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Cyclic Vomiting Syndrome (CVS) の診断の課題と最新研究の知見


解説記事から

  • 診断の難しさと認知度の低さ

    • Neurogastroenterology & Motility に掲載された研究によると、CVS は過小診断されがちである。

    • 診断基準が専門家の合意に基づいており、実際の患者の症状と一致しないことが指摘されている。

    • 研究では、約90人の成人患者が6か月間の症状日記を記録し、症状の多様性が明らかになった。

    • 7日間の間隔を必要とする診断基準は臨床現場と乖離しており、過小診断の一因となる可能性がある。

  • 小児の CVS の特徴

    • CVS は現在「片頭痛の亜型」と分類されている。

    • 小児では1歳から発症することがあり、激しい嘔吐発作が特徴。

    • 嘔吐は1時間に3~4回発生し、光過敏・頭痛・腹痛・心窩部痛を伴うことがある。

    • 発作終了後は完全に無症状になるが、診断の遅れが問題となる。

    • ウイルス感染症や食物アレルギーと誤診されることが多い。

  • 成人の CVS の特徴

    • 成人では発症が遅く、女性に多い。

    • 頭痛や片頭痛などの神経症状が顕著で、消化器症状を伴う。

    • 消化器専門医に紹介されることが多いが、適切な診療科は神経内科や精神神経科。

    • 成人 CVS 専門の診療施設が不足しているため、小児科で診療を受ける例もある。

  • 治療と管理

    • 予防薬:抗セロトニン薬、新規片頭痛治療薬、抗てんかん薬を使用。

    • 急性期治療:オンダンセトロンなどの制吐薬は有効率50%未満だが、早期投与で発作の短縮が可能。

    • 成人患者では、カンナビノイド嘔吐症候群(CHS)との鑑別が重要。

  • CVS の疫学と診断基準に関する議論

    • CVS の有病率は北米・アジアのデータで約2%とされるが、イタリアには疫学データがない。

    • 1年間の平均発作回数は約4回で、重症例では月1回程度。

    • 15日未満の間隔で嘔吐を繰り返す場合は慢性嘔吐の可能性が高く、CVS の診断基準には当てはまらない。

    • CVS は神経学的および消化器学的側面を持つ疾患であり、診断には神経内科・消化器内科の連携が重要。



Chen, Yaozhu J., Danielle Rodriguez, Camilla A. Richmond, William L. Hasler, David J. Levinthal, B. U. K. Li, Ioannis Petrakis, ほか. 「Symptom Patterns in Adults With Cyclic Vomiting Syndrome: A 6‐Month Prospective Observational Study」. Neurogastroenterology & Motility 37, no. 2 (2025年2月): e14974. https://doi.org/10.1111/nmo.14974.

背景

周期性嘔吐症候群(CVS)は、反復性の定型的な嘔吐、吐き気、および悪心の発作を特徴とする腸–脳相互作用障害であるが、その自然経過や症状のパターンに関するデータは限られている。

方法

本研究は、CVSを有する成人の症状パターンを評価するために、電子日誌を用いた6か月間の観察研究を遠隔で実施した。患者は、CVS症状およびその重症度を含む自身の疾患経験を日誌に記録した。CVS発作の開始は、嘔吐および/または乾嘔(V+R)のイベントが5回以上発生した最初の日と定義した。発作の終了は、日誌にV+Rのイベントが記録されない日が、主要解析では7日以上、感度解析では4日以上継続した最初の日と定義した。

主な結果

登録された93名のうち88名(94.6%)(女性62名、平均年齢37.7歳)が日誌データを記録し、61名(69.3%)が少なくとも1回の発作を経験した。事前に規定された主要解析では、191回の発作(30日間あたりの中央値 0.6回)が報告され、その中央値の持続期間は3.0日であった。17.8%の発作は10日以上持続した。感度解析では、248回の発作(30日間あたりの中央値 0.7回)が報告され、持続期間の中央値は2.0日であった。88名のうち13名(14.8%)は、研究で定義された発作の基準を満たさないV+Rイベント(発作間期V+R)を報告した。その他のCVS関連症状(最も頻繁に報告されたものは悪心、腹痛、発汗)は、発作間期と比較して発作中のほうが頻繁に報告された。

