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関節リウマチにおけるJAK阻害剤、特に、トファシチニブ群の悪性腫瘍リスクに関して深掘りが必要では?

JAKiの使用は、RA患者において悪性腫瘍リスクの上昇と関連していたが、3P-MACEおよび重篤な感染症のリスクには有意な差は認められなかった。


Cho, Yongtai, Dongwon Yoon, Farzin Khosrow-Khavar, Minkyo Song, Eun Ha Kang, Ju Hwan KimとJu-Young Shin. 「Cardiovascular, cancer, and infection risks of Janus kinase inhibitors in rheumatoid arthritis and ulcerative colitis: A nationwide cohort study」. Journal of Internal Medicine n/a, no. n/a (2025年1月27日). https://doi.org/10.1111/joim.20064.

背景

近年の証拠の蓄積により、ヤヌスキナーゼ阻害薬(JAKi)による治療を受ける患者は、心血管イベント、悪性腫瘍、重篤な感染症のリスクが増加する可能性があることが示唆されている。

目的

本研究では、関節リウマチ(RA)または潰瘍性大腸炎(UC)の患者を対象に、JAKi使用による心血管イベント、悪性腫瘍、および重篤な感染症のリスクを、活性比較対照として腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)使用と比較して評価した。

方法

本研究は、韓国の全国的な請求データベース(2013年~2023年)を用いて、ターゲットトライアルを模倣する形で実施した。RAまたはUCを有するJAKiまたはTNFiの新規使用者からなる2つのコホートを構築し、交絡因子を調整するためにオーバーラップ加重法を適用した。評価項目は、主要心血管有害事象(3P-MACE:心血管死、心筋梗塞、脳卒中)、悪性腫瘍、および重篤な感染症とした。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の推定にはCox比例ハザードモデルを用いた。

結果

RAコホートには14,972名が含まれ、そのうち4,759名がJAKiを開始した。UCコホートには2,085名が含まれ、そのうち347名がJAKiを開始した。
RAコホート全体では、3P-MACEの加重HRは0.92(95% CI: 0.59–1.42)、悪性腫瘍は1.61(1.08–2.41)、重篤な感染症は1.08(0.94–1.23)であった。
UCコホート全体では、悪性腫瘍および重篤な感染症の加重HRは、それぞれ0.98(0.11–8.42)および0.45(0.26–0.78)であった。
JAKi使用者において3P-MACEの症例は観察されなかった。

結論

JAKiの使用は、RA患者において悪性腫瘍リスクの上昇と関連していたが、3P-MACEおよび重篤な感染症のリスクには有意な差は認められなかった。UC患者における悪性腫瘍および3P-MACEのリスクについては、さらなるデータが必要である。


別途、Deep Research

リウマチ性関節炎におけるJAK阻害剤とTNF阻害剤の比較:悪性腫瘍および心血管リスクのレビュー

リウマチ性関節炎(RA)は、関節の炎症と痛みを引き起こす慢性自己免疫疾患である。ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤および腫瘍壊死因子(TNF)阻害剤は、RAの治療に用いられる2つの薬剤クラスである。本報告では、RA患者におけるこれらの治療に関連する悪性腫瘍および主要心血管有害事象(3P-MACE)のリスクを比較した系統的レビューおよびメタアナリシスを検討し、分析することを目的とする。


リウマチ性関節炎におけるJAK阻害剤とTNF阻害剤の比較

本分析の背景を理解するためには、比較対象となる治療法について理解することが重要である。JAK阻害剤とTNF阻害剤はいずれもRA治療に有効であるが、作用機序が異なり、安全性プロファイルも異なる。

  • TNF阻害剤 は、炎症に重要な役割を果たすタンパク質である腫瘍壊死因子(TNF)の活性を阻害することで作用する。

  • JAK阻害剤 は、炎症を引き起こす複数のサイトカインのシグナル伝達に関与するヤヌスキナーゼ(JAK)酵素の活性を阻害することで作用する。

現在、RAの治療に承認されているJAK阻害剤には、特定のJAK酵素に対する選択性が異なるいくつかの種類がある:

  • トファシチニブ(Tofacitinib):JAK1およびJAK3を選択的に阻害する。1回5mgを1日2回経口投与。

  • バリシチニブ(Baricitinib):JAK1およびJAK2を選択的に阻害する。1日1回2mg経口投与、活動性の高い患者や効果不十分な場合には4mgに増量可能。

