【心霊体験】開かずの間
怪談では耳にする機会も多いのではないだろうか。
私が幼い頃に住んでいた家にも、決して入ってはいけない部屋があった。
今回はその部屋に入ってしまった、幼い頃の私が体験したお話を書いていく。
私がまだ幼稚園の頃だっただろうか。
実はこの時期の記憶がかなり曖昧だ。
転居を繰り返した時期でもある。
その間の一軒。
古い純和風建築の家を増改築を繰り返した造りの家に住んでいた。
玄関から左手二間の和室。
右手には居間から増築して踊りや、祖母の講演の為の広間。
正面には二階への階段。
階段の脇に廊下があり、どんつきに風呂場。
この風呂が薪で焚く。
今考えればとても味のある家に住んでいたのだなと思う。
風呂を正面に右手に台所。
左手に祖父母の部屋があり、その奥が件の入ってはいけない部屋。
誰かが祖父母の部屋の前を通ると、必ず襖が開く。
「どこに行くんだい?」
部屋の前には注連縄のようなモノが張られており、子供ながら畏怖の念を抱いた。
「この部屋には入ってはいけないよ。危ないし、おじいちゃんとおばあちゃんの大切な物が沢山あるからね」
祖母は基本的に家にいる為、その部屋に近付くことさえ叶わなかった。
ある日、祖母が仕事で家を空けることになる。
「いいね、あのお部屋には絶対に近付いてはいけないよ」
そう言い残し家を出る。
母にもしっかりと伝えているようだ。
お昼を食べ、部屋の事などすっかり忘れて弟と遊んでいた。
小腹が空いた為台所に向かい、ふと左を見る。
あの部屋の襖が少しだけ開いている。
いつもは絶対に開く事など無い。
母は居眠りをしている。
隙間を見ていると、どんどん吸い寄せられるような、そんな気持ちになってくる。
ただの好奇心ではない。
私はそのまま注連縄をくぐり、襖の前に立つ。
心臓の鼓動が激しくなる。
心なしか注連縄の中は涼しかった。
襖に手を掛け、ゆっくりと開く。
一歩、足を踏み入れる。
埃とカビの匂い。
日本人形や着物。
木箱に入った中身不明の物。
古い和箪笥が所狭しと置かれていた。
宝物を見つけたようでワクワクしてきた。
一つ一つ中身を確かめては、胸をときめかせていた。
弟も呼ぼう。
そう思った時。
入って来た襖が大きな音を立てて閉まった。
急いで出ようとするが、襖が開かない。
母にバレて閉められたのかと思ったのだが、叫んでも外からは何も聞こえなかった。
ガタガタと足掻いていると、後ろから物音が聞こえる。
ズッ・・・ズッ・・・ズッ・・・
畳を何かが擦る音。
振り返ると和箪笥の奥から何かが起きあがろうと、丸まった背中を出していた。
幼い私にも見覚えがあった。
周りの風景とは浮いた、彩度が違うその物体。
この世のモノではない。
アレが顔を出す前に、見られる前に、急いで木箱に隠れた。
蓋の隙間から覗く。
箪笥の奥で完全に立ち上がっていた。
赤茶色の着物を着て、髪を垂らした男。
顔は汚れて真っ黒。
ユラユラと揺れている。
ズッ・・・ズッ・・・ズッ・・・
ゆっくりと和箪笥を回り込む。
隙間からは見えない位置までアレが移動すると音が消えた。
(いなくなった?)
もう少し様子を見ようと引き続き隙間を覗く。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお・・・
地鳴りのような声を響かせ、隙間の端からゆっくりと顔が現れた。
アレが蓋に手を掛け、ゆっくりと開く。
人間、本当に驚いた時は声が出ない。
アレが私の首に手を伸ばしてくる。
その時、閉まった襖が大きな音を立てて開き、祖母が駆け込んできた。
お経を唱え、「今すぐ箱に戻れ!」とアレに叫ぶ。
断末魔のような声を上げ、得体の知れないモノは消えて行った。
「もう大丈夫だがんない」
優しい祖母に抱きしめられ、安心した私は泣いた。
母は私がいないことに気付き、すぐに襖を開けようとしたらしい。
中にいることは声と音でわかったようだ。
だが開かない。
私の名前を呼び続けていたらしいが、私には聞こえていない。
祖母の部屋に呼ばれ、一日寝かされる。
祖母はその間祈り続けていた。
その後話を聞かせてくれた。
「ばあちゃんがどんな仕事をしてっかわがっぺ?みんながら、呪われた物を預がってくんだ」
そう、あの部屋は呪物を保管する場所だったようだ。
あの件があってかは知らないが、私達親子は祖母と別居。
近くではあるが、離れることになってしまった。
祖母が亡くなってしまった今となっては、アレがなんだったのか知ることは出来ない。
そして、祖母が住んでいた家を整理した時には呪物はほぼ無くなっていた。
祖母ならば然るべき場所に移したはずだが、アレらは今も現存している。
余談だが、祖母から受け継いだ物が一つある。
抜けない日本刀。