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ゲームに”ハマる”から”依存症”に至るメカニズム

 2020年の新型コロナウイルス感染拡大から2023年5月の季節性インフルエンザと同じ扱いとなるまでの約3年間は、自宅など室内で過ごさざるをえない社会でした。対面でのコミュニケーションが制限され、外で自由に活動できないという社会は、子どものみならず大人にとっても大きなストレスだったかと感じます。こうした社会情勢をきっかけとして、以前からのゲームに関する問題が深刻化したり、または、ゲームに”ハマり”始めた子どもは多かったのではないでしょうか。

子どもたちのネット普及とゲーム利用の現状

 2023年の子ども家庭庁の統計データによると、10歳から17歳のインターネット利用率は、98.7%でした。インターネットの利用内容は、1位が動画を見る(93.6%)、2位がゲームをする(85.5%)、3位が検索をする(83.6%)となっており、とくに小学生と中学生のゲーム利用は、それぞれ87.5%となっていました。この通り、子どもたちのほぼ全員がインターネットを利用し、検索をする以上に多くの子どもがゲームをしているのが現状です。

『子ども家庭庁令和5年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書』をもとに作成 


 みなさんのお子さんが、ゲームに”ハマり”過ぎてはいないかと気になることはありませんか?楽しみながらゲームをしているのはよいですが、いつの日からか学校や勉強、日常生活、家族関係へ悪影響を及ぼすほどになっていることはありませんか?そして、「ゲームの使用を制限したり、叱ったりしても、なかなかやめられない」、「ゲームをし続ける子どもの気持ちを理解しようとしたけど、なかなか理解できずどう接したらよいかわからない」、「ゲーム依存症になってしまわないかと心配」などと悩んでいませんか?

 今回は、子どもがゲームに”ハマる”から”依存症”に至るメカニズムを説明します。メカニズムを知ることが、お子さんとの関り方のヒントになればと思います。

“依存症”とは

 一言で簡潔に言うと、”依存症”は、依存対象のコントロール障害によって、自分自身や他者・社会に悪影響が生じていることです。
 コントロール障害とは、たとえばお酒で説明をすると、お酒を控えたい(節酒)と思い、「1日2杯まで」「週3日は休肝日」などとルールを作っても、飲酒量や飲酒頻度のコントロールできずルールを破ってしまうことです。そして、断酒を試みようとしても、節酒と同様にコントロールができなくなってしまい、お酒を自分の意志ではやめられなくなってしまうことです。では、なぜ自分でやめられなくなってしまうのでしょうか。「意志が弱いから」でしょうか…?

脳科学からみた”ハマる”から”依存症”に至るメカニズム

 ”依存症”のメカニズムは「脳(報酬系回路)」にあると脳の研究によって明らかにされました(「意志が弱いから」ではありません!)。こうした研究の積み重ねによって、2019年には世界保健機関(WHO)が、”ゲーム依存症”を「ゲーム障害」という名称で正式な病名に位置づけました。

 メカニズムを「ブランド品を買い過ぎる」ことを例にして説明します。欲しかった高級ブランド品を幸運にもセールで安く買えたとき、非常に嬉しい感情や興奮を得られたとします。このとき、脳内の報酬系回路と呼ばれている領域では、ドーパミンという神経伝達物質によって快を感じています。
 一部の人たちは、同様の経験を得たいがために、セールでブランド品の購入を継続的・反復的に行い、”ハマって”いきます。”ハマればハマる”ほど、ブランド品購入以外のことでは、興奮や快を感じにくくなります。しかも、たとえ安くブランド品を購入できたとしても、当初のような嬉しい感情や興奮は得にくくなってしまいます(脳内も同様に快を感じにくくなります)。
 ブランド品を買ったことを後悔したり、嫌な気持ちになったりして「もうこれ以上はやめておこう」という自分の意志を固くもったとしても、その意志に反して、”脳”が「もっと快をよこせ」と要求が増大してしまうのです。そして、最終的にブランド品購入の頻度や買う量、金額などに関するコントロールが自分の意志ではできなくなってしまうのです。

 お子さん自身が、やめたくてもやめられない状態になっていたとしたら、お子さんの”意志のせい”にするかかわり方ですと、問題の解決には遠のいてしまいます。ですので、まずは、お子さんがゲームのことをどう思っているのか(実はゲームをしたことを後悔している)、どうしていきたいのか(本当はやめたい)などに耳を傾けてみるのも良いかもしれません。

依存症を心理学から見る

 実は、”ハマる”から”依存症”に至るメカニズムは、脳科学のみならず、心理学的な観点も重要となります。
 お子さんがゲームをしているとき「学校や日常生活での嫌なことを考えずにすむ」「いつも頭の中に渦巻いているモヤモヤやイライラがスッキリした」といったように、”ゲームをするという行動”が、嫌な感情や辛い感情から守ってくれる機能もあるとすれば…ただ”ゲームをやめる”だけだとしたら、いったい何が嫌な感情や辛い感情から守ってくれるでしょうか?
 
 オンラインイベントで、脳科学のみならず、こうした心理学的側面も踏まえて、お子さんとの関り方を話します。よろしかったらご参加ください。

講義内容
・脳科学からみたゲームに”ハマる”から”依存症”に至るメカニズム
・心理学的にみたゲームに”ハマる”から”依存症”に至るメカニズム
・”やめさせる関わり方”から”代替行動を増やす関わり方”


筆者紹介

阿相周一(臨床心理士、公認心理師)
精神科クリニックにてアルコール依存症の回復支援に携わる。現在、精神科クリニックにてギャンブルなど様々な依存症・アディクションの回復支援に携わりつつ、教育領域でのカウンセリングの他、SNS相談にも従事している。


参考文献

子ども家庭庁 令和5年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書 


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