見出し画像

COPDにおけるβ遮断薬の使用: 紆余曲折

メトプロロールやビソプロロールと、カルベジロールの違いを実際の臨床ではよく認識する必要がある。

喘息では、以下の項目があるのがカルベジロール

禁忌(次の患者には投与しないこと) 1.2.1 気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者[気管支筋を収縮させることがあるので喘息症状の誘発、悪化を起こすおそれがある。]

今回はCOPDにおけるβ遮断剤使用について
合併心疾患との関連で使用適否は簡単でない

Lipworth, Brian J., とGraham Devereux. 「Use of β-Blockers in COPD: The Long and Winding Road」. CHEST 167, no. 1 (2025年1月1日): 37–39. https://doi.org/10.1016/j.chest.2024.07.163.

略語

  • BICS (Bisoprolol in COPD Study)

  • BLOCK COPD (Beta-Blockers for the Prevention of Acute Exacerbations of COPD)

  • LAMA (long-acting muscarinic antagonist, 長時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬)

βアドレナリン受容体拮抗薬(β遮断薬)は、心不全や急性冠症候群などの心血管疾患治療に非常に効果的な薬剤であり、これらは喫煙によるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の合併症として一般的に発生する。しかし、β遮断薬は気道β2受容体拮抗による気管支収縮の懸念から、COPDと心不全を併発する患者では使用が控えられる傾向にある。

カルディオセレクティブβ遮断薬
心臓選択的β遮断薬(例:メトプロロールやビソプロロール)は、β1受容体に対して優先的に拮抗作用を持つため、非選択的遮断薬(例:カルベジロール)に比べて気管支収縮や末梢血管収縮、高血糖、高脂血症といった副作用を軽減する可能性がある。特にビソプロロールは、メトプロロールに比べてβ1:β2選択性が高く、用量依存的なβ2受容体遮断作用が少ない。一方で、β2受容体は心臓の受容体の約40%を占めるため、非選択的薬剤(カルベジロールなど)は理論的にはより強力な心血管保護作用を持つ可能性がある。

ビソプロロールとカルベジロールの比較試験
COPD患者を対象とした無作為化比較試験では、ビソプロロール(5mg/日)とカルベジロール(12.5mg/日)が比較され、いずれも吸入療法(ベクロメタゾン/ホルモテロール/チオトロピウムを含む)と併用された。いずれの薬剤も、吸入三剤併用療法下ではFEV1(1秒量)の有意な低下を引き起こさなかったが、カルベジロールのみが特定の吸入薬併用でFEV1の低下を示した。別の試験では、ビソプロロールがCOPD患者の呼吸機能や運動能力に有意な影響を与えなかったことが報告されている。

長時間作用型ムスカリン拮抗薬(LAMA)の保護効果
LAMAは、β2受容体遮断による気管支収縮を抑制する作用があり、特にCOPD患者での保護的な役割が示されている。

観察研究とCOPDにおけるβ遮断薬の効果
スコットランドの観察研究では、COPD患者におけるβ遮断薬使用が全死亡リスクを22%減少させ、COPDによる入院を大幅に減少させた。メタアナリシスでも、全死亡リスクの28%減少およびCOPD悪化の37%減少が確認されている。

無作為化比較試験(BLOCK COPDとBICS)

  • BLOCK COPD試験:メトプロロール(25~100mg/日)を使用。COPD悪化に対する効果は確認されず、むしろ入院リスクが増加。試験は有効性が確認できず中止された。

  • BICS試験:ビソプロロール(1.25~5mg/日)を使用。COVID-19パンデミックの影響で中止されたが、COPD悪化リスクに有意差は見られなかった。

結論
β遮断薬はCOPD悪化リスクを低減することはないが、心血管疾患治療において安全に使用できる。重症COPDや悪化頻度の高い患者には、選択性の高いビソプロロールが適している可能性がある。β遮断薬の使用時には、LAMAを含む吸入療法の併用が推奨される。


いいなと思ったら応援しよう!