GOLD科学委員会推奨:COPD診断のための気管支拡張剤前後スパイロメトリ使用
$${pre FEV_1}$$をどう扱うか!
ルーチンに気管支拡張剤後の$${post FEV_1}$$を臨床の現場で導入するのが厳しい環境も存在する
Singh, Dave, Robert Stockley, Antonio Anzueto, Alvar Agusti, Jean Bourbeau, Bartolome R. Celli, Gerard J. Criner, ほか. 「GOLD Science Committee recommendations for the use of pre- and post-bronchodilator spirometry for the diagnosis of COPD」. European Respiratory Journal, 2024年, 2401603. https://doi.org/10.1183/13993003.01603-2024.
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断は、慢性的な呼吸器症状を有する者および/またはリスク因子への曝露歴を持つ者で考慮すべきであると、慢性閉塞性肺疾患に関する国際的な取り組み(GOLD)報告書は述べている。COPDの診断を確認するには、気管支拡張後の努力性肺活量(FVC)に対する1秒量(FEV1)の比率が0.7未満であることを閾値として、気流制限を示す努力性肺活量測定(スパイロメトリー)が必要である。本GOLDサイエンス委員会のレビューでは、COPDを診断するために気管支拡張前(pre-BD)または気管支拡張後(post-BD)のスパイロメトリーを使用することのエビデンスを検討している。
コホート研究では、pre-BDおよびpost-BDスパイロメトリーはほとんどのケースで一致した診断結果を示しているが、post-BD値を使用した場合、COPDの有病率は最大で36%低くなることが示されている。一致しない結果は、「容量(volume)」または「流量(flow)」応答者で発生する可能性がある。容量応答者はガス捕捉によるFVCの低下により、pre-BDでFEV1/FVC比が0.7を超えるが、post-BDではFVCの改善がFEV1の改善を上回り、この比率が0.7未満に低下する。一方、流量応答者は、FVCよりもFEV1の改善が大きく、FEV1/FVC比がpre-BDで0.7未満からpost-BDで0.7を超える可能性がある。これらの個人は、追跡調査中にpost-BDでの閉塞が発生する可能性が高く、継続的なモニタリングが必要である。
GOLD 2025は、COPDを除外するためにpre-BDスパイロメトリーを使用し、診断を確認するためにpost-BD測定を使用することを推奨している。この方法は臨床的な負担を軽減する。閾値に近いpost-BDの結果は、正確な診断を確保するために再測定するべきである。post-BD測定により、容量応答者が見落とされることを防ぎ、COPDの過剰診断を抑制することができる。
診断テストの選択は感度と特異度に基づくべきであるが、データの複雑さ、実用性、費用も考慮すべきである。
COPD診断では、pre-BDスパイロメトリーが気流制限を検出する感度が高いが、post-BD値では閉塞が認められない患者が17%存在する。
pre-BDスパイロメトリーでは約3%の患者が見逃される可能性があり、これらの患者はガス捕捉や容量応答を示し、post-BD測定で閉塞が確認される。
COPDgene研究では、診断が変わる不一致群が全体の約11%を占めるが、90%は一致していた。
大規模コホート研究では、pre-BDとpost-BD測定の予後に大きな差はないとされている。
post-BD測定の利点は、容量応答者の見逃しを防ぎ、COPDの過剰診断を抑制する点にある。過剰診断は主に喫煙者で11~35%とされ、医療資源に負担をかける。
FEV1/FVC <0.7を使用すると高齢者で過剰診断の懸念があるが、リスク因子と症状を考慮することで軽減される。
GOLD 2025では、特にPREO-POSTN(pre-BDで閉塞が認められず、post-BDで認められる患者)について3~6カ月間隔でフォローアップを推奨している。
GOLD 2025では、post-BD FEV1/FVC比が0.60~0.80の場合、別の機会に再測定を推奨している。0.60未満の値が自然に0.7以上に上昇する可能性は極めて低い。
COPD診断におけるpost-BDスパイロメトリーの重要性は、FEV1が予測値の80%未満の低い患者でより高い。
pre-BDスパイロメトリーは初期診断には有用だが、閉塞が認められない場合、大半の症例でpost-BD測定は不要である。ただし、臨床的疑いが強い場合は例外である。
ATS/ERS技術声明によれば、スパイロメトリーの結果の信頼性はグレードAが理想だが、臨床情報と併せて慎重に検討すればグレードEやUも診断目的で使用可能である。
CTスキャンは肺気腫の有無などCOPD診断に有用な情報を提供するが、現在は費用と利用可能性の制約からルーチンでの使用には向いていない。
現在の推奨管理はpost-BD値を基準としている研究結果に基づいており、pre-BD値を基準とする場合には同じ適用ができない可能性がある。
NotebookLMにて解説・まとめ
GOLD(Global initiative for chronic Obstructive Lung Disease)ガイドライン改訂における、前および後気管支拡張薬(BD)スパイロメトリーの使用に関する根拠は、主に以下の点に基づいています。
COPD診断の確認:**気管支拡張薬投与後のスパイロメトリー(post-BD)**による気流閉塞の確認が、COPD診断に必須です。具体的には、1秒量(FEV1)/努力性肺活量(FVC)比が0.7未満であることが、気流閉塞の指標となります。