結論と考察

本前向き縦断研究により、CVS発作の大きな異質性が示され、発作の定義と特徴付けの改善が必要であることが明らかになった。

要約

本研究では、周期性嘔吐症候群(CVS)の症状パターンに関する患者報告データを日次で収集した。その結果、発作の定義によって発作回数は異なり、17.8%の発作は10日以上持続し、Rome IVおよびICHDガイドラインで定義される発作期間を超えていた。
現在の臨床ガイドラインでは一貫して認識されていないものの、本研究では発作期間外の嘔吐および乾嘔が14.8%の患者で報告された。
これらの結果は、将来のCVS研究を支援するため、診断基準としての発作定義をエビデンスに基づいて確立する必要性を示している。


序文


  • 疾患の概要

    • CVS は腸–脳相互作用の障害であり、重度の嘔吐と激しい悪心の発作を特徴とする。

    • 発作の間には無症状または軽度の症状の期間がある。

    • 米国の成人における有病率は 2%。

  • CVS の4つのフェーズ

    1. 前駆期(Prodromal/Pre-emetic phase)

    2. 嘔吐期(Emetic phase)

    3. 回復期(Recovery phase)

    4. 間欠期(Interepisodic phase)

  • 患者への影響

    • 健康関連 QOL(HRQoL)の大幅な低下。

    • 医療資源の利用増加(HCRU)。

    • 生産性の低下。

  • 治療の現状

    • CVS に対する承認薬は存在しない。

    • 予防・急性期治療として、以下の薬剤が off-label で使用される。

      • 神経調節薬

      • 片頭痛治療薬

      • 抗てんかん薬

      • 制吐薬(オンダンセトロンなど)

    • 患者は嘔気・嘔吐の緩和目的で大麻を使用することが多い。

    • 未治療の場合、発作頻度や持続時間の増加、あるいは 「融合型 CVS(Coalescent CVS)」 へ進行する可能性がある(発作が週単位で持続し、ほぼ毎日症状が続く)。

  • 診断と課題

    • CVS の診断には 発作の持続時間や間隔 が重要。

    • CVS の症状パターンに関する前向きデータが不足しており、診断基準は 専門家の合意(コンセンサス) に基づいている。

    • 診断基準の違い:

      • Rome IV(2016):「発作持続時間 7日未満」

      • ICHD(2016):「発作持続時間 10日以下」

    • 両ガイドラインとも 「発作間隔 1週間以上」 を診断基準としているが、これを裏付けるエビデンスは不足。

  • 研究の目的

    • 6か月間の前向きデータ収集により、CVS の症状パターンを評価。

    • 臨床的に意味のあるアウトカムを特定し、現在の診断基準と実際の疾患経験とのギャップ を検証する。


結果


2.1 研究対象者

  • 対象者はウィスコンシン医科大学(CVS専門の三次医療機関)の臨床データベース(REDCap)から抽出。

  • 49州の患者を含み、地理的多様性を確保。

  • 選択基準

    • 18歳以上。

    • Rome IV基準を満たすCVS患者(過去6か月で2回以上の嘔吐発作、1週間以上の間隔、1週間未満の持続、特徴的な症状パターン、異常な検査所見なし)。

    • 登録前6か月間、発作頻度が安定している。

  • 除外基準

    • 登録前3か月以内にCVS予防薬の変更あり。

    • 登録前6か月以内のアルコール・薬物乱用歴(大麻を除く)。

  • CVS予防薬、急性期治療薬、大麻使用は許容され、記録された。

  • 50~100名のCVS患者を登録予定(統計目的ではなく、6か月間に2回以上の発作がある患者数を確保するため)。

2.2 研究デザインと評価

  • 研究概要

    • 期間:2021年2月15日~2022年3月7日。

    • 観察研究(前向きコホート研究)。

    • 治療介入なし。

    • スクリーニングおよび終了時の訪問は対面または遠隔で実施可能。

    • 研究用iPhoneを郵送し、電子日誌を用いた遠隔自己報告を実施(対面訪問なし)。

    • 追跡期間は最長6か月間。

  • 遠隔デザインの目的

    • CVSの特性(発作が自宅で発生、来院困難)に対応。

    • 患者の負担を軽減(来院不要)。

    • 長期間のリアルワールドデータを継続収集可能に。

  • 倫理承認

    • ウィスコンシン医科大学で実施(ヘルシンキ宣言に準拠)。

    • IRB承認済み(承認番号 IRB00006380)。

    • 全患者からインフォームド・コンセント取得。

2.3 研究評価

2.3.1 ベースライン評価

  • スクリーニング時に収集

    • 患者背景情報(年齢、性別など)。

    • 病歴(CVSに関連する疾患)。

    • CVS症状の自己報告(以下のリストから選択+自由記述可)。

      • 嘔吐、乾嘔、悪心、腹痛、頭痛、光過敏、音過敏、下痢、発汗、寒暖感。

2.3.2 疾患状態とCVS症状の変化

  • データ収集

    • 研究開始時にiPhoneを提供し、終了時に回収。

    • 使用方法のトレーニングをスクリーニング時に実施。

    • 毎日、前24時間のCVS関連症状を報告。

    • 「いいえ」と回答した場合はそれ以上の質問なし。

    • 「はい」の場合、以下の情報を記録:

      • 経験した症状の種類(スクリーニング時に報告した症状のリストから選択)。

      • 症状の重症度(5段階リッカートスケール:0=なし~4=非常に重度)。

      • 嘔吐・乾嘔の回数、下痢の回数、症状の持続時間(分単位)。

  • CVS発作の定義

    • CVS発作開始:1日に嘔吐・乾嘔(V+R)が5回以上発生した最初の日。

    • CVS発作終了

      • 主要解析:V+Rなしの日が7日以上連続した最初の日(Rome IV基準)。

      • 感度解析:V+Rなしの日が4日以上連続した最初の日(より短い発作間隔の可能性を検討)。

  • 日誌データの分類

    • CVS関連症状日:CVS関連症状を報告した日。

    • CVS日:V+Rが5回以上の日。

    • 非CVS日:V+Rが0~4回の日。

  • 患者報告アウトカム

    • 健康関連QOL(HRQoL)PROMIS-29質問票を週1回実施。

    • 医療資源利用(HCRU):救急外来・入院の記録。

    • 日常生活への影響:病欠など。

    • 大麻使用:過去24時間の使用状況を日誌に記録。

2.3.3 統計解析

  • 解析方法

    • 患者背景、CVS症状、HRQoL、疾患負担(HCRU、日常生活への影響)、大麻使用を記述統計で要約。

    • 各アウトカムの発生頻度を30日あたりのイベント数として算出。

  • 性差の解析

    • t検定:連続変数(群の平均値比較)。

    • カイ二乗検定:カテゴリ変数(群間比較)。


結果


3.1 研究対象者

  • 対象: 28州からの93名がスクリーニングされ、88名が研究に参加。

  • 日誌記録: 6か月間のうち中央値150.0日(IQR: 91.5–169.5)を記録し、85名が少なくとも1日記録を欠いた(欠損中央値32.0日)。

  • 患者特性:

    • 年齢: 平均37.7±14.0歳。

    • 性別: 女性70.5%。

    • 人種: 白人84.1%。

    • CVS罹患期間: 中央値9.7年(範囲0.5–50.1年)。

    • 主な併存疾患:

      • 胃食道逆流症(48.9%)

      • 不安障害(44.3%)

      • うつ病(29.5%)

    • 大麻使用: 29.5%(26/88)。

  • CVS予防薬: 57.6%の患者が使用(単剤39名、2剤併用13名、3剤併用1名)。

3.2 CVS症状

  • スクリーニング時の主な症状(自己申告):

    • 悪心・嘔吐・乾嘔: 100%

    • 発汗: 93.2%

    • 腹痛: 90.9%

    • 寒気・冷感: 78.4%

  • 研究期間中の症状:

    • 悪心: 96.6%

    • 嘔吐+乾嘔(V+R): 86.4%

    • 乾嘔: 77.3%

    • 腹痛: 83.0%

    • 発汗: 77.3%

    • 頭痛: 65.9%

3.3 CVS発作

  • 発作経験者: 69.3%(61/88)が少なくとも1回のCVS発作を経験。

  • 主要解析(発作間隔7日以上):

    • 発作総数191回(中央値: 0.6回/30日)。

    • 発作持続期間中央値: 3.0日(範囲1–83日)。

    • 発作持続日数:

      • <7日: 69.6%

      • 7–10日: 12.6%

      • 10日超: 17.8%(Rome IV/ICHD基準超過)。

  • 感度解析(発作間隔4日以上):

    • 発作総数248回(中央値: 0.7回/30日)。

    • 発作持続期間中央値: 2.0日(範囲1–28日)。

    • 発作持続日数:

