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成人肺結核:舌スワブ検体を用いたTB-EASY定量PCR(qPCR)アッセイ
舌スワブを用いた高感度qPCR法を開発。多施設評価で感度は87.4%、特異度は98.0%
舌スワブを用いたqPCR法は、痰採取が困難な場合の肺結核診断に有望な代替手段
喀痰採取は一苦労なので、再現性確認されれば助かる
Wang, Yilin, Junwei Cui, Yuanyuan Li, Miao Wang, Wenge Han, Aimei Liu, Furong Wang, ほか. 「Rapid quantitative PCR on tongue swabs for pulmonary tuberculosis in adults: a prospective multicentre study」. European Respiratory Journal 65, no. 1 (2025年1月2日): 2401493. https://doi.org/10.1183/13993003.01493-2024.
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背景
結核(TB)は依然として世界的に感染症による死亡の主な原因であり、診断の不足が感染拡大を助長している。舌スワブ分析は、肺結核診断の有望な非侵襲的方法として注目されている。本研究では、舌スワブ検体を用いたTB-EASY定量PCR(qPCR)アッセイの診断精度を評価する。
方法
本研究は、中国の指定された7つの結核専門病院で実施された前向き多施設研究であり、729名の参加者が解析に含まれた。舌スワブはHugobiotech社の新しいTB-EASYアッセイで検査され、痰検体はXpert MTB/RIF(Xpert)、塗抹検査、培養検査で解析された。診断性能は、複合微生物学的参照標準(MRS)と比較された。
結果
TB-EASYアッセイは高い診断精度を示し、痰Xpertとの比較では感度89.6%、特異度96.2%、MRSとの比較では感度87.4%、特異度98.0%であった。
感度は細菌負荷により異なり、高負荷のケースでは100%、非常に低負荷のケースでは70.4%であった。
本アッセイは、多様な疫学的環境において堅牢な性能を示した。
結論
TB-EASY qPCRアッセイは、舌スワブを使用した肺結核の信頼性の高い非侵襲的診断手法を提供し、特に痰採取が困難な場合に有用である。その広範な利用可能性は、高結核負荷地域での地域社会ベースの研究におけるさらなる検証を要する。
限界:
症状のある患者を対象とした選択により感度が過大評価される可能性がある。
Xpert Ultraではなく痰Xpertを使用した点。
痰を産生しない患者における性能は未検証。
実装の実現可能性を評価するため、費用対効果のさらなる検討が必要。
序文
結核の現状
結核(TB)は感染症による死亡原因の上位に位置し、2022年には1,060万件の新規症例と130万人の死亡が報告された。
そのうち診断されたのは750万件で、約3分の1の症例が未診断のまま、感染拡大を助長している。
WHOの「End TB Strategy」は2035年までのTB撲滅を目指し、早期診断の改善が特に資源の限られた地域で必要とされている。
現在の診断方法の課題
現在のTB診断は主に痰検体に依存しているが、多くの課題がある:
肺疾患を持つ成人の約25%が適切な痰検体を採取できない。
顕微鏡検査は感度が低く、培養検査(ゴールドスタンダード)は時間がかかる。
分子検査は迅速で精度が高いが、痰採取が必要であり、エアロゾル感染のリスクを伴う。
痰を排出できない患者(例:小児、HIV感染者、低菌負荷疾患患者)では胃液吸引や誘発痰が代替手段として用いられるが、専門的な設備と訓練が必要。
舌スワブ検体の可能性
舌スワブはMycobacterium tuberculosis complex(MTBC)DNAを検出できることが示されており、非侵襲的かつエアロゾルを発生させない利点がある。
舌スワブ採取の最適化により診断精度が向上し、分子診断と同等の感度が示されている。
例えば、ウガンダでの研究では、舌スワブの定量PCR(qPCR)が痰ベースの分子診断と比較して同等の感度を示した。
過去の研究の制限
これまでの研究は小規模かつ単一施設で実施されており、結果の一般化に課題があった。
Andamaらの研究(183名参加):舌スワブ感度77.8%(痰Xpert MTB-RIF Ultraとの比較)。
Steadmanらの研究(397名参加):舌スワブ感度98.2%。
これらの研究はいずれも限定的な設定で実施され、サンプルサイズが400名未満。
NCBIデータベースの調査では、300名未満のTB患者を対象とした研究が21件存在。
研究の目的
上記の制限を克服するため、本研究では新しい商業用qPCRアッセイ(TB-EASY)を用い、肺結核が疑われる症状を有する患者における舌スワブ検体の診断精度を多施設前向き研究で評価した。
研究方法
研究デザインと対象者
中国の6省にある7つの結核(TB)専門病院で実施された多施設診断精度研究(2023年9月〜2024年3月)。
対象者:18歳以上で肺結核の症状を持つ患者。
除外基準:12カ月以内の抗結核治療歴、過去2週間の抗菌薬使用、同意書の提供不可。
研究プロトコルはSTARDガイドラインに準拠し、北京胸科病院の倫理委員会で承認。
検体採取
各参加者から詳細な人口統計と臨床歴を収集。
舌スワブ:朝に採取し、食事や口腔衛生を30分以上控える。採取後、スワブをトリス-EDTAバッファーに保存。
痰検体:舌スワブ採取後に収集し、Xpert、塗抹検査、培養検査を実施。
微生物検査
痰検体:蛍光顕微鏡で抗酸菌の直接塗抹検査、N-acetyl-l-cysteine-NaOH法で処理後、培養とXpert分析を実施。