前BDスパイロメトリーの役割:前BDスパイロメトリー(pre-BD)は、COPDの除外に有用であり、ほとんどの場合、正常なpre-BD値(FEV1/FVC ≥ 0.7)であれば、追加検査は不要とされます。
気流とボリュームレスポンダー:COPD患者には、BDに対する反応として、気流(FEV1)の改善と肺容量(FVC)の改善が見られる場合があります。
ボリュームレスポンダーは、ガス捕捉によりFVCが低下し、pre-BDではFEV1/FVC比が0.7以上であるものの、post-BDでFVCがFEV1よりも大きく改善し、比が0.7未満になることがあります。これらの患者を見落とさないために、post-BD測定が重要です。
フローレスポンダーは、FEV1がFVCよりも大きく改善し、FEV1/FVC比がpost-BDで0.7以上になる場合があります。これらの患者は、長期的にpost-BD閉塞を発症する可能性が高いため、経過観察が必要です。
COPD過剰診断の制限:post-BD値を使用することで、COPDの過剰診断を防ぎ、医療資源への不必要な負担を減らすことができます。pre-BD値のみを使用すると、COPDの診断数が大幅に増加する可能性があります。
臨床的意義:pre-BDとpost-BDの結果が異なる場合(特にボリュームレスポンダー)、post-BDの結果はより重症の疾患特性と関連することが示されています。post-BD値は、死亡率を含む一部のモデルにおいて、pre-BD値よりもわずかに優れた予後予測を示しています。
実用性:pre-BD測定は、COPDの除外に役立ち、post-BD測定よりも時間と手間がかからないため、臨床現場でのワークロードを軽減できます。
追加的な検査:
臨床的にCOPDが強く疑われるにもかかわらず、FEV1/FVC比が正常な場合は、**スロー努力肺活量(SVC)**の測定を検討することが推奨されます。
post-BDのFEV1/FVC比が0.60から0.80の間の場合、別の機会にスパイロメトリーを再検査することが推奨されます。
GOLD 2025ガイドラインでは、pre-BDスパイロメトリーをCOPDの除外に、post-BDスパイロメトリーを診断の確定に使用することを推奨しています。これにより、診断の精度を向上させ、臨床現場での効率的な運用が可能になります。
気管支拡張剤(BD)とは、気道の平滑筋を弛緩させることで気道を広げ、呼吸を楽にする薬です。COPD(慢性閉塞性肺疾患)の診断と管理において重要な役割を果たします。
気管支拡張剤(BD)の主な作用
気道拡張: BDは、気管支の平滑筋を弛緩させることで気道内腔を広げ、気道抵抗を減少させます。これにより、特に呼気時の気流制限が改善されます。
肺容量の改善: BDは、肺の過膨張を軽減し、呼気終末肺容量を減少させることで、より多くの空気を吐き出すことを可能にします。その結果、吸気能力(IC)が向上し、呼吸仕事量が減少します。
換気効率の改善: BDは、小気道の機械的な機能を改善し、閉鎖を遅らせることで、肺の換気効率を向上させます。
気管支拡張剤への反応
BD投与後のスパイロメトリー検査では、以下の2種類の反応が見られることがあります:
フローレスポンス (Flow response):FEV1(1秒量)がFVC(努力性肺活量)よりも大きく改善し、FEV1/FVC比が上昇する反応です。フローレスポンダーは、長期的にpost-BD閉塞を発症するリスクが高いため、経過観察が必要です。
ボリュームレスポンス (Volume response):FVCがFEV1よりも大きく改善し、FEV1/FVC比が低下する反応です。ボリュームレスポンダーは、ガス捕捉がより顕著であり、より重症の疾患特性を持つ可能性があります。
両方の反応: 一部の患者では、FEV1とFVCの両方が改善することがあります。
どちらの反応も示さない: 一部の患者では、BD投与後に明らかなフローレスポンスやボリュームレスポンスを示さないことがあります。
気管支拡張剤(BD)の臨床的意義
COPD診断における重要性: GOLDガイドラインでは、post-BDスパイロメトリーの結果がCOPDの診断に不可欠とされています。post-BDのFEV1/FVC比が0.7未満である場合、気流閉塞が確認され、COPDの診断が確定します。
過剰診断の抑制: post-BD測定を使用することで、COPDの過剰診断を減らし、医療資源の不必要な消費を防ぐことができます。
予後予測: post-BDの測定値は、pre-BDの測定値よりも、死亡率を含む一部のモデルにおいて、わずかに優れた予後予測を示します。
治療効果の評価: BD投与後の反応は、治療効果を評価するのに役立ちますが、変化の大きさよりも、post-BDで達成された値の方が臨床的に重要です。
フォローアップ: フローレスポンダーやpost-BD FEV1/FVC比が0.60から0.80の患者は、COPD進行のリスクが高いため、定期的なフォローアップが必要です。
GOLDガイドラインにおける気管支拡張剤(BD)の使用
pre-BDスパイロメトリー: 主にCOPDの除外に使用します。
post-BDスパイロメトリー: COPDの診断確定に使用します。
再検査: post-BDのFEV1/FVC比が0.60から0.80の間の場合、診断の不確実性を減らすために、別の機会に再検査が推奨されます。
その他
変動性: COPD患者では、BDに対する反応がテストごとに異なることがあります。重症度の高い患者ほど、BD投与後のFEV1の改善が小さい傾向があります。
SVC (スロー努力肺活量): FVCが過小評価される可能性のある患者では、SVCを測定することが推奨される場合があります。
BDRテスト: 過去には喘息とCOPDの区別に使用されていましたが、現在ではその識別能力が低いとされています。
これらの情報は、与えられた資料に基づいています。
Forced or Slow Vital Capacity