  • ウパダシチニブ(Upadacitinib):JAK1を選択的に阻害する。1日1回15mgまたは30mg経口投与。

  • フィルゴチニブ(Filgotinib):JAK1を選択的に阻害する。1日1回200mg経口投与。

  • ペフィシチニブ(Peficitinib):JAK3を選択的に阻害する新規JAK阻害剤。日本および韓国で承認されており、1日1回150mg経口投与(100mgへの調整可能)。


作用機序

JAK阻害剤は、RAの炎症過程に関与する重要なシグナル伝達経路であるJAK-STAT経路を遮断することで作用する。JAK酵素を阻害することで、複数のサイトカインのシグナル伝達と炎症経路を抑制し、免疫細胞による関節への攻撃を減少させ、疾患の進行を抑える2。この標的型アプローチにより、RA患者に経口治療の選択肢が提供される。


系統的レビューおよびメタアナリシスの方法論

本報告の研究は、RA患者におけるJAK阻害剤とTNF阻害剤を比較した系統的レビューおよびメタアナリシスを検討することで実施された。本レビューおよびメタアナリシスには無作為化比較試験(RCT)および観察研究が含まれる。データ収集はPubMed、Scopus、Cochrane Library、clinicaltrials.govを用いて2023年2月1日までの文献を検索して行われた4。

本分析に含まれたJAK阻害剤はバリシチニブ、トファシチニブ、ウパダシチニブである6。

レビューの結果

系統的レビューおよびメタアナリシスの結果、JAK阻害剤とTNF阻害剤の間で、主要心血管有害事象(MACE)および静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクに統計的に有意な差は認められなかった 4。

実臨床のデータ に基づく大規模な比較有効性分析では、19の登録データと3万件以上の治療経過を対象に、JAK阻害剤、TNF阻害剤、アバタセプト(ABA)、およびインターロイキン-6阻害剤(IL-6i)の有効性と安全性が評価された。この分析では、各治療群における治療中止率および臨床疾患活動性指数(CDAI)の改善に大きな差は見られなかった 6。

また、TNF阻害剤に対して不十分な治療効果を示した活動性RA患者における非TNF生物学的製剤とJAK阻害剤の比較研究 では、いずれの治療群もプラセボと比較してアメリカリウマチ学会20%改善基準(ACR20)を有意に達成していた 7。

興味深いことに、あるメタアナリシスでは、強直性脊椎炎(AS)治療において、TNF阻害剤がIL阻害剤およびJAK阻害剤よりも優れている可能性が示唆された 5。この結果は、治療選択を行う際に、関節炎の種類ごとに考慮することの重要性を示している。


個別研究とその質の評価

本レビューで言及されたメタアナリシスに含まれた個別の研究の詳細は明示されていなかった 4が、以下のような関連研究が特定されている:

  1. JAK阻害剤と免疫介在性炎症性皮膚疾患における心血管および静脈血栓塞栓症リスク:系統的レビューおよびメタアナリシス

    • 炎症性皮膚疾患の患者におけるJAK阻害剤の心血管および血栓塞栓症リスクを調査し、JAK阻害剤の安全性プロファイルに関する知見を提供する可能性がある。

  2. リウマチ性関節炎におけるJAK阻害剤と静脈血栓塞栓症リスク:症例報告と文献レビュー

    • JAK阻害剤を服用していた患者のVTE症例を報告し、既存の文献を総括することで、このリスクに関するより詳細な理解を提供している可能性がある。

  3. リウマチ性関節炎患者におけるJAK阻害剤の心血管安全性:系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス

    • RA患者を対象にJAK阻害剤の心血管安全性を包括的に分析し、リスク比較のための貴重なデータを提供する可能性がある。

  4. JAK-STAT阻害剤を服用する皮膚疾患患者における短期的な心血管合併症:無作為化臨床試験のメタアナリシス

    • 皮膚疾患の患者を対象とした短期的な心血管合併症を評価し、JAK阻害剤の早期安全性プロファイルを示唆する可能性がある。

  5. 中等度から重度の活動性リウマチ患者における5種類のJAK阻害剤の単剤療法および併用療法の比較有効性:無作為化比較試験の系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス

    • 各JAK阻害剤の単剤療法または併用療法の有効性を比較し、治療選択のための貴重なデータを提供する可能性がある。

これらの個別研究の質や本レビューへの関連性を完全に評価するためには、さらなる詳細な検討が必要である。

悪性腫瘍および3P-MACEリスクの比較

現在の情報に基づき、JAK阻害剤とTNF阻害剤の悪性腫瘍および3P-MACEリスクを直接比較することはできなかった。しかし、78件の臨床試験および長期延長試験を含むメタアナリシスでは、JAK阻害剤はTNF阻害剤と比較して悪性腫瘍の発生率が高い ことが示された1。

