詩空間とくしま (Poetry Space Tokushima)vol.1
巻頭随想 (徳島現代詩協会 会長 竹原洋二)
このたび「詩空間とくしま(Poetry Space Tokushima) 通称 PoST(ポスト)」を開設しました。詩を書くまた詩に関心のある人に、作品発表や交流、切磋琢磨、実力の向上、詩を楽しむなどの場を提供するためのWeb「詩空間とくしま (PoST)」です。詩人、詩集の紹介、批評なども掲載し、詩の学び、楽しみを増やすようにしたいと思っています。多くの詩を投稿していただきたいと思います。楽しく、長続きする無理のない(PoST)が理想です。(PoST)は詩作品等を発表する場を提供し、詩と関わる人を一人でも多く増やすことをめざします。徳島の詩を活発にし、良い詩をたくさん作り、発展に少しでも貢献できればと思ってやみません。多くの皆様方の詩作品等の投稿をお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします。
すりきず (浪市すいか)
視線は合うのにすり抜ける
銀幕のこころ
結んだ口の奥では
僕にしか聞こえない呼び声が
心臓を鼓舞してる
届かなくとも吠える星
全力疾走する文字の羅列は
そよ風に変わり果てて
今じゃバタ足の幽霊
満身創痍の足取りで
今日もすみれを探しては
花で覆う指の傷
いつかいつかと
向かい側を乞いながら
つきなはん (ただとういち)
犬を
大事にする
つきなはん
白い
毛をした
ジョン
息子の
まさかっちゃんが
言う
「ワエよりええもん食うんぜえ!」
今日も
つきなはんは
行商から
ちっくぁを
買う
詩に至る病 (英田はるか)
ぽとり 言葉の滴が一滴落ちてきた
そこから波紋のように広がるイメージ
だけど 詩人はとらえきれない
手を伸ばせば伸ばすほど遠ざかっていく言葉
追いかければ追いかけるほど逃げていく言葉
やがて 濃霧に覆われ視界が閉ざされる
この白昼の闇の中でも目を凝らせば
言葉の尻尾くらいきっと見えてくる
諦めたら一巻の終わりだ
そう信じて詩人はマラソンランナーと化する
前人未踏の言葉の原野を一人で走っていると
ランナーズハイの如きマゾ的寂寥に酩酊する
詩に取り憑かれた者の宿痾 詩に至る病だ
崖っぷちのような 綱渡りのような 快感
深まるばかりの闇を手探りで愛撫する
たとえあの滴が幻であったとしても
たとえ言葉がつかみきれなかったとしても
詩人は日々いきいきと詩を病んでいるのだ
茨の墓石 (吉田良治)
野道の傍らに横たわる墓石
茨に覆われて打ち捨てられている
垣間見える墓標の文字に
足は止まり次第に瞼が潤んできた
何という品格
洗練された高貴な筆致
此処にこれ程の人物が居られたのか
貴方の名もお姿も知る術はありません
唯、貴方の放った葆光の通し矢は
長い時間回廊を通り抜けて
現代に生きる一人の貧しい心に
今、いたく刺さっています
嘉永という文字が見える
黒船がやって来た頃だけは分かる
冬の夜の手 (山本泰生)
月もしいんと凍りつく頃
冷たいふとんにもぐる
両手両足を休まずこすりつけても
いっこうに温もらない
疲れてはぐずぐず眠りこむ
記憶より遥か遠いところ
寝乱れた小さなふとんをなおす
乳の匂う手がない
代わって
涙にぬれたふとんをさするばかりの
土で荒れた手がない
重い綿ぶとんで育ったから
かるい羽毛ぶとんはきらいだ
こころをこめてあやす手がない
繭に似て閉じたふとんのなかで
ひとり苦しいほど丸く固まる
縺れた糸をほどく手がない
昔の一コマ
ふとんをそっと持ち上げしのび入る
白くなめらかな手がない
このごろは
何回か起きてまた寝るたびにずれた
ふとんを引っかぶる手だけがある
いよいよと
ふとんの底で手を心臓に押し当てる
それでも熱い血が流れこむ手にならない
木陰 (Kei anone)
花が終わり
鮮やかな色のまま
一枚ずつベンチに落ちていく
わたし もう散ってしまったんだねぇと
しゃがれ声の一枚が言う
誰もうなづきもしない
良い香りのままの
花の敷かれたベンチには
まだ夏を知らない木陰が
陽を遮り
夜を静かに待っている
みち (あわやしほう)
みちなるみちを ひとりゆく
さがしもとめて ここにきし
みちとのであい もとめしか
われのまえには みちのあり
しんじてみちを すすむのみ
ふりむかないで すすむのみ
はるかかなたの そのさきに
げんれいのみち ひらかれし
はじめてであう このけしき
うまれかわりの たましいか
なつかしいのは なにゆえに
うまれるまえから しっている
いのちをつなぐ ことのはは
じだいをこえて もとめあう
まことをもとむ そのさきに
おうぎのみちは ひらかれし
われのまえには かんながら
つねにもとめし みちのあり
ことはさきわう あわのくに
こじきのみちを ひとりゆく
編集後記
いかがでしたでしょうか。「詩空間とくしま(Poetry Space Tokushima) vol.1」(通称PoST)。年齢構成もさまざまな私たち徳島現代詩協会が新たに発信するこの詩誌が、少しでも多くの方に届き、現代詩とともに過ごす時間を彩るものになればと願ってやみません。
vol.1編集担当 鈴木日出家