培養:MGIT液体培地を用いて培養。陽性結果は抗酸菌と確認され、さらにMTBCか非結核性抗酸菌(NTM)かを区別。培養が42日間で陰性の場合、非結核と判断。
Xpert:遺伝子診断のため、GeneXpert機器で分析。
舌スワブ検査
DNA抽出:試料を加熱、ガラスビーズで破砕後、磁気ビーズを用いてDNAを分離。
qPCR(TB-EASYアッセイ):MTBC特異的領域(IS6110、IS1081)を標的とし、GAPDHをサンプル適性制御として使用。
PCR条件:45サイクルの増幅プロセスを実施。陽性および陰性コントロールを含む。
参照基準
複合微生物学的参照基準(MRS):痰Xpert陽性および/または培養陽性でTB患者と分類。痰Xpertと培養の両方が陰性の場合は非結核と判定。
舌スワブ検査の結果は盲検化され、臨床管理には使用されなかった。
統計分析
人口統計データと臨床データを記述統計で要約。
McNemar検定を用いて舌スワブ検査と痰MRS、痰Xpert、痰培養の感度・特異度を比較。
Brunner–Munzel解析でXpertの定量カテゴリごとのサイクル閾値(Ct)値を評価。
使用ツール:Rバージョン4.1.2、p<0.05を有意差と判断。
結果
参加者の概要
2023年9月1日~2024年3月31日の期間で892名が登録され、729名が解析対象。
高齢者(65歳以上)は39.9%、男性は64.5%。
糖尿病患者125名、肝炎患者64名、免疫不全患者39名を含む。
最終診断では729名中559名が結核(TB)と診断。
結核患者のうち、痰塗抹陽性率はわずか26.8%(150/599)。
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TB-EASYと参照検査の一致率
痰Xpertとの一致率は93.4%(95% CI 91.3–95.0%)。
微生物学的参照基準(MRS)との一致率は93.3%(95% CI 91.2–94.9%)。
地域ごとの診断性能を比較した結果、地理的な差異に関する洞察が得られた(補足表S1参照)。
TB-EASYの感度と特異度
痰Xpertとの比較:感度89.6%(95% CI 85.6–92.7%)、特異度96.2%(95% CI 93.8–97.7%)。
MRSとの比較:感度87.4%(95% CI 83.2–90.7%)、特異度98.0%(95% CI 96.0–99.1%)。
TB-EASYは、痰Xpertで陰性だった15名(細菌学的結核10名、臨床的結核5名)を追加で検出。
Xpertの半定量グレード別一致率
高グレード(high):100.00%(46/46)。
中グレード(medium):97.4%(110/113)。
低グレード(low):84.9%(90/106)。
非常に低いグレード(very low):70.4%(31/44)。
陰性(negative):96.2%(404/420)。
Ct値解析
舌スワブ検体におけるターゲット遺伝子(IS6110, IS1081)のCt値は、Xpert半定量カテゴリ間で有意な差を示し、グレードが高いほどCt値が低い(発現が高い)。
GAPDHの発現には、TB陽性グループ間で差異は認められず(補足図S2参照)。
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統計解析はBrunner–Munzel検定を用いて実施した。
記号の意味: *: p<0.05 **: p<0.01 ***: p<0.001 ****: p<0.0001 ns: 有意差なし(not significant)
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Discussion
非痰検査の必要性: 高精度な非痰ベースの結核検査は、特に感染リスクのある医療従事者やエアロゾルの管理が困難な環境で重要である。舌スワブはこれらの課題を克服する有望な代替手段として注目されている。
舌スワブqPCR法の評価: 本研究では、舌スワブを用いた高感度qPCR法を開発。多施設評価で感度は87.4%、特異度は98.0%であった。
細菌負荷と感度の関係: 細菌負荷が高い場合は100%の感度を示したが、非常に低い負荷では70.4%に低下。この問題を改善するためのサンプル処理の最適化が重要。
特異度と偽陽性: 特異度は安定しており95%以上を示したが、16件の偽陽性が確認された。その一部はエアロゾル汚染が原因と考えられ、DNA抽出プロセスの自動化が必要。
他の分子診断法との比較: WHO推奨の痰ベース分子診断法(Xpert Ultraなど)と比較すると、舌スワブは感度が低い場合がある。特に細菌負荷が低い患者における感度向上には、DNA抽出法のさらなる改良が求められる。
サンプリング技術の向上: COPAN FLOQSwabsなどを用いた集中的なサンプリングは、舌の細菌バイオマスの収集を増加させ、感度を向上させる可能性がある。
口腔マイクロバイオームの影響: 口腔内の微生物叢がM. tuberculosisの生存やバイオフィルム形成に影響を及ぼす可能性があり、さらなる解析が必要。
舌スワブの利点: 痰を採取できない患者やエアロゾル管理が困難な環境で、舌スワブは安全で簡便な代替手段として有効。
中国におけるTB戦略: 中国では結核削減を目指し、胸部レントゲンのAI解析と舌スワブ検査を組み合わせた積極的な症例発見戦略が進行中。
研究の限界: 本研究は痰を産生できる患者に限定されており、痰陰性または非痰産生患者での有効性は未評価。今後の研究では、これらの患者を対象とした診断試験が必要。
コストと実現可能性: 現在の検査費用は4~5米ドルだが、大規模生産により低コスト化が期待される。リソースが限られた環境でのコスト効率評価が今後の課題。
結論: 舌スワブを用いたqPCR法は、痰採取が困難な場合の肺結核診断に有望な代替手段となる。さらなる標準化と地域社会における研究が必要。