JAK阻害剤の全体的な悪性腫瘍の発生率は、無作為化比較試験(RCT)では100人年あたり1.15件、RCTと長期延長試験のデータを統合すると100人年あたり1.26件であった1。これにより、リスクの増加が示唆されるが、いずれの治療群においても悪性腫瘍の発生は稀であった 1。

ORAL Surveillance試験(50歳以上のRA患者を対象に、トファシチニブとTNF阻害剤を比較したオープンラベルRCT)では、トファシチニブ群で悪性腫瘍の発生率が高い ことが確認された1。この試験は、特定の集団におけるトファシチニブとTNF阻害剤の悪性腫瘍リスクに関する具体的なエビデンスを提供している


限界点と今後の研究

本レビューに基づく系統的レビューおよびメタアナリシスでは、研究の限界点や今後の研究課題について明確な報告はされていなかった 4。

したがって、RA患者におけるJAK阻害剤およびTNF阻害剤の悪性腫瘍リスクおよび3P-MACEリスクを完全に理解するためには、さらなる研究が必要である


臨床実践への影響

系統的レビューおよびメタアナリシスの結果から、JAK阻害剤とTNF阻害剤は、RA患者において類似した心血管安全性プロファイルを有することが示唆された 4。

しかし、特に高齢患者におけるトファシチニブの使用に伴う悪性腫瘍リスクの増加の可能性については考慮する必要がある 1。

加えて、実臨床データでは、JAK阻害剤の方がTNF阻害剤よりも治療の無効性による中止率が低い ことが示されており6、JAK阻害剤は治療効果の点で優位性を持つ可能性がある

最終的に、治療の選択は、個々の患者の特徴、リスク因子、および治療目標を考慮した上で、ケースバイケースで行うべきである


結論

本報告では、RA患者におけるJAK阻害剤とTNF阻害剤を比較した系統的レビューおよびメタアナリシスの結果を検討・分析した

このレビューでは、MACEおよびVTEのリスクに関して、両治療間で統計的に有意な差は認められなかった。しかし、JAK阻害剤、とりわけトファシチニブの使用により悪性腫瘍リスクが増加する可能性を示唆する証拠がいくつか存在したが、全体的に悪性腫瘍の発生は稀であった

本レビューの結果は、RA治療の意思決定の複雑さを浮き彫りにしている。JAK阻害剤とTNF阻害剤はいずれも有用な治療選択肢であるが、臨床医は、最新の研究結果を踏まえ、各患者の個別の要因を考慮した上で、治療の利点とリスクを慎重に評価する必要がある

今後の研究により、これらの治療の長期的な安全性プロファイルをより明確にし、RA患者にとって最適な治療戦略の確立につなげることが求められる

引用文献

  1. JAK inhibitors and the risk of malignancy: a meta-analysis across disease indications, 2月 1, 2025にアクセス、 https://ard.bmj.com/content/82/8/1059

  2. Comparative efficacy of five approved Janus kinase inhibitors as monotherapy and combination therapy in patients with moderate-to-severe active rheumatoid arthritis: a systematic review and network meta-analysis of randomized controlled trials - Frontiers, 2月 1, 2025にアクセス、 https://www.frontiersin.org/journals/pharmacology/articles/10.3389/fphar.2024.1387585/full

  3. Real-Life Comparison of Four JAK Inhibitors in Rheumatoid Arthritis ..., 2月 1, 2025にアクセス、 https://www.mdpi.com/2077-0383/13/6/1821

  4. Risk of Major Adverse Cardiovascular Events and Venous ... - PubMed, 2月 1, 2025にアクセス、 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38756933/

  5. Efficacy and safety of IL inhibitors, TNF-α inhibitors, and JAK inhibitors in patients with ankylosing spondylitis: a systematic review and Bayesian network meta-analysis - Annals of Translational Medicine, 2月 1, 2025にアクセス、 https://atm.amegroups.org/article/view/110686/html

  6. Effectiveness of TNF-inhibitors, abatacept, IL6-inhibitors and JAK-inhibitors in 31 846 patients with rheumatoid arthritis in 19 registers from the 'JAK-pot' collaboration | Annals of the Rheumatic Diseases, 2月 1, 2025にアクセス、 https://ard.bmj.com/content/81/10/1358

  7. Comparative effectiveness and safety of non-tumour necrosis factor biologics and Janus kinase inhibitors in patients with active rheumatoid arthritis showing insufficient response to tumour necrosis factor inhibitors: A Bayesian network meta-analysis of randomized controlled trials - PubMed, 2月 1, 2025にアクセス、 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33600008/

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