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My New Favorite 30 Music in 2023

今年も一年色々ありました。幣レーベルzappakは無事1周年を迎え、累計7作品リリース、9月には小川町POLARISにてレーベル・ショーケースもおこないました。自身のライブの本数も増えて、今年は30本以上あったようです(最後の1本は年末なのでまだですが)。演奏面ではさまざまな人から嬉しい評価や感想をいただけて、成長(?)を実感したり。リリースは少なかったですが、制作面ではBreton Cassetteから鈴木彩文さんとのデュオ作品やFtarriのサブレーベルHitorriより環境音の作品などを発表したり。来年リリース予定の作品もすでにいくつか決まっていたりします。そんな2023年に出会った音楽のなかで、特に好みだった上位30作品をピックアップしてみました。例年どおり順位付けはせず、日本式のアルファベット順で、コメントもちょっとだけ書いています(今回は日本語だけです、海外の方にはごめんなさい)。年末年始の暇つぶしがてら読んでいただければ嬉しいです。
(なお、各作品のジャケット画像をクリックするとBandcampやYouTube、試聴できるショップなど、音源を聴けるサイトに飛べます)

Alva Noto [HYbr:ID II]
(NOTON / 2023)

本作は「HYbr:ID」シリーズ2作目。1作目はダブ的なアプローチがかなり強くウォームな感じだったが、こちらはより洗練されて複雑なダイナミクスもあるため、従来のクールなAlva Notoらしさを感じられる。時折出現するビートはどれも不明瞭なので「UNI」シリーズが好みな人にはウケが悪いかもしれないが、ストイックに音を削ぎ落した本作のほうがある種ダンサブルかもしれない。

Anne Gillis [Vhoysee]
(Art into Life / 2023)

過去にはAnne GillisのアーカイヴをボックスでリリースしているArt into Lifeから、彼女の新作がリリース。1983年に発表されたミニアルバム収録の楽曲のリワークおよび新曲を組み合わせたものとのことで、当時を思わせるチープなシンセなどの音と、ポップとも不気味とも言えない不思議な温度感のヴォーカルが組み合わされている。この独特の雰囲気は現代の人には作れないと思う。

Cia Rinne [Sounds of Soloist]
(Erratum / 2023)

Erratumの音響詩部門"VOXXX"からの新作はスウェーデン人作家によるもの。複数の言語を使い、それぞれの言語のもつ聴覚的/文法的特徴に着目し、音遊びのような感覚で作品化させたもの。機械生成した音声と自身の声が多層的に重ね合わされていて、奥行きのある作品に仕上がっている。Erratumは興味深い音響詩作品を多く発表しているレーベルなので知らない方は要チェックです。

Douglas Quin [Oropoendola: Music by and from Birds]
(Apollo / 1994)

南極でのフィールド録音で知られているであろう作家による、「鳥の鳴き声」をテーマとした作品。本作は完全なコラージュ「作品」で、さまざまな地域で録音された鳥の鳴き声、楽器の音、電子音が丁寧に組み合わされ配置されている。ただし根っこに録音があるからか、異なる多くの音が組み合わさっても違和感なく聞こえた。しかし、逆にハッとさせられる瞬間もあり。面白かった。

Fire! Orchestra [Echoes]
(Rune Grammofon / 2023)

Rune Grammofonから今年発表されたFire! Orchestraの新作は、過去最大の総勢43名による演奏作品(しかも3LP/2CDという大作)。演奏内容はある程度スコアのもと演奏されているように聞こえ、フリーでありながらもどこか土着的な雰囲気をもち合わせているのが面白いところ。この長尺かつ複雑な録音をミキシングしたJim O’Rourkeの功績も大きいのでは。

Fumi Endo (遠藤ふみ) [Cold Light in Warm Blue]
(Hitorri / 2023)

遠藤ふみのソロ演奏作品が出た!即興的に演奏されるピアノの音は、鍵盤の響きだけでなく、合間にある無音も重要な存在。ほとんど弾かないところもあれば少し弾くところもあり、演奏のなかで彼女のなかの時間軸が変化しているように感じられる。そのスタイルでの演奏は幣レーベルzappakから発表された[トイピアノ即売会]にも表れているので、あわせて聴いていただければ幸いだ。

