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水火旅程-平兵衛に捧ぐ-

傷ついてぼろぼろなわたし
それでも
人々の想いを伝えるものとして
もう少しだけ
生かせてください

息も苦しく
座ることも
眠ることもできません

足は腐り
骨が見えて
うじむしがわいています

両腕はもがれて
自分で手を動かすことはできません
それでも手首は結ばれています

顔も割れて
血が流れ込む目
ひとつしか見えません

それでも唐丸籠中から上を見ます

竹ひごのひしがた
遠くすきとおる青い空
白と灰色の雲
鳥が横切りました


鳥よ
わたしを江戸まで連れていけ

もう二度と見ることはない
美しい故郷の自然
この輝きの中に全てを注ぎ込み
狂おしいまでに惚れ込んだ全て


わたしは江戸に向かう
そこで市野の不正を訴える
それまで死ぬことはできない
どんなに痛く苦しくとも生きる
生きて訴えなければ
村人たちの子々孫々
苦しみを背負うのだ

「おまえはどうしたいのだ」
あのとき
あめのみかげのみことの声が聞こえた
わたしは
わたしたちは
いのちをかけて
ここを守りたい

ミサ
これから待ち受ける責めに耐えてほしい
もしまた会うことができたならば
平安にくらそう

栄吉、周二郎、さや、いさ、ちよ
おまえたちが
美しい故郷の自然を
つないでほしい

かみさま、ほとけさま
どうかわたしの
わたしのいのちを
つなぎとめてください

この苦しみに耐えられるように
あなたのご加護を祈ります
唐丸籠を担いでくださる方々を
お守りください

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