パラスポーツによる外傷・関節障害の特徴と対策
パラスポーツによる外傷・関節障害の特徴と対策
尾川貴洋
JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION
第31巻・第12号(通巻375号)・2022年11月号 P1144-1149
【アブストラクト】
Ⅰ.健常者とパラスポーツによる外傷・関節障害の違い
パラスポーツ選手はスポーツ選手・アスリートという一面と、障害を持つという2面性を持ち合わせている。
健常者のスポーツでは外傷性疼痛があれば選手から訴えがあり、筋腱に炎症があればコンディショニングや運動調整を選手自ら行ったり、トレーナーによる微調整も可能である。
しかしパラスポーツ選手の中には感覚障害を持つ選手も少なくはない。傷病や疾病により感覚障害部位があれば、選手本人からの訴えはなく、医療者側からの体調確認にも発見が困難場合があり、重症化してからの診断となるケースもある。
したがって、医療者は障害特有の生理機能や運動機能をもつことを念頭において全身の診察を行わなければならない。また必要時には積極的な画像検査や血液検査等を実施することが望ましい。パラスポーツ選手は、健常者スポーツ選手に比べ生活習慣病等の疾病リスクも高い。
また障害による身体バランスへの影響にも注意が必要である。大腿切断では殿筋の発達や状況によっては体幹にも影響を及ぼすため、全身の残存機能を診ることが好ましい。
また、車椅子選手は車椅子座位の安定性、あるいは車椅子での推進する際の体幹の安定性が残存しているかが、上肢への負担、関節障害に影響を与える。そのため個人に合わせた全身診察が必要である。
Ⅱ.パラスポーツによる外傷の特徴と対策
パラスポーツ選手は、障害された部位の機能をできる限り生かし、その障害部位を補うための非障害部位のパフォーマンスを発揮しようとする。そのために障害部位・非障害部位の外傷リスクが高くなるため注意を要する。
障害部位を補うことで起こる非障害部位の外傷は、脊髄損傷による下肢不自由な選手において上肢トラブル、肩・肘への負担増加や、大腿切断等による殿筋や体幹筋の非対称による腰痛等が挙げられる。
その他には競技による特性があり、車いす陸上競技は、時速30km/hで走行することもあり、走行中のクラッシュによる高エネルギー外傷のリスクとなる。また車いすラグビー・バスケットボールでは接触プレーが多く、転倒による外傷も多い。
そのため対策として、感覚障害部位に対しあらかじめ選手への十分なケアを指導する。選手自身による視診・触診の習慣化は、早期から発見するための重要な方法である。選手自身で目視できなくても、触診や鏡による視診等の教育も必要である。また、脊髄損傷者の褥瘡等は、健診による医療者のチェック、褥瘡超音波検査や座圧測定等も早期発見となる。
疾病特性の運動器障害については、普段からのメディカルチェック等を受けることが勧められ、競技会では、障がい者スポーツ医等が帯同することで、緊急時の外傷に備える必要がある。
Ⅲ.パラスポーツによる肩関節障害の特徴と対策
車椅子利用者は移乗動作やプッシュアップ等の動作以外にも、推進力のための上肢への負担が繰り返しかかり、肩関節や肘関節へストレスを与える可能性となる。損傷レベルによって、肩への負担は異なり、四肢麻痺者の方が、対麻痺者に比べ疼痛の有病率が高いことが報告され、これは車椅子を推進させるために肩に発生する力とモーメントが大きいためと考えられている。
日頃からのメディカルチェックが重要であり、疼痛の有病率が高く、肩インピンジメント症候群や腱炎等の発症リスクを考え、かかりつけ医による定期的な診察と検査が好ましい。
また下肢動作が困難な車いす選手は、肩関節障害により上肢挙上困難等となることで選手としてのパフォーマンスだけでなく、生活動作にも影響を及ぼすことも忘れてはならない。
Ⅳ.パラスポーツによる肘関節障害の特徴と対策
健常者では肘関節に荷重されることにならないが、車椅子利用者では推進中に肘関節内の圧力は肘関節屈曲で数倍以上になる。
運動時痛に加え、圧痛も多く、特に上腕骨外側上顆に約80%程度見られることは、肘関節荷重のみではなく手関節伸展と関連した上腕骨外上顆炎と関連が深い可能性がある。
また上肢末梢神経障害、特に尺骨神経障害は高頻度であることが確認され、車いすマラソン選手は28.9%で健常者より高いという報告がある。また尺骨神経の完全・部分脱臼も認め、両上肢にみれることもあるが、比較的に利き手側に多い傾向にある。
肩関節障害と同様に肘関節、肘部の神経障害のリスクは高く、パラスポーツのみでなく、日常生活で更なる障害を助長することも考慮して、普段からのメディカルチェックが重要である。
Ⅴ.パラスポーツによる外傷・関節障害に対する今後の課題
パラスポーツ選手の2面性を考慮して、日常生活に影響する外傷を引き起こす可能性を考える必要がある。その為にはパラスポーツ選手を診る障がいスポーツ医や医療者の育成も大きな問題であり、医療者数の不足、メディカルチェック不足、2面性を考慮した医療提供ができない可能性を伴い、医療者の充実が今後の課題となる。
【勉強となった点】
車いす選手にとって上肢機能は選手生命であり、生活面でも命綱である。日頃からの選手への指導のためにも、神経障害であれば尺骨神経症状の注意が必要であり、そのためのセルフケアを考えていかなければならない。
上肢関節への過度な負担を軽減するためにも座位姿勢や環境調整も含めた介入が必要となると勉強になりました。
【最後に一言】
私自身パラスポーツアスリートに関わる機会はありませんでしたが、東京パラリンピックでの選手の活躍により認知度は上がっている分野であり、興味深い文献でした。障害の特徴や、その人個人の生活様式に目を向け、専門的な目線からの助言やサポートが重要であり、そのための医療者の知識や技術、サポート体制の拡充が必要必要不可欠ではないでしょうか。
興味のある方は是非一度、本稿を読んでいただきたいと思います。
執筆:本多竜也
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