Gil Sansón [con richard (por la adversidad a las estrellas)]
(Unfathomless / 2023)

Gil Sansónはどこかつかみどころのない作風でこれまでにいくつもの作品を発表してきた。今年発表された本作では無音や微細な物音が慎重に配置されている。記憶の中でぼんやりと浮かんでは消えていく景色を描いたかのようで、さざなみのような音響作品。彼は今年Full Spectrumからも面白い新作を発表しており、そちらも面白いので是非チェックしてみてほしい。

Hania Rani [On Giacometti]
(Gondowana / 2023)

作曲家のHania Raniの新作は、彫刻家アルベルト・ジャコメッティについてのドキュメンタリー映画のサウンドトラック。ピアノを主体にわずかながら静謐なアンビエント的な要素も取り入れて、繊細で奥行きを演出している。オーケストラのような大げさなアレンジを入れないところが繊細で美しく、個人的にはRobert Haighなどの作品と共鳴するところがあるように思えて好みだった。

Hideto Kanai Group (金井英人グループ) [Q]
(Three Blind Mice / 1971)

Three Blind MiceのCD再発企画で目に留まった本作。ジャズはバップの頃が好みでそれ以外はあんまりだったので、意識的に日本のジャズを聴いたことはなかった。本作はベーシストがグループでの即興演奏に挑戦したもので、ハードすぎない独特な温度感の演奏になっている。国産ジャズはここから掘り進めていったので、そこから見つけた好みの作品はいつかnoteで紹介したいところ。

Jacek Szczepanek [M​í​stní Rozhlas]
(Saamleng / 2020)

チェコやスロバキアなどの地域でのフィールド・レコーディング作品。このあたりの小さな村などでは情報伝達手段としてメガホンによるアナウンスが使用されているそうで、それに着目した作品となっている。アーカイヴ的な視点でもなく、文化研究的な堅苦しさもなく、純粋に生活音と解像度の低いアナウンスの響く音に面白みを感じたのであろう作家の着眼点が楽しめる。

Jeff Bruner [Foes (Soundtrack)]
(self-released / 1977)

他では見かけない珍しい音楽を取り扱い、商品がアップされてはすぐに売り切れるお店ことShe Ye, Yeで珍しく購入できた、宇宙人襲来映画『フォーズ: 謎の不可触領域』のサントラ盤。6、70年代に流行ったテープ操作ものやチープな電子音をピコピコ鳴らしただけのものとは違い、不気味な持続音や不協和音を中心にきちんと作り込まれたドラマティックな映画音楽となっていて楽しめる。

Jimmie Haskell and His Orchestra [Count Down!]
(Imperial / 1959)

今年はなぜか急にスペース・エイジ系の作品に関心をもち始め、いくつか聴いてみて特に好みだったのが本作。この手の作品はモンド・ミュージックとの線引きが曖昧で、エスニックな調子と電子音を掛け合わせただけのようになってしまうことも多く、探すのに苦労している。本作は宇宙を意識した信号音のような電子音と西洋的なジャンルの音楽のミックスで、聴いていて楽しかった。

Johannes Bj​ö​rk [S/T]
(Infinite Expanse / 2023)

スウェーデンの作家による、9曲に分かれたタペストリー。作中の電子音やパイプオルガンのような音はゆっくりと転調したりメロディーのようになっていたりするため、ドローンやアンビエントといわれると身構えてしまう僕でも楽しめた。語りの内容はわからないけれど、後半にはメロディーのはっきりしたギターの音もあり、全体の流れから、まるで映画を観ているかのようだった。

Lilith Czar [Created from Filth and Dust]
(Sumerian / 2021)

サブスクのアルゴリズムのもとサジェストされて出会った1枚。そのため"Juliet Simmsだった人"と言われても、その名前も知らなかった。デジタルな質感を少し含んだアグレッシヴながら比較的ストレートなロック・アルバム。どういった心境の変化があったかは知る由もないが、念のためチェックした過去の名義時代の作品よりもこちらのほうが僕は好みだった。