      • <7日: 84.7%

      • 7–10日: 9.3%

      • 10日超: 6.0%

  • 発作の特徴:

    • 嘔吐のみの発作: 11.4%

    • 乾嘔のみの発作: 10.2%

    • 発作時のV+Rイベント中央値: 12回/日(範囲5–184.4回)。

3.4 健康関連QOL(HRQoL)

  • エピソード前週:

    • 身体的健康スコア: 44.5±9.9

    • 精神的健康スコア: 43.6±8.9

    • 一般人口(50.0±10.0)と比較して有意に低い。

  • エピソード発生週:

    • 身体的健康スコア: 39.1±9.1

    • 精神的健康スコア: 39.6±7.1

3.5 医療資源利用(HCRU)と日常生活への影響

  • 医療受診:

    • 救急外来受診: 34.4%(61名中21名)

      • うち71.4%が複数回受診。

    • 入院: 21.3%(61名中13名)

  • 日常生活への影響:

    • 日常活動が困難: 93.4%

    • 仕事欠勤: 50.8%(中央値2.0日/30日)

    • 学校欠席: 16.4%(中央値1.3日/30日)

3.6 大麻使用

  • 大麻使用者:

    • 26名(29.5%)がベースラインで使用。

    • 研究期間中に25名が使用継続。

  • 発作との関連:

    • 大麻使用者のうち72.0%(18/25)がCVS発作を経験。

    • CVS日と非CVS日で使用頻度に大きな差なし(60.2% vs. 60.0%)。

    • ただし、CVS日のほうが1日あたりの使用回数がやや多い(3.8回 vs. 3.2回)。


Discussion要約

研究の意義

  • 本研究はCVSにおいて初の前向き縦断研究であり、遠隔デザインで日次患者データを収集。

  • 研究対象者は女性と白人が多い傾向があり、過去のCVSの後ろ向き研究や症例報告と一致。

CVS発作の定義と課題

  • 嘔吐(V)+ 乾嘔(R)を組み合わせた定義を採用:

    • V+Rの中央値: 嘔吐8回、乾嘔6.5回、合計12回/日。

    • 乾嘔は嘔吐とは独立した負担要因であり、臨床での認識が不足している可能性。

  • 発作数は定義により変動:

    • **Rome IV基準(発作間隔7日以上)**では191回の発作(中央値0.6回/30日)。

      • **69.6%**の発作がRome IVの7日未満基準を満たす。

      • **17.8%**の発作は10日超で、既存の診断基準を超過。

    • 感度解析(発作間隔4日以上)では、発作数は191回→248回に増加し、最大持続期間は83日→28日に短縮

    • 発作期間の厳密な定義がCVSの過小診断や誤分類を招く可能性。

発作間期症状と診断基準の課題

  • 28.4%の患者が発作定義外でCVS関連症状を報告(V+R含む)。

  • 発作間期のV+Rは14.8%の患者で観察され、急性期治療薬が発作のパターンを変化させた可能性。

  • Rome IVでは発作間期の症状を認識するが、ICHD基準では発作間の完全な無症状が前提

診断基準の改善の必要性

  • 本研究では発作開始をV+Rが5回以上の日と定義したが、一部の患者は前駆症状があるが5回未満のV+Rで発作にカウントされない可能性

  • 診断基準に基づく発作の開始・終了定義の見直しが必要:

    • 発作終了の定義を「V+Rの完全消失」ではなく、「V+Rの顕著な減少」に変更する可能性。

    • CVSと慢性嘔吐の区別を維持することが重要

CVSの疾患負担

  • CVSはHRQoL(健康関連QOL)の低下と関連:

    • 発作週のHRQoLスコア(身体的39.1/精神的39.6)は、一般人口(50.0)と比較して有意に低下。

    • 発作がない期間でもQOLは低下しており、CVSの慢性的な影響が示唆される。

  • 日常生活と医療利用への影響:

    • 21.3%の患者が入院を経験

    • 93.4%が日常活動の制限を報告(平均4.7日/30日)。

    • 仕事欠勤: 50.8%、学校欠席: 16.4%。

大麻使用とCVS

  • 29.5%の患者が大麻を使用(過去の研究と一致)。

  • 発作を経験した18名の大麻使用者の60%が大麻を使用(CVS日と非CVS日で差なし)。

  • 使用頻度はCVS日の方がやや多い(3.8回/日 vs. 3.2回/日)。

  • カンナビノイド過敏症候群(CHS)との関連は不明:

    • 1日に3回以上使用する患者もおり、CHSの可能性あり。

    • 用量や投与方法の詳細データは収集されておらず、さらなる研究が必要。

研究の限界と今後の課題

  • 単一の三次医療機関の患者が対象であり、紹介バイアスの可能性。

  • CVSの既存治療が発作の頻度・重症度に影響した可能性:

    • 非介入研究のため、予防薬や急性期治療薬(オンダンセトロン、トリプタンなど)の使用は許可された。

  • CVSの診断基準と管理ガイドラインの改訂が求められる:

    • 証拠に基づく発作定義の確立(発作開始・終了の閾値)。

    • 発作間期の疾患負担の考慮。

    • 診断と管理の標準化に向けたガイドラインの調整が必要。



周期性嘔吐症候群(CVS)の診断基準

CVSの診断基準は、主にRome IV基準(消化管機能障害の診断基準)と国際頭痛分類(ICHD)基準で定義されています。


1. Rome IV 診断基準(2016)

成人におけるCVSの診断基準(小児の場合は別途基準あり)

以下のすべてを満たすこと:

  1. 過去6か月間に2回以上の嘔吐発作がある

  2. 発作は1週間以上の間隔で発生し、それぞれの発作は1週間未満で自然に解消する

  3. 発作の臨床パターンが一貫しており、特徴的である(例:朝に始まり、同じ誘因で誘発される)。

  4. 嘔吐を説明できる明らかな器質的疾患(消化管、神経疾患など)がない

補足事項

  • Rome IVでは、発作間期(発作と発作の間の期間)には通常完全寛解または**軽微な症状(例:軽度の悪心)**があることを想定。

  • 胃食道逆流症(GERD)や胃排出遅延(GP)と併存する場合があるため、器質的疾患の除外が重要。


2. 国際頭痛分類(ICHD-3, 2018)

ICHDではCVSを「周期性嘔吐症候群(7.6.1)」として分類し、片頭痛関連疾患の一部として定義

ICHD-3におけるCVSの診断基準

すべてを満たすこと:

  1. 激しい悪心・嘔吐を伴う発作が3回以上発生している

  2. 発作は数時間~10日間持続する

  3. 発作の間は症状が完全に消失する(無症状期間がある)。

  4. 誘因が共通することが多い(例:ストレス、特定の食事、睡眠不足)。

  5. その他の消化器疾患、中枢神経疾患、代謝性疾患などが除外されている

補足事項

  • ICHDでは、CVSの発作間には完全な無症状であることが前提。

  • ICHDは主に小児CVSに適用されることが多いが、成人でも使用可能。


3. CVSの診断基準における課題

発作間期の症状に関するRome IVとICHDの違い

  • Rome IV → 「発作間期に軽度の症状を認める可能性あり」

  • ICHD → 「発作間は完全に無症状であること」

→ 発作間期に軽い悪心や消化器症状を認める患者はRome IVで診断できても、ICHD基準では診断されない可能性がある。

発作期間の違い

  • Rome IV → 7日未満が基準

  • ICHD → 10日以下が基準

  • 本研究では: 17.8%の発作が10日以上続き、どちらの基準にも当てはまらなかった → 診断基準の見直しが必要な可能性あり


4. CVSの診断における補助検査

CVSは臨床診断が基本ですが、器質的疾患を除外するために以下の検査が実施されることがあります。

(1) 血液検査

  • 電解質異常(長期の嘔吐による低カリウム血症など)

  • 代謝異常(高アンモニア血症、ミトコンドリア異常のスクリーニング)

(2) 画像検査

  • 上部消化管内視鏡検査 → 消化管の異常(潰瘍、炎症、閉塞など)の除外

  • 腹部超音波・CT → 消化管閉塞、胆石、膵炎の除外

(3) 神経学的評価

  • 脳MRI → 脳腫瘍や髄膜炎などの中枢神経疾患を除外

  • 脳波(EEG) → てんかん関連嘔吐を除外

(4) 胃排出検査

  • 胃排出シンチグラフィー → 胃の排出遅延(胃不全麻痺)の評価

(5) 大麻使用歴の評価

  • **カンナビノイド過敏症候群(CHS)**との鑑別が必要 → 大麻使用歴を問診で確認。



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