スラムドッグ$ミリオネア(2008)
運命をかけたスラムドック(負け犬)の大勝負
夢と希望を与えてくれる痛快ヒューマンドラマ
2009年、米国アカデミー賞作品賞を始め、世界各国のさまざまな賞を受賞した本作品。舞台はインド、有名なハリウッド俳優も出ていない野心的な作品で、賞レースではダークホース的存在でしたが、おもしろいものはやっぱり評価されますね。
公開時は、評価の高さから興味を惹かれた人も多いと思いますが、その期待に違わぬ会心の出来映えです!
日本でも一大ブームを巻き起こしたクイズ番組「クイズ$ミリオネア」(劇中の番組名は「コウン・バネーガー・カロールパティ」)。4択問題を正解するごとに賞金が増え、全問正解すれば桁外れの高額賞金が獲得できるシステムですが、多彩なジャンルから出題されるため、そう簡単には全問正解することはできません。しかし、18歳のインド人青年ジャマールが全問正解を成し遂げようとしていました――。
警察で取り調べを受ける現在と、「クイズ$ミリオネア」の出場シーン、正解につながるジャマールの過去という3本の縦軸が複雑に交錯し、テンポよく進んでいきます。
ヒット映画のタイトル、宗教問題、有名な詩人の名前、100ドル札の肖像画……、それらの問題を聞いてジャマールが思い出したのは、無残な母の死や孤児を騙す大人の酷い仕打ち、盗みや詐欺をしながら生き延びる極貧生活、裏社会に走った兄との確執、そして初恋の少女ラティカとの辛い別れと切ない再会でした。
ジャマールの過去の体験から見えてくるのは、スラムに生きる貧困層の過酷な暮らし。しかし、愛と希望を追い求めるジャマールはどんなに悲惨な境遇でも誠実に生きようとします。
ジャマールへのラストクエスチョン。誠実な〈スラムドッグ〉が手に入れたものは何なのか。世界各国が抱える格差問題について声高に言及した社会派の側面もありますが、最後は前向きなメッセージとピュアなラブストーリーで締めくくられ、感動と爽快感で胸がいっぱいになります。
監督は『トレインスポッティング』のダニー・ボイル、脚本は『フル・モンティ』のサイモン・ビューフォイ。実在のクイズ番組を下敷きにした独創的なストーリー構成と、巧みなストーリーを印象深いものにする鮮やかな演出力が見事に結実しています。