Lisa Lerkenfeldt [Halos of Perception]
(Shelter Press / 2023)

Room40からリリースされていた過去作品にピンと来なかったので今年の来日公演をスルーしてしまった作家が、その後Shelter Pressから本作を発表。アンビエントからぎりぎり一線を引いた作風で、ストイックなミニマリズムのもと演奏されるピアノは、輪郭を残しつつもエフェクトによってぼやけていて、ため息が出るような美しさ。やはりライブは観ておくべきだったかも。

Lisa Stenberg [Monument]
(Ambitious Tapes / 2018 (Fylkingen / 2023))

スウェーデンの名門Fylkingenが満を持して発表した本作は、同国Ambitious Tapesから2018年に発表されたもののリイシュー。重みと深いうねりをもって押し寄せてくる音の波に常に支配されていて、大音量で聴けば強烈な音響体験をすることができそう(とりわけ3曲目の'Oracular'が個人的にはハイライト)。Fylkingenによって一新されたアートワークもクール。

Marla Hlady & Christof Migone [Swan Song]
(Crónica / 2023)

使用されなくなった古いウィスキー蒸留器を銅細工師のDennis McBainが音響彫刻に仕上げたという白鳥のような形のオブジェ。それを使用した、3曲の'Swan Song'のパートとそれ以外で分けられた2CDの作品。前半は声をもちいた持続音からなり、後半はさまざまな独特のサウンドピースの集合体となっている。視覚情報が少ないのが残念だが、聴いて想像力を膨らませる楽しみがあった。

Marta [When It's Going Wrong]
(False Idols / 2023)

Trickyの作品にヴォーカルで参加したりもしているMartaによる新譜。Trickyがプロデューサーとして参加しているので、仕上がりは「Trickyのあの雰囲気」という感じになっている。そのあたりの好みはさておき、90年代のスモーキーなブリストル・サウンドを現代版として巧みにアップデートした感じ。ヴォーカルがすべて一人なので、アルバム全体とおしての統一感もある。

Martin Arnold [Flax]
(Another Timbre / 2023)

Another Timbreからの新作。ときには試聴もおっくうに思うほど金太郎飴的なアンビエント系コンテンポラリー作品を量産しているレーベル。本作もその一つとして括れそうだけれど、Apartment Houseなどグループでの演奏ではなくピアノソロなので少し違って聞こえた。R. Andrew LeeによるJurg Frey作品のピアノ演奏などが好きな人にはハマりそう。僕はそのうちのひとりです。

Muddy Waters [After the Rain]
(Cadet / 1969)

Jimi Hendrixがブルースに接近しようとしたのに対し、ブルースからサイケなロックに接近したかのような本作。前年リリースの[Electric Mud]が賛否両論だったらしいが(僕もあまり好みではなかった)、本作はそれよりブルースの要素がある程度多く、聴いていて独特な斬新さを感じる。僕自身は[Hard Again]が彼とのファースト・コンタクトだったので、本作は格好よく聞こえた。

Nina Simone [You've Got to Learn]
(Verve / 2023)

1966年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでの録音が発掘(?)された。もちろん彼女の声は好きではあるが、個人的にはそれよりピアノの弾き方が好きで、本作ではほかのメンバーが出しゃばらないぶん、その魅力をたっぷり堪能できる。できることならヴォーカルなしでピアノ演奏をした作品を聴きたいが、おそらく存在しないし存命でないので不可能だろう。それだけは惜しい。

Philip Jeck & Chris Watson [Oxmardyke]
(Touch / 2023)

去年惜しくも亡くなったPhilip Jeckが、フィールド・レコーディング界のゴッドファーザー(言った自分が恥ずかしくなるような表現だな)ことChris Watsonとコラボした作品が出た。センチメンタルに評価してしまいそうで危険だが、二人の手練れによる環境音と電子音の絶妙なハーモニーには脱帽。時に環境音と共鳴しつつも音楽的にも聞こえるシンプルな電子音の使い方にはうならされる。

Pierre Verloesem [Expected Noise]
(Off / 2023)

ジャズをやりたいのか、とんちきロックをやりたいのか、作品を聴けば聴くほどわからなくなってくる作家による新譜。本作ではヴォーカルも参加していて、ジャズロックやノー・ウェイヴ的なアプローチが目立つ。好みは分かれそうだが、The ExやDog Faced Hermansなどオランダ周辺の「あの頃」雰囲気を感じて心が躍った。'Got the Hots for You'では意外にポップな一面も。

Rainforest Spiritual Enslavement [Killer Whale Atmospheres]
(Hospital Productions / 2023)

ノイズ的な"Prurient"やビート主体の"Vatican Shadow"など、アプローチごとに名義を使い分けているDominick Fernow。そんな彼がアンビエント的なアプローチをとるこの名義での最新作。これまでに発表された作品はアンビエントやドローンに環境音を混ぜる手法をとっていたが、本作ではビートの存在が強く出て、全体的な構造も複雑になっている。聴けば聴くほど面白い発見があった。

SPAM [Musical Sculptures and Other Devices]
(Die Schachtel / 2014)

ナポリ音楽院で教鞭を執るAgostino di Scopioとその生徒たちによるグループSPAMがDie Schachtelの新人発掘シリーズの"Zeit"より作品を発表。本作は音響彫刻やデヴァイスをもちいて本人や他者の作曲作品を演奏したもので、無音/微音から軋みのような轟音までを行き来している。1曲目はライヴ録音で咳込む音や拍手が(嫌な意味で)気になるが、全体的には素晴らしい作品。

Stephan Micus [Thunder]
(ECM / 2023)

さまざまな民族楽器を使用して「どこでもないどこか」を描き続けているStephan Micusの新作。これまで彼の作品をいくつか聴いてきたが、本作では全体をとおしての統一感が特に強いように感じられた。歌は宗教的な感じがあり、笛やベルや打楽器の感じはアジアから中東にかけての質感がある。聴いていてシルクロードを旅する商人が見た風景を追体験しているような感覚をおぼえた。

Svitlana Nianio [Transilvania Smile, 1994]
(Shukai / 2023)

80年代後半から90年代前半にかけてウクライナの地下シーンで活動していたという作家による、舞踏劇のサウンドトラックとして94年に録音されたという音源をレーベルShukaiが発掘。全体をとおしてとても優しくもどこかメランコリック(?)な空気をまとっている雰囲気の作風で、個人的には(安易だが)Meredith Monkの[Book of Days]や[Turtle Dreams]などの作品との近似性を感じた。

Thomas LaRoche [Even More Precise Accounts of the Cave]
(Drowned By Locals / 2023)

終始不穏な空気に包まれたカセット作品。曲はSide A/Bのみで分けられており、それぞれのなかにいくつかのセクションがあるという感じ。バツッとシーンが転換するので、しっかりとした「曲」として分かれているように感じられる。リリース元のDrowned by Localsもこの作家の運営するResearch LaboratoriesもTobira Recordsで知った存在。もうTobira Records様様です。

Ulrich Krieger [Aphotic II - Abyssal]
(Room40 / 2023)

今年発表された[Aphotic I - Hadal]の続編。ともに'acoustic'、'delay'、'electrocnic'の3つのパートからなり、深い残響のなかで生楽器が緩やかに鳴らされる。名前から推察するに、それをアコースティックのまま、ディレイ処理、電子変調という3種類にしたのだろう。前作とあわせてどちらも素晴らしい出来だったので、フィジカルでのリリースが叶わなかったのはとても悲しい。

Valentina Magaletti & Laila Sakini [Cupo]
(self-released / 2023)

ソロのほかさまざまな形態で活動するValentina Magalettiと、Modern Loveからの作品が個人的に印象深かったLaila Sakiniの2人。もはや駄作になる余地のない組み合わせ。全体的には静的なアプローチで打楽器や声やシンセ的な音が続くが、ときには緩やかに轟音が押し寄せたり、とてつもない重低音が顔を出す。聴きやすさのなかにもシリアスさが含まれていて、緊張感をもって聴いた。

以上、個人的なベスト30作品でした。それでは、来年も面白い音楽にたくさん出会えますように。皆さまもよいお年を。

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