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脂肪溶解注射は効かない?

Xクリニック銀座院 脂肪吸引責任者 吉田有希

最近脂肪溶解注射が人気です。手軽に施術を受けることができ、ダウンタイムを気にする方にはいい選択肢です。

今日は脂肪溶解注射についてお話ししていきたいと思います。


脂肪溶解注射の歴史

ごめんなさい。いつも前置きが長くなりますが、まずは脂肪溶解注射の歴史に触れてみたいと思います。効果やダウンタイムは最後に書きますので、そこまで読み飛ばしてもOKです。

脂肪溶解注射の成分

脂肪溶解注射の成分は大体、以下の二つが主流です。

  1. ホスファチジルコリン

  2. デオキシコール酸

なので、この二つにまつわるお話しをしていきます。

ウクライナのひまわり

2023年、ウクライナの戦争が始まり二度目の冬になります。
ウクライナではひまわりがとても重要な花であり、公式な情報はないのですが、ウクライナの国花は「ひまわり」と言われていたり、ウクライナの国旗は青空とひまわり畑(または小麦畑)と言われています。

そのウクライナではひまわりの生産が盛んで、ひまわり生産量は世界一です。このひまわりからはレシチンという脂質が取れ、天然の乳化剤として利用されています。

内閣府食品安全委員会ホームページより

乳化剤とは、水と油を混ぜる(乳化)のに使用される物質で、マヨネーズやお薬のクリームなどの水と油を混ぜる時に使用されている物質です。このレシチンは複数の脂質をひとまとめにした名称ですが、その中の一つに「ホスファチジルコリン(PC)」という脂質のグループがあります。

内閣府食品安全委員会ホームページより

このホスファチジルコリンは1960年代にウクライナで初めて単離されました。

ホスファチジルコリンの臨床応用

静脈内の投与

単離されてからこのホスファチジルコリンは、様々な分野で利用されていくことになりますが、この水と油を混ざり合わせる「乳化剤」の性質を利用して、血管に詰まった脂質を溶かせるのでは?と考えた医師が、このホスファチジルコリンを脂肪塞栓症の治療薬として静脈内に投与する方法を編み出しました。その後ドイツでは脂肪塞栓の治療薬としてのフォスファチジルコリン、Lipostabil®が発売されています。

皮下の投与

実は血管内に点滴する治療は19世紀にはじまりを持ちますが、皮膚の下に薬剤を注入する「メソセラピー」は1952年からと比較的新しい手技です。
その手技を応用して、1988年にイタリアの医師、Sergio Maggioriが上瞼に脂質が沈着する「黄色腫」に対して世界で初めて皮下にホスファチジルコリンを注射をしました。
1995年には、ブラジルの医師Patricia Rittesが30例の下眼瞼の脂肪の膨らみ(クマ)に注射し改善したと報告しています。

水に溶けにくいホスファチジルコリン

脂肪を溶かすことができるこの薬剤は、皮下にたくさん注入することで部分痩せが期待できますが、このお薬のデメリットは油に溶けやすい一方で水に溶けにくいことです
注射として皮下に注入するには、水に溶かして薄めて注射をしなければいけませんが、水に溶けにくいため皮下に注射しても広がらない、さらに溶解していない薬剤が血管を詰まらせるリスクとがある、と脂肪溶解注射として応用するには問題がありました。

そこで、デオキシコール酸と混ぜる方法が編み出されました。

デオキシコール酸の登場

デオキシコール酸を混ぜる

デオキシコール酸は胆汁酸の一種です。胆汁酸は腸まで運ばれてきた脂質を包み、水に溶けやすくすることで脂質の吸収を助けてくれます。このデオキシコール酸を混合してホスファチジルコリン水に溶けやすくし、注射薬として利用しやすくしています。

ちなみに余談ですが、食べ過ぎた際にウルソデオキシコール酸を飲んだ事がある人、いるんじゃないでしょうか?
ウルソデオキシコール酸は動物性の生薬、熊胆(熊の胆嚢)に含まれています。この熊胆は飛鳥時代から日本で使用されており、経験的に消化器薬として有用なことが知られていました。

デオキシコール酸の脂肪溶解作用

ホスファチジルコリンの溶解のために使われたデオキシコール酸ですが、実は単独でも脂肪溶解作用があることがわかりました。2015年に二重顎の改善薬としてKybella®️が発売になりました。

脂肪注入は効かないのか

2023年現在、主にこのデオキシコール酸やフォスファチジルコリンを主成分とした脂肪溶解注射が主流です。これらの成分は実際に脂肪や脂肪細胞を破壊していることがわかっています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8988282/
※PDC=ホスファチジルコリン、DCA=デオキシコール酸

なので実際に脂肪を減らすことが可能です。脂肪細胞が殺されるので、原理的にはリバウンドしにくいです。

しかし1ccの脂肪溶解注射で10ccも20ccも脂肪を溶かすことは不可能です。脂肪吸引な動画を見たことがある人は分かるかと思いますが、特にボディは脂肪がたくさんあります。

さらにこの脂肪溶解注射は、一回に打てる量が限られていること、脂肪溶解注射の成分自体が脂肪細胞だけでなく、神経や筋肉にも作用を及ぼす可能性があることから、基本的には少量注射を満足いくまで繰り返し行なっていく必要があります。

ボディなどたくさんの脂肪があるところはそれだけ時間とコストがかかってしまいます。なので、個人的にお勧めできる脂肪溶解注射の使い方として、

  • 顔の気になる部分の痩せ

  • 絶対に手術したくないけど、部分痩せしたい

  • 脂肪吸引するほど太くないけど、もっと細くしたい

  • 脂肪吸引ほどダウンタイム取れない

などが挙げられます。

ダウンタイム

脂肪溶解注射はダウンタイムがないと考えている方がいます。
もちろん脂肪吸引ほどダウンタイムは長くないですが、少なからず生じます。上の図のように、脂肪溶解注射は脂肪細胞を殺しているので、それに対する体の反応として炎症反応(腫れ、赤み、痛み)は少なからず生じます。
翌日がピークだとは思いますが、お顔ならめちゃくちゃ飲みすぎた翌日のむくみくらいは腫れることがあります。

浮腫むからお水を飲みたくないという人がたまにいますが、必ず水は飲みましょう。分解された脂肪は最後おしっこになった排出されます。おしっこが少ないと腎臓に負担を与えますので、しっかりお水は飲んでください。

おわりに

脂肪溶解注射は効きます。ただ一回の効果はマイルドです。
その分ダウンタイムもマイルドですので、ご自身の生活やボディ、フェイスラインに合わせて施術を行えば、最適な治療となる可能性があります。


参考文献

https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000327311

A.Talathi et al : Fat Busters: Lipolysis for Face and Neck; J Cutan Aesthet Surg. 2018 Apr-Jun; 11(2) : 67-72

公表特許公報(A)_デオキシコール酸ナトリウムを含有しないホスファチジルコリン含有注射剤組成物及びこれの製造方法https://dbsearch.biosciencedbc.jp/Patent/page/ipdl2_JPP_an_2014556477.html

A. Muskat et al : The Role of Fat Reducing Agents on Adipocyte Death and Adipose Tissue Inflammation : Front Endocrinol(Lausanne). 2022; 13 : 841889

S H Dayan et al  : Overview of ATX-101(Deoxycholic Acid Injection) :A Nonsurgical Approach for Reduction of Submental Fat, Dermatol Surgw. 2016 Nov;42 Suppl 1 :S263-S270

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