと臨床的に重篤な症状を呈するものである。依存を促進するような物質使用によるものではない。②嗜癖症群には、ギャンブル症やゲーム症(オンラインもオフラインもあり得る)が含まれる。
補足:① distress or interference with personal functions は「機能不全や機能障害」でも良いが、長くなるので単に「機能障害」とした。①は既に十分長く、読み難い。
この群には、主に以下のものが含まれる。
・6C50 ギャンブル症(Gambling disorder)
・6C51 ゲーム症(Gaming disorder)
6C50 ギャンブル症(Gambling disorder)
①ギャンブル症は、持続または反復するギャンブル行動によって特徴付けられる。ギャンブル行動はオンラインであることもオフラインであることもあり、症状としては以下のように表現される。 1. ギャンブル行動のコントロールができない(ギャンブルの開始、頻度、額、持続、終了、勢い)。 2. 生活の他の関心や活動に対して、ギャンブル行動の優先順位が上がるようになる。 3. 有害な結果が生じているにも関わらず、ギャンブルの継続やさらなる熱中がみられる。②ギャンブル行動のパターンは持続性のことも、エピソード性で反復性のこともある。③このパターンは個人、家庭、社会、学業、職業、あるいは他の重要な領域での機能障害を引き起こす。④ギャンブル行動及び他の特徴は、診断のためには通常少なくとも 12 ヶ月以上に渡り明瞭に持続する。但し、全ての診断基準が満たされており症状が重篤な場合、この必要な期間は短縮されうる。
補足:① manifested by はもう少し思い切って意訳した方がいいかも知れない。「以下のような特徴を持つ」ぐらいに。1. intensity は「強度」、context は「文脈」だが、ギャンブル行動に対する訳としてはそれぞれ「額」、「勢い」とした。2. increasing priority と takes precedence over は同じ内容であるから、片方訳せば良かろう。3 . escalationは「上昇」「拡大」などだが、「さらなる熱中」と解釈した。④こういう一文は翻訳するものの負担を増すだけであるから、やめて欲しい。
6C51 ゲーム症(Gaming disorder)
①ゲーム症は持続または反復するゲーム行動(デジタルまたはビデオゲームに限る)によって特徴付けられる。ゲームはオンランであることもオフラインであることもあり、症状としては以下のように表現される。 1. ゲーム行動のコントロールができない(ゲームの開始、頻度、のめり込み、持続、終了、勢い)。 2. 生活の他の関心や活動に対して、ゲーム行動の優先順位が上がるようになる。 3. 有害な結果が生じているにも関わらず、ゲーム行動の継続やさらなる熱中がみられる。②ゲーム行動のパターンは持続性のことも、エピソード性で反復性のこともある。③このパターンは個人、家庭、社会、学業、職業、あるいは他の重要な領域での機能障害を引き起こす。④ゲーム行動及び他の特徴は、診断のためには通常少なくとも 12 ヶ月以上に渡り明瞭に持続する。但し、全ての診断基準が満たされており症状が重篤な場合、この必要な期間は短縮されうる。
補足:①電子機器を使わぬゲームは含めない、と解釈して良かろう。本文はギャンブル症とほぼ同じ内